でんぱ組.incは「アイドルには何ができるのか」という問いに貴重で重要な答えを出そうとしている(佐々木敦)

2020.7.7


でんぱ組.incのパフォーマンスの背後にある努力と鍛錬

私はあまりにも「形而上学的、魔法」が好き過ぎて、一時はYouTubeのMVを毎日ヘビロテしているほどだった。当然、私は同曲がライブででんぱ組.incによって歌われる映像、それから楽曲提供者である諭吉佳作/men自身が同曲を歌う映像がものすごく観たかった。私は今のところアイドルの「現場」には行かないので動画アップに頼るしかないのである。そしてそんなふたつの願いが同時に叶えられる日がコロナのさなかにやってきた。2020年4月18日に、2019年12月7日の『幕張ジャンボリーコンサート』を収録した映像商品からのクリップとして、でんぱ組.inc with 諭吉佳作/menによる「形而上学的、魔法」のライブ映像がアップされたのである。

でんぱ組.inc「形而上学的、魔法(with 諭吉佳作/men)」Live Movie from「幕張ジャンボリーコンサート」

実はでんぱ組.incだけのライブ映像は以前にも違法アップロードされていたのだが、それを観たときは「うーむ、歌えてるか歌えてないかでいうと、その中間?」くらいの感想だった。ところが幕張のライブでは、メンバー全員の歌唱力、表現力が尋常でなく上がっており、私はその背後にどれほどの努力と鍛錬があったかに思いをめぐらせ、感動した。もちろん諭吉さんの堂々たるパフォーマンスにも震撼させられた。というわけで私はその動画もヘビロテをつづけ、結局、Blu-rayを購入してしまった。躓(つまず)きの石である。

多くの人々を勇気づける存在になっていた

「形而上学的、魔法」のライブ動画を発見したときに、その直前にでんぱ組.incが突然、新曲を発表していたことを知った。企画からたった8日間でミュージックビデオの完成にまで至ったという、全編テレワークによる「なんと!世界公認 引きこもり!」である。いまコピペしてもスゴい曲名だが、なんの気なしに再生してみた私は、曲/動画が終わった2分20秒後には、なんと号泣していた。

MVの途中に、もふくちゃんがこの企画を発案して皆に送ったツイートの文面が画面に登場する。今、この文章を書いているのは6月22日だが、約2カ月前のあのころ、緊急事態宣言が発令されてからまだ日が浅く、家から出(られ)ない日々には、これからどうなるかわからない不安が暗い影を落としていた。それを「引きこもり」が「世界公認」されたのだと逆手に取り(作詞は前山田健一)、明るく愉しく元気いっぱいに、だが実際にはそれぞれの自宅にこもったままで歌ってくれたでんぱ組.incの6人のことを、私は好きにならずにいられなかった。実を言えば私自身はそれほど不安ではなかったのだが、そういう問題ではない。

でんぱ組.inc テレワークMV「なんと!世界公認 引きこもり!」

私は「なんと!世界公認 引きこもり!」を何度も何度も何度も何度もリピートした。今も再生した。そして毎回、歌い出しのその瞬間に泣いてしまう。曲調や全体の雰囲気は、むしろでんぱ組.incの従来の路線に近いのではないかと思うが、それでもやはり何かが違う。それはひとつには、この曲の彼女たちが「応援される」側から明確に「応援する」側になっていることが大きい。コロナ以後、ファンとのコミュニケーションを活動の核とする「アイドル」は非常に困難な状況に置かれていると思う(それは現在もつづいている)。自分たちだって相当に不安なはずだ。だが彼女たちは、そんななかで先んじてポジティヴなメッセージを、いや、一種の戦闘宣言を打ち出してみせた。

コロナの自粛下で、さまざまなクリエイターやアーティスト、あるいはアイドルがテレワーク/リモート/オンラインによる活動を行なったが、間違いなく「なんと!世界公認 引きこもり!」は、その金字塔である。でんぱ組.incは、ファンのみならず、私を含む多くの人々を、萌えさせるのでも癒すのでもなく(それだけではなく)、勇気づける存在になっていたのである。

いやいや、そんなのはずっと前からだよ、最初からだよ、と古参ファン(ともふくちゃん)には言われてしまいそうだが。


でんぱ組.incにはまだまだ辞めないでほしいと思う

でんぱ組.inc『幕張ジャンボリーコンサート』より

このようなわけで、私はでんぱ組.incを今では大好きである。自白すれば「形而上学的、魔法」の段階ではメンバーの顔と名前が一致していなかったが、今では全員言える。これもつい最近知ったことだが、でんぱ組.incは現在の名称になってからすでに10年を超えている。これもアイドルに限らないが、私は(私自身がそうなので)「ずっとつづける」「辞めない」ということに重要な意味と意義を見出す者である。いや、辞めたくなったらいつでも辞めていいとも思うのだが、辞めたくないのなら誰になんと言われようとも何が起ころうとも、辞めない、ということ。長い因縁(笑)があるわりにごく最近になってハマったくせになんとも生意気ではあるが、でんぱ組.incにはまだまだ辞めないでほしいと思う。うまく言葉にすることができないが、彼女たちは、アイドルに何ができるのか、アイドルとは何をするものなのか、という簡単なようでむつかしい問いに、他のどんなアイドルとも違った、貴重で重要な答えを出しつつあるような気がするからだ。

でんぱ組.incの6人

でんぱ組.inc
古川未鈴、相沢梨紗、成瀬瑛美、藤咲彩音、鹿目凛、根本凪、の6人組ユニット。ディアステージ所属。 7月30日(木)にオンライン配信ライブ「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE 〜夏祭り編!!〜」をバンド編成にて実施予定。


この記事の画像(全12枚)


この記事が掲載されているカテゴリ



Written by

佐々木 敦

(ささき・あつし)文筆家。音楽レーベルHEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画など、さまざまなジャンルを横断する批評活動を行う。 『あなたは今、この文章を読んでいる。』(慶應義塾大学出版会)、『ニッポンの思想』(講談社)、『テクノイズ・マテリアリズム』(青土社)、『ゴダール原論』(新潮社)、『小さな演..