監督シュルツは、ドランの後継者のような才能の持ち主
『WAVES/ウェイブス』におけるシュルツの音楽の使い方は、物語や登場人物たちの感情、その場面の空気感にぴったりと合わせたものだ。そのため、どの場面においても音楽はエモーションやムードを説明し、強調し、増幅させる機能を持っている。
一番わかりやすいのはタイラー・ザ・クリエイターの「IFHY (Feat. Pharrell)」を用いたシーンで、そこで「IFHY」のリリックは、自室で苛立ち憤る(登場人物の)タイラーの感情を代弁している。カメラはハリソン・ジュニアのアクションを捉えるばかりだが、映画にはどうやっても映らないエモーションを音楽が説明するのだ(映画は感情を撮ることができない、という黒沢清の持論を思い出す)。
ある意味ではベタでわかりやすいシュルツの音楽の使い方は、グザヴィエ・ドランのそれによく似ている。特に『Mommy/マミー』(2014年)の、オアシスの「Wonderwall」が使われたあの場面を思い出してほしい。『WAVES/ウェイブス』は『Mommy/マミー』があのシーンでやったことを、映画を丸々1本使って表現している、とも言える。
『Mommy/マミー』のあのシーンにはさらに、画面アスペクト比が1:1の正方形から約2:1のビスタサイズに押し広げられるエモーショナルな演出があった。シュルツも『WAVES/ウェイブス』で複数のアスペクト比を用いていて、物語や登場人物の感情に合わせてどんどん画面の大きさを変えていく。アメリカンビスタ(1.85:1)、シネマスコープに近い横長(2.40:1)、シネスコ以上の横長(2.66:1)、スタンダード(1.33:1)と、なんと4つ(!)のサイズをひとつの映画のうちで使っている。これも前代未聞の試みだろう。
シュルツはドランの後継者のような才能の持ち主だ。それだけに留まらず、シュルツはドランのエモーショナルなベタさや彼の方法を過剰に推し進めて、新しい映画表現を模索している映画作家だと言える。
映画とは、究極的にはモノクロの画面とサイレントで成り立つものなのかもしれない。しかし、『WAVES/ウェイブス』は深い部分で映像や物語、感情が音楽と絡まり合い、混ざり合い、溶け合ってしまっている。音楽と不可分な映画なのだ。
だからこそ、映画のエンディングでアラバマ・シェイクスの「Sound & Color」が流れるのは必然であり、それこそがシュルツの意図したところだと感じる。「Sound and color with me, in my mind / Life in sound and color…」。このラインの主語は、まちがいなく『WAVES/ウェイブス』という映画だ。私はサウンド(音楽)とカラー(映像)が一緒になった存在なのだ、と『WAVES/ウェイブス』は観客に語りかける。
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映画『WAVES/ウェイブス』
2020年7月10日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
原題:WAVES
監督・脚本:トレイ・エドワード・シュルツ
出演:ケルヴィン・ハリソン・ジュニア、テイラー・ラッセル、スターリング・K・ブラウン、レネー・エリス・ゴールズベリー、ルーカス・ヘッジズ、アレクサ・デミー
音楽:トレント・レズナー&アッティカス・ロス
配給:ファントム・フィルム
(c)2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.関連リンク
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