複雑化する現代アメリカで求められる“顔”
では、アメリカ映画界はなぜ、彼を必要としているのか。
189センチの長身。だが、決して甘い二枚目ではない。むしろ、ルックス的に味のある個性派。エキゾチック(たとえば、かつてのキアヌ・リーブスを濃厚に煮詰めたような)ではあるものの、わかりやすくセクシーというタイプでもない。もちろん演技は達者だし柔軟性もあるが、ポジションが変わっても常に独特の「アダム・ドライバー香」が薫るという意味では、これは新種の(そして珍奇な)スターと言える。
彼の顔つきには、コロナ以前から混迷し、複雑化しているアメリカという国の「惑い」が映り込んでいるように思える。ドライバー自身が困ったような顔をしているという意味ではない。逆だ。合衆国の混沌を受け止めながら、なおも平然としている相貌。「非凡な冷静さ」があの顔にはある。何があってもどこ吹く風。涼しい様子で、ぐっちゃぐちゃの状況を通り過ぎていく。『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』にせよ、『ブラック・クランズマン』にせよ、『デッド・ドント・ダイ』にせよ、シチュエーションそのものはとんでもないのに、アダム・ドライバーの顔はまったく揺らがず、ごろんとそこにある。
しかも、明るく爽やかな顔ではないのがいい。中心の核となる部分がいまひとつよくわからない、不明瞭で謎の顔をしている。つまり、複雑なのだ。見ようによっては陰鬱でさえある。闇の要素も少なからず含有している。どちらかと言えば、暗い。
複雑化が止まらない現代アメリカの鬱にも対応できる、複雑で仄暗いアダム・ドライバーの相貌は「不動」だからこそ価値がある。映画作家たちは、彼ならば、この時代の、そして自分自身の混迷を託しても、大丈夫なままでいてくれる、そう信じているのではないか。その賭けが大当たりだったことは、それぞれの作品が証明している。
時代が求める顔には、理由がある。
-
映画『デッド・ドント・ダイ』
2020年6月5日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
原題:THE DEAD DON’T DIE
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:ビル・マーレイ、アダム・ドライバー、ティルダ・スウィントン、クロエ・セヴィニー、スティーヴ・ブシェミ、ダニー・グローヴァー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ロージー・ペレス、イギー・ポップ、サラ・ドライバー、RZA、キャロル・ケイン、セレーナ・ゴメス、トム・ウェイツ
配給:ロングライド関連リンク
関連記事
-
-
天才コント師、最強ツッコミ…芸人たちが“究極の問い”に答える「理想の相方とは?」<『最強新コンビ決定戦 THE ゴールデンコンビ』特集>
Amazon Original『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』:PR -
「みんなで歌うとは?」大西亜玖璃と林鼓子が考える『ニジガク』のテーマと、『完結編 第1章』を観て感じたこと
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
「まさか自分がその一員になるなんて」鬼頭明里と田中ちえ美が明かす『ラブライブ!シリーズ』への憧れと、ニジガク『完結編』への今の想い
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
歌い手・吉乃が“否定”したかった言葉、「主導権は私にある」と語る理由
吉乃「ODD NUMBER」「なに笑ろとんねん」:PR