増田貴久の演技力『レンタルなんもしない人』オーラを完全に消して、空気になってしまいそうだ
ありがたいのは、否定せずにただ聞いてくれる存在。テレワークと家族と未来予測に疲れた心に『レンタルなんもしない人』は効く。深夜ドラマを愛するライター大山くまおの連載第8回。
本当になんもしない
仕事もプライベートもSNSもあくせく追いまくられて、いつも疲れているのが現代の日本人。コロナ禍で自宅待機するようになっても、「ピンチはチャンス」などと言いながらあくせくしていて、結局疲れてしまっている人をよく見かける。そんな人には、増田貴久主演の深夜ドラマ『レンタルなんもしない人』(テレビ東京)を観てもらいたい。
『レンタルなんもしない人』の主人公は、「レンタルなんもしない人」こと森山将太(増田貴久)。交通費と飲食代だけで「なんもしない人を貸し出します」というサービスを行っている。妻・沙紀(比嘉愛未)ともうすぐ1歳の息子(森岡正虎)との3人暮らしだが、収入はないので貯金を切り崩して生活している。
「レンタルなんもしない人」は実在の人物がモデル。サービスを始めたのは2018年6月だが、たちどころに話題となって複数の著書が発売され、2020年4月にドラマ化されたのだからすごいスピード感だ。現時点でツイッターのフォロワー数は26万人にのぼる(2020年5月現在、交通費と飲食代に加えて1万円が必要になった)。
深夜ドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京)では「レンタルおやじ」がモチーフだったが、「レンタルおやじ」が一種の便利屋なのに対して、「レンタルなんもしない人」は簡単な受け答え以外は文字どおり「なんもしない」。それでも依頼はひっきりなしで、ドラマの中では「一緒にクリームソーダを飲んでほしい」とか「一緒に出社してほしい」などの依頼を引き受けている。第1話の冒頭にいきなり依頼人として怒髪天の増子直純が登場してびっくりした。『コタキ兄弟』の古舘寛治もたいへん味わい深い役で出演している。
「レンタルなんもしない人」が「なんもしない」のは、何か企みがあってのことではなくて、本当になんもしたくないから。夢を聞かれれば「ずっと、なんもしないことです」と即答するし、依頼人には「たいてい期待を下回ります」と告げたりする。でも、そんな「レンタルなんもしない人」が、東京であくせくがんばっていたり、追い詰められていたりする人たちの目に触れる。ドラマはそこから始まる。
「話を聞く男」の究極形態
契約を切られて故郷に帰る雑誌の編集アシスタント・亜希(志田未来)からの「東京最後の1日に付き合ってほしい」、ウェブディレクター・城戸(岡山天音)からの「会社に出社するのが怖いからついてきてほしい」、友だちとの付き合いに疲れた女子大生・香奈(福原遥)からの「誕生日を一緒に祝ってほしい」などの依頼を「レンタルなんもしない人」は淡々とこなしていく。
彼は「なんもしない」けど、ひたすら彼らと一緒にいて、ひたすら話を聞く。特に聞き上手というわけではないが、だいたい黙って聞いている。もちろん、反論なんて絶対にしない。たまに話を聞きながら寝てしまうこともあるが、特に謝ることはない。
「とにかく相手の話をよく聞く」とは、近年のドラマで人気を博した男性登場人物に共通している特徴のひとつ。『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)の平匡(星野源)、『あさが来た』(NHK)の新次郎(玉木宏)や五代(ディーン・フジオカ)、『カルテット』(TBS)の別府(松田龍平)や家森(高橋一生)らも「聞く男」たちだった。これはQJWebでも連載している桃山商事の清田隆之氏が指摘したもの(2017年7月16日 TBSラジオ「文化系トークラジオLife」主催ドラマイベント中の発言)。「聞く男」の究極形態が「レンタルなんもしない人」だ。
実在の「レンタルなんもしない人」である森本祥司は、「多くの依頼に共通するのは『確実に敵ではない人がひとりいる』という心強さだと思います」と語っている(『ダイヤモンド・オンライン』2019年8月15日)。会社の中、友人関係、SNSの中など、誰が敵で誰が味方かわからない時代に、依頼の間じゅうはそこにいてくれて、黙って話を聞いてくれる存在はとても心強いのだろう。赤ちゃん連れでレストランに出かけた主婦・麻衣(徳永えり)は本当に心強く感じているようだった。
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