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1935年生まれの老匠による正真正銘の王道娯楽作
誰よりもニューヨークを知り尽くしているはずの映画人、ウディ・アレンはここで、通好みのニューヨークではなく、訪れたことがない人でさえ周知の観光スポットを、これでもか!というほど連打する。メトロポリタン美術館、セントラル・パーク、グリニッジ・ヴィレッジ、そしてホテル・カーライルのベメルマンズ・バー……。「憧れ」というフレーバーを、どこまでも気取ることなく、カジュアルに振りかける。この、あくまでも低姿勢の魔法アプローチは、極めてアクチュアルだ。実はあとに残るのは、大げさな夢ではなく、等身大のミラクルなのである。
パリと並ぶ映画の都ニューヨークの魔法を、ここまで奇を衒わず駆使したことが、ウディ・アレンのキャリアにはなかった。彼のキャリアを代表する1本、モノクロームの名作『マンハッタン』には、私小説風の愛すべき香りがあり、それは小粋なブンガクとしてのサブカルチャーたり得てもいた。しかし、ここでは堂々とベタなロマンティック・コメディのために、ニューヨークが捧げられている。わかる人だけがわかればいいというアートではなく、誰もがうっとりするような王道が、媚びることなく闊歩している。
起死回生どころの騒ぎではない。ここまで振り切った正真正銘の娯楽を、映画史に献上しているウディ・アレンは予測できなかった。これは、紛れもなくこの映画作家のマスターピースだ。1935年生まれの老匠が、ここにきて映画人生最良の作をものにするとは!
映画の都ニューヨークを舞台にしたからこそ舞い降りた奇跡
映画の中でしか出逢えないニューヨーク。「スクリーン都市」と呼んでもいいその情景を、老若男女を陶酔させる語り口で、このメディアにふさわしいカタチでパッケージした本作。2017年撮影。自身のスキャンダルにも、ウイルスにも邪魔されず、ギリギリのタイミングでカメラに収めたことも奇跡と呼ぶよりほかはない。
そして、そもそも撮影行為そのものが奇跡だったのだと思い知ることにもなる。
ティモシー・シャラメ、エル・ファニング、セレーナ・ゴメスという若々しい面々を迎え、最前線のエンタテインメントを真っすぐに提示している点も清々しい。
人生は思いどおりにはいかない。だが、それでも生きる価値がある。
それを、あくまでも若者たちの物語として、映画の都を舞台に全面展開したからこそ、ラストには、奇跡が舞い降りる。その奇跡は、ありふれた奇跡かもしれない。だけど、私たちが、今、一番見たかった奇跡なのだ。
私たちは、見通しの立たない時代を生きている。再び銀幕で映画を享受できるようになって、まだ間もない。だからこそ、『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』は、「雨上がりの幸福」を教えてくれる。
映画は、未だ夢であり、魔法であり、奇跡なのだということを、2020年に実証した一作。今、スクリーンで観ることにこそ、意味がある。
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映画『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』
2020年7月3日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
原題:A Rainy Day in New York
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ティモシー・シャラメ、エル・ファニング、セレーナ・ゴメス、ジュード・ロウ、ディエゴ・ルナ、リーヴ・シュレイバー
配給:ロングライド関連リンク
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