ウディ・アレンのマスターピース誕生!映画の奇跡がニューヨークに舞い降りる

2020.7.3

1935年生まれの老匠による正真正銘の王道娯楽作

誰よりもニューヨークを知り尽くしているはずの映画人、ウディ・アレンはここで、通好みのニューヨークではなく、訪れたことがない人でさえ周知の観光スポットを、これでもか!というほど連打する。メトロポリタン美術館、セントラル・パーク、グリニッジ・ヴィレッジ、そしてホテル・カーライルのベメルマンズ・バー……。「憧れ」というフレーバーを、どこまでも気取ることなく、カジュアルに振りかける。この、あくまでも低姿勢の魔法アプローチは、極めてアクチュアルだ。実はあとに残るのは、大げさな夢ではなく、等身大のミラクルなのである。

メトロポリタン美術館を訪れるギャツビーとチャン(セレーナ・ゴメス)

パリと並ぶ映画の都ニューヨークの魔法を、ここまで奇を衒わず駆使したことが、ウディ・アレンのキャリアにはなかった。彼のキャリアを代表する1本、モノクロームの名作『マンハッタン』には、私小説風の愛すべき香りがあり、それは小粋なブンガクとしてのサブカルチャーたり得てもいた。しかし、ここでは堂々とベタなロマンティック・コメディのために、ニューヨークが捧げられている。わかる人だけがわかればいいというアートではなく、誰もがうっとりするような王道が、媚びることなく闊歩している。

起死回生どころの騒ぎではない。ここまで振り切った正真正銘の娯楽を、映画史に献上しているウディ・アレンは予測できなかった。これは、紛れもなくこの映画作家のマスターピースだ。1935年生まれの老匠が、ここにきて映画人生最良の作をものにするとは!

映画の都ニューヨークを舞台にしたからこそ舞い降りた奇跡

映画の中でしか出逢えないニューヨーク。「スクリーン都市」と呼んでもいいその情景を、老若男女を陶酔させる語り口で、このメディアにふさわしいカタチでパッケージした本作。2017年撮影。自身のスキャンダルにも、ウイルスにも邪魔されず、ギリギリのタイミングでカメラに収めたことも奇跡と呼ぶよりほかはない。

そして、そもそも撮影行為そのものが奇跡だったのだと思い知ることにもなる。

撮影現場でのウディ・アレンとティモシー・シャラメとセレーナ・ゴメス

ティモシー・シャラメ、エル・ファニング、セレーナ・ゴメスという若々しい面々を迎え、最前線のエンタテインメントを真っすぐに提示している点も清々しい。

人生は思いどおりにはいかない。だが、それでも生きる価値がある。

それを、あくまでも若者たちの物語として、映画の都を舞台に全面展開したからこそ、ラストには、奇跡が舞い降りる。その奇跡は、ありふれた奇跡かもしれない。だけど、私たちが、今、一番見たかった奇跡なのだ。

私たちは、見通しの立たない時代を生きている。再び銀幕で映画を享受できるようになって、まだ間もない。だからこそ、『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』は、「雨上がりの幸福」を教えてくれる。

映画は、未だ夢であり、魔法であり、奇跡なのだということを、2020年に実証した一作。今、スクリーンで観ることにこそ、意味がある。

この記事の画像(全20枚)



  • 映画『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』

    2020年7月3日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
    原題:A Rainy Day in New York
    監督・脚本:ウディ・アレン
    出演:ティモシー・シャラメ、エル・ファニング、セレーナ・ゴメス、ジュード・ロウ、ディエゴ・ルナ、リーヴ・シュレイバー
    配給:ロングライド

    関連リンク


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

kogawa_quickjournal_main

アメリカは燃えている――“BLACK LIVES MATTER”と“I Can’t Breathe”とCovid-19(粉川哲夫)

『梨泰院クラス』『愛の不時着』に見た、何がなんでも楽しませるという韓国エンタメの真骨頂

海外ドラマ『モダン・ラブ』

2020年の海外ドラマ、まずはこれ!海外ドラマ歴40年の専門家が推薦

ケビンス×そいつどいつ

ケビンス×そいつどいつが考える「チョキピース」の最適ツッコミ? 東京はお笑いの全部の要素が混ざる

「VTuberのママになりたい」現代美術家兼イラストレーターとして廣瀬祥子が目指すアートの外に開かれた表現

「VTuberのママになりたい」現代美術家兼イラストレーターの廣瀬祥子が目指すアートの外に開かれた表現

パンプキンポテトフライが初の冠ロケ番組で警察からの逃避行!?谷「AVみたいな設定やん」【『容疑者☆パンプキンポテトフライ』収録密着レポート】

フースーヤ×天才ピアニスト【よしもと漫才劇場10周年企画】

フースーヤ×天才ピアニスト、それぞれのライブの作り方「もうお笑いはええ」「権力誇示」【よしもと漫才劇場10周年企画】

『FNS歌謡祭』で示した“ライブアイドル”としての証明。実力の限界へ挑み続けた先にある、Devil ANTHEM.の現在地

『Quick Japan』vol.180

粗品が「今おもろいことのすべて」を語る『Quick Japan』vol.180表紙ビジュアル解禁!50Pの徹底特集

『Quick Japan』vol.181(2025年12月10日発売)表紙/撮影=ティム・ギャロ

STARGLOW、65ページ総力特集!バックカバー特集はフースーヤ×天才ピアニスト&SPカバーはニジガク【Quick Japan vol.181コンテンツ紹介】