3.マミとヘテロロマンス至上主義
3つ目に挙げるエピソードがマミ(八木原舞美)の自己開示のシーンだ。この回が『少年ジャンプ+』で公開されたときは特に大きな反響を呼んだ。
マミはトーマへ積極的にアプローチする、スクールカースト上位層の女子。物語の進行と共に、太一にも興味を示し接近していく。太一と付き合い始めた二葉はマミの接近に不安を抱き、それを受けて真澄は恋愛関係をかき乱す不穏分子としてマミを警戒、太一に近づかないようクギを刺す場を設けるが、そこで初めてマミの本当のキャラクター像が明らかになる。
マミは親友である津吾を除くメインキャラクター、そして大半の読者から「ヒロインの恋敵」「恋愛脳のクイーンビー」といった印象で認識されていた。ところが真澄によって真っ向からそうした認識をぶつけられ激昂したマミが返した言葉は「『男女』で『友達』ってそんなに変かよ」だった。
畳みかけるように「男と女が一緒にいたら何が何でも恋愛になっちゃうの?」「テメェのクソくだらねぇ恋愛脳でアタシを勝手に悪に仕立てあげんじゃねぇっつの」と、これまで読者が知らず知らず憶測・期待してきた役回りをことごとく否定する。
ヘテロロマンス(異性恋愛)至上主義的になりがちなフィクション諸作品のあり方に毒され、我々読者自身も彼女に対して偏見を抱いていたことに気づかされ、SNS上では「ごめんねマミちゃん」といった懺悔の声が多数見受けられた。
マミは見た目の華やかさから誤解を受けがちだが、友人関係でいたい男子から恋愛感情を抱かれたり、男子の友人の恋人から横恋慕を疑われて敬遠されたりと、恋愛脳どころか他人の恋愛によって割りを食ってきたキャラクターだった。「アタシさー 恋愛事絡むたんび友達減るんだよね」と語る彼女がこれまでにどんな体験をしてきたか、ありありとイメージできる人は少なくないだろう。
つづく「女ってさ 女であること嫌いな奴多くね?」から始まる持論は、『第二の性』(著:シモーヌ・ド・ボーヴォワール)の時代からつづく、男性を人間のデフォルトとみなす社会のあり方への問題提起の流れを汲むものだ。
そういった背景を持つ彼女の回想シーンでは、親友の津吾との
「津吾はアタシが好きなの?」
「キモいこと言うんじゃね―よ」
というやりとりが描かれる。この「キモい」という感覚が彼女にとってどれだけ救いであったか、どれだけ彼女を肯定したか、信頼の根拠になったか。また、それを聞いて笑顔になった彼女が発した次の言葉はあまりにも切実で胸に刺さる。記憶がおぼろげな人はぜひ読み返して確認してほしい。
このエピソードによって、本作は「同性を愛する苦悩」を描きながら「異性に愛される苦悩」をも描いた。トーマの太一への思いを特別視せず、ほかのキャラクターと同等に扱いたいという作者の意図がここに端的に表れている。重ね重ねになるが、この行き届いたシナリオを完成させるに至った検討の深さはやはり並々ならぬものだ。
※次ページで最終回の内容に言及しています。ネタバレも含んでいますのでご注意ください。
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