深夜に大暴れ『浦安鉄筋家族』と『テセウスの船』のシンプルな共通点

2020.5.1
『浦安鉄筋家族』

文=大山くまお イラスト=たけだあや 編集=アライユキコ


『浦安鉄筋家族』が快調。出演者自ら「コンプライアンスに抵触していそうなところが見どころ」と言い放つ深夜ドラマならではの醍醐味、意外に強いテーマ性をドラマ大好きライター大山くまおが分析する連載第5回。

監督は『おっさんずラブ』の瑠東東一郎

「先に言っておく。この後始まるドラマ『浦安鉄筋家族』は、俺がタバコを何本も、いや何十本も喫ったり、人がぶっ飛ばされたり、過激なシーンが満載だ。でも、見てくれ。いや、そんな真剣には見ないでくれ。でも、見てくれ。いや(中略)ヘイ! 見れ」

佐藤二朗のこんな前口上で始まったドラマ『浦安鉄筋家族』は、深夜ドラマのメインストリートとも言えるテレビ東京「ドラマ24」(金曜夜0時12分~)の最新作。浜岡賢次の原作は、千葉県浦安市に住む小学生・大沢木小鉄とその家族や友人たちが繰り広げる、ウンコありバイオレンスあり貧乏ありののドタバタギャグマンガ。連載は1993年から続いており、実はスタート時期が『クレヨンしんちゃん』と3年しか違わない。もはや日本のギャグマンガ・クラシックとも言える存在だ。

ドラマ版は主人公を小鉄から父親のタクシードライバー・大鉄(佐藤二朗)に変更。超適当でだらしなくてヘビースモーカーの大鉄を中心に、常識人だがキックもプロレス技も得意な妻の順子(水野美紀)、ひきこもりのアニメ・発明オタクでしょっちゅう「セーラープーン」の女装コスプレをしている長男の晴郎(本多力)、彼氏のことを一途に愛するが兄の同人誌を「マルカリ」で売りさばく長女の桜(岸井ゆきの)、元気いっぱいの次男・小鉄(斎藤汰鷹)、かわいらしさが“旬”の赤ちゃん・裕太(キノスケ)、九十九里浜の流木そっくりな祖父の金鉄(坂田利夫)という7人の大家族が騒動を巻き起こす。キャッチフレーズは「エクストリーム・ホームコメディ」。監督は『おっさんずラブ』シリーズの瑠東東一郎、脚本はヨーロッパ企画の上田誠。

開き直っているわけではない

水野美紀が「このドラマはコンプライアンスに抵触していそうなところが見どころ」と語っているとおり(公式HP)、実際、誰かに叱られそうな場面が多いドラマである。大鉄は家の中でところ構わずタバコをふかすし、小鉄はクラスメイトにひどいあだ名をつけて言いふらすし、赤ちゃんはしょっちゅう放り投げられる。大鉄が邪魔な教師を車で跳ね飛ばしたこともあった。貧乏人を小バカにする描写も健在だ(名物キャラ仁ママを大人計画の宍戸美和公が原作そっくりに演じている)。そのほかにも観る人が見れば腹を立てる部分はたくさんあるだろう。

『浦安鉄筋家族』<第1巻>浜岡賢次/秋田書店

とはいえ、ドラマの作り手側だって開き直っているわけではない。大鉄は外では喫煙可能な場所でしかタバコを吸わないし(たぶん)、小鉄はひどい悪口を言った相手にきちんと謝っている。順子は頭突きをかました相手にお詫びの品を送っていた。

プロデューサーの藤田絵里花(浦安市出身で本作がデビュー作)は「1年後、この六本木テレビ東京のビルに私の姿はないかもしれません…」「地上波のコンプライアンスが厳しくなってきた昨今、一番実写化に向いていない作品」などとコメントしている(公式HP)。冗談めかしているが、作り手たちはコンプライアンスを遵守しなければいけないことを重々承知した上で、コンプライアンスに触れないようにドラマを作ろうとするのではなく、コンプライアンスに触れつつも、ギリギリのところをタイトロープで渡ろうとしているように見える。ウンコのない世界を作ろうとするのではなく、ウンコに触っちゃったけどなんとか手を洗って済ませる世界を作ろうとしているのかもしれない。

マンガ的想像力の「ホームドラマ」

で、コンプライアンスのタイトロープを渡りながらこのドラマが何をしようとしているのかというと、「ホームドラマ」である。

ホームドラマとは大きな事件などは起きず、平凡な日常の中で家族を中心とした人情の機微を描くもの。昭和の時代に隆盛を極め、平成の時代にほぼ死滅したが、恋愛ドラマが減った昨今徐々に復活の兆しを見せている。『きのう何食べた?』は同性愛カップルのホームドラマだったし、『俺の話は長い』は明確に「ホームドラマ復権」を狙って制作されていた。

ドラマ『浦安鉄筋家族』は、マンガ的想像力で再構築されたポップなホームドラマだ。毎回大した事件は起こらず、1話は大鉄が禁煙しようとするだけ、2話は熱を出した赤ちゃんを順子が病院に連れていこうとするだけ、3話は桜が彼氏の花丸木くん(染谷将太)を家に連れてくるだけの話だった。だけど、それだけのことなのに大騒動になるし、家族の人情やお互いへの愛情はきちんと見えるし、そのベースには生活がある。ホームドラマの特徴は食事シーンの多さだが、『浦安鉄筋家族』も食事のシーンが多い。何かと家族同士でプロレスをしている大沢木一家は、『テセウスの船』の佐野一家から事件性を引いてデフォルメした家族とも言える。

すぐにブリーフ一丁になる染谷将太

この記事が掲載されているカテゴリ

大山くまお

Written by

大山くまお

1972年生まれ。名古屋出身、中日ドラゴンズファン。『エキレビ!』などでドラマレビューを執筆する。

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。