ドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』で感じる、深夜ドラマの“余白”の心地よさ

2020.1.20

文=早川大輝 編集=鈴木 梢


あなたは自分が好きなものに対する思い入れや愛に、絶対的な自信があるだろうか。ライターの早川大輝は、自身の記憶と表現を守るためにメモを残している。特に、テレビドラマにおいて。

この連載「忘れたくない僕のテレビドラマ記録ノート」では、早川自身が「なぜメモを残したのか」を考えるために、ドラマの中で心が動いた瞬間を振り返っていく。今回取り上げるのは、『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』といった数々の人気ドラマの脚本を手がけた野木亜紀子の新ドラマ、『コタキ兄弟と四苦八苦』だ。


メモ魔としてのドラマ観賞スタイル

画面をじっと凝視し、手元のスマートフォンに時折メモをしながら作品を観る。これは、テレビドラマを観るときの筆者のスタイルだ。

たとえば、野木亜希子さん脚本の『獣になれない私たち』に関するノートでは、新垣結衣さん演じる晶の、「指の動きだけ」を追った奇妙なメモがある。特に1話、人生に立ち止まった晶の迷いや孤独といった感情表現が指先で行なわれていたように思い、メモを始めたら予想以上に指に関する描写が多く、楽しくなってしまった。そのほか、坂元裕二さん脚本のドラマだと、印象的なセリフが多すぎて、結果的にセリフの全文書き起こしになることも。

この観賞スタイルになった理由は、人間の記憶をあまり信用していないことにある。よく、「本当に良いと思ったものは自然と覚えている」なんて言葉を聞くが、僕はこの言葉にはまったく共感ができない。これを正としてしまうと、「忘れてしまったということは、大したことなかったんだよ」も成立してしまうからだ。形は問わずすべての表現は、ずっと覚えていることなんてできない。それでも、忘れてしまったからといって、「あのとき確かに自分の心を動かした表現」を無かったことにはしたくない。できうる限り鮮明にメモを残すことが、自分にとって大切な、記憶と表現を守ることに繋がるのだ。

この連載では、僕が「なぜメモを残したのか」を考えるために、ドラマの中で心が動いた瞬間を振り返っていく。

『コタキ兄弟と四苦八苦』が描く人間

『コタキ兄弟と四苦八苦』は、真面目過ぎる兄・一路(古舘寛治)と、ちゃらんぽらんな弟・二路(滝藤賢一)の二人が、「レンタルおやじ」として依頼人からの無茶なお願いに応えていく人間賛歌コメディだ。

今回の脚本は、古舘寛治さんと滝藤賢一さんへの当て書きなので、二人が兄弟の役にぴったりハマってるのは言うまでもない。しかしそれ以上に、過剰になりすぎない丁寧な人物描写に心惹かれた。

例えば、喫茶シャバダバの店員・さっちゃん(芳根京子)が気になる一路は、コーヒー1杯のためにお店に通う日々だ。洋書を読みつつも、さっちゃんの動向ばかり目で追っていることから、もしかしたら好んで洋書を読んでいるわけではないのかもしれない。一路の部屋の本棚に並ぶのは「現代用語の基礎知識」や法律関係の本ばかり。シャバダバで読んでいた本以外に洋書は見当たらなかった。そこまでの熱意があるのに、さっちゃんとの会話は会計時に絞り出した要領を得ない会話のみ。それですら本人にとって「過去最高クラスに会話が弾んだ出来事」なわけで、よほどの奥手ということが分かる。

こうした細かい人物描写は連ドラの醍醐味だ。僕はいつも、登場人物の小さな人間性の欠片をメモという形で拾い集める。そうすることで、画面上に平面で映っていたキャラクターが立ちあがってくるような。ドラマの世界が、リアルの世界と地続きになる気がして、それがたまらなく嬉しくなる。


深夜に観たいのは「余白」のあるドラマ

「レンタルおやじ」をテーマに据えるのが絶妙だなと感じたのは、1話の依頼主である鈴木静子(市川実日子)のセリフ。

「常識の範囲のことなら、友達に頼んでる。違うから、無関係の人に頼んでるの」

そこには、「見ず知らずのおじさんだからこそ頼んでいる」という強い意思や、「誰でもいいから助けてほしい」といった、依頼主の孤独な願いがある。赤の他人にお金を払ってまでお願いすることなんて、自分の人生では想像がつかない。でも、赤の他人にすがらなければならない人たちには、その人なりの理由がきっとある。そんな人たちが、どこかに確かに存在するのかもしれないと思わされた。

そう考えると、「レンタル」という後腐れのない関係性のちょうど良さが引き立ってくる。兄弟があくまで「レンタルおやじ」として依頼人と関わるからか、依頼人のその後については明かされなかった。結末を描かず、視聴者の想像に任せる形は、ドラマに余白を生んでいるように感じた。もちろん、これは結末が重要ではない作品だからこそ、できることでもある。終わったあとに、「ふう」と息を吐き、寝るまでのほんのひと間、ドラマの世界に浸れるような余白があるドラマが増えるといい。そんなドラマこそが、深夜にぴったりなドラマだと思う。


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早川大輝

(はやかわ・だいき)92年生まれ。WEB系編集プロダクションを経て、フリーの編集者/ライターとして独立。生粋のテレビドラマっ子であり、メモ魔。インタビュー記事の企画と編集、たまに執筆をしています。

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