アイドル業界の「労働問題」
こうした複雑な状況のなか、今回『ABEMA Prime』に出演させていただくにあたって、どういったお話をしたらいいのだろうか。予習として『地下アイドルの法律相談』(深井剛志、姫乃たま、西島大介/日本加除出版)という本を拝読しました。お友達でもある姫乃ちゃんがコラムを書いてらっしゃるこちらの御本は、法律的にも気持ちの上でもアイドルに寄り添って書いてくださっている、とても優しい本だなと感じました。
「地下アイドルの闇!」などとおもしろおかしく煽ることなく、丁寧に誠実に、アイドル業界の抱える問題を「労働問題」と捉えてくださっていて、それってすなわちアイドルを「仕事」だと認めていただいていることの表れな気がして、こういった立場に立ってくださる本を読むのは初めてだったので、すごくうれしかったのです。
最後に法テラスなどの相談機関一覧がまとまっていることにもすごく感激しました。
「被害者」であったはずのアイドル側が「運営と揉めてる子」に
この本の内容も踏まえ、番組内で「アイドルの労働組合があったらいいのに」なんていうお話も出ましたが、本当に、アイドルが活動上の問題を相談できる場所があったらいいなと私はずっと思っています。
活動を始めたころはどなたに相談していいのかわからず、身近な人を頼りがちですが、身近であるがゆえに、相談内容が先方に筒抜けでよけいにこじれてしまい、怖い思いをすることも。
また、相談した相手のほうが法律に詳しいとは限らないので、間違った知識を与えられたり、「みんな我慢してるよ」、「そんなの普通だよ」などと言われて、では我慢できない自分がいけないのか、とよけいに悩んでしまうこともあります。
さらには、おもしろ半分で「トラブルも全部エンタメに昇華しよう」などと仕掛けられた炎上商法に巻き込まれてしまうと、「被害者」であったはずのアイドル側が、「運営と揉めてる子」「どっちもどっちだよね」といった見られ方に変わってしまい、本人がすごく損をしてしまうことも。
どうしていいかわからず最後の手段のつもりでSNSに暴露してしまったことで、想像以上に拡散され、本人の真意が伝わらないまま炎上状態になってしまうこともあります。どれも、相談相手を間違えず、正しい手順で対処していれば起こらなかった悲劇です。
アイドルが背負うさまざまなジレンマ
とはいえ、法律に詳しい人に聞いてみよう、と思って弁護士に相談に行こうにも、そのお金すらない、というところで悩む声を聞きます。金銭面のハードルをクリアできたとしても、弁護士の方が全員、地下アイドル文化やライブアイドル文化に詳しい方ばかりではありませんので、「そんな危ないところ辞めたほうがいい」とか、「アイドル活動よりも身の安全や心身の健康を優先したほうがいい」という、本当に、客観的で的確な「そのとおり過ぎる!」というアドバイスをいただいたりして……。
だけどその子がどうして、そんなにもつらい思いをしながら地下アイドルをやっているかと考えたときに、たとえばそれが、メジャーアイドルのオーディションには落ちてしまったから、という理由だったら? 何度も挑戦し、全然受からなかった自分が「ここでならやっとアイドルになれた」という経験から「ここを失ったらすべてが終わる」と思い詰めてしまい、我慢しすぎてしまう。
そういう子が「健康のために辞めたら」と言われても、なかなか「はい」とは言えないと思いますし、裁判などを勧められても、「裁判を抱えているアイドルとして自分の名前が世に出たら今後の活動に支障が出るかもしれない」という恐怖から、なかなか踏み切れないこともあると思います。アイドルへの気持ちが強い子ほど声を上げづらい状況は、私はすごくつらいです。
そして何より、ファンに心配をかけたくないという気持ち。事務所を辞めたら、ここまで支えてくれたファンにも会えなくなってしまうという恐怖。
さまざまな要因から、いきなり弁護士事務所のドアを叩くのはどうしてもハードルが高いので、もっとラフに、でも真剣に、相談できる窓口があったらいいなと思っています。
アイドル本人の心身の健康、安全な活動環境を確保し、志のある子が長くつづけられるようにしたい。かけている時間や労力に対してあまりにも理不尽に「稼げない」状況だと、成人してからも「仕事」としてつづけていくことを迷ってしまう方が増えてしまうと思うのです。
私が考えている「窓口」が、そのような迷いを持っているアイドルの助けになればいいなと思っています。