超常的存在と対峙した人間の恐怖を描くジャンル「コズミックホラー」として紹介されることの多い『惑星クローゼット』(全4巻)。
漫画評論家の足立守正は本作を「キラキラ」で「冷酷非情」、そして「愛らしい丸みを帯びた」作品だという。いったいどんな作品なのだろうか。
※本記事は、2020年6月26日に発売された『クイック・ジャパン』vol.150掲載のコラムを転載したものです。
キラキラでまるまっちい高品質の悪夢
疫病が流行ったら描いて拝むがよいと伝わるUMA(未確認生物)・アマビエが、ウィルス禍で大人気。それはクリエイターたちの腕をも奮わせ、さまざまにリメイクされた画像が披露されたが、不思議なもんで魔力は薄まって見えた。江戸時代後期、最初にアマビエを描いた肥後の役人の絵心のなさは、それ故に未確認なものの迫力を、見る者に等しく体験させた。そのモヤモヤが魔力の源に違いない。だから、続くライブ中止を憂えた鮎川誠によるアマビエが、最も光っていた。渇望の末、再度アマビエを目撃してしまった人の筆致だよ、あれは。
全4巻での見事な完結を見せた『惑星クローゼット』冒頭にもUMAが登場し、話が動きだす。道沿いの水路の流れに、なにやらヘビのようなものを見たと、ザワつく下校途中の中学生たち。目を凝らす一同の前に、果たして現れたその姿、これがまったくヘビに見えない。ヘビほど特徴のある動物もないでしょ、とモヤモヤする。ここが、この作品の素晴らしいところで、「未確認」なものの扱いを心得ている。
本作は、主人公のアイミが、夢の中でなんども出逢う少女「フレア」と友情を育み、彼女を軟禁している夢の世界から現実世界へ連れ戻すため奮闘する冒険奇譚。アイミの推理や作戦は理論的ではなく、肌感覚で突っ走る。しかし、立ちはだかる存在も人知を超えたわけのわからなさなので、勝負は互角、ついにはもつれた謎がほどけはじめる。ゴール寸前の目の回りそうな大回収には、ほれぼれとした。
とか書いておいて、俺だって完全に読了した気分はないよ。モヤモヤの余韻に一息入れたら、まもなく残ったもつれ目をほどくために再度ページをめくるのだ。
手触りとしては、SF映画『メッセージ』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)を連想するのだけれど、どうか。「コズミックホラー」とのキャッチで紹介されることもままあったが、語感が本来の意味からズレて、キラキラの星空を感じさせるのも、つばなの作風の強さだ。冷徹非情な物語の圧にビクともしない、愛らしい丸みを帯びている。
コロッとした体型の健気な少女たちは、ホラーに遭遇しても、合間に「あはは」と呑気に笑ってしまう。こと平素であれば、それはこぼれるように笑うのだ。そして、例えば美少女の顔がゴムみたいに変形し、幼い女の子を「コッコッココ、ルルズヒヒ…、ぷんっ」と音をたててすすり込む、どえらくグロい場面にさえ、俺のASMRは作動しっぱなしだったのだ。
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