佐藤健がエグゼクティブプロデューサーを兼任した渾身の主演作『グラスハート』。一刻も早く目撃してほしい情熱と冷静が宿った“歌唱”

佐藤健が温めていた渾身の企画『グラスハート』が、自らの主演、さらに共同エグゼクティブプロデューサーも担当し、Netflixシリーズとして2025年7月31日(木)より配信される。
共演には、宮﨑優、町田啓太、志尊淳、さらに菅田将暉や山田孝之が名を連ねる。珠玉の「青春音楽ドラマ」の誕生に、佐藤健が“共同エグゼクティブプロデューサー”として寄与したこととは。
映画批評家の相田冬二は、「佐藤健が主演とエグゼクティブプロデューサーを兼ねているから実現したこと」が本作には映し出されているという──。
目次
「王道のエンターテイメントを、照れずに堂々とやりたい」
全10話から成る『グラスハート』は、Netflixからしか生まれ得なかった連続ドラマであり、佐藤健にしか成し遂げられなかった作品である。
主演のみならず「共同エグゼクティブプロデューサー」としてもクレジットされている佐藤健によるステイトメントから、一文を抜粋しよう。
「王道のエンターテイメントを、照れずに堂々とやりたい」
「王道」とは何か。「照れずに堂々とやる」とはどういうことか。その映像的な答えが『グラスハート』の存在証明となっている点が、素晴らしい。

佐藤健は以前から、作品をプロデュースすることへの興味を公言していた。近作である映画『四月になれば彼女は』も、盟友である川村元気の原作・脚本作品ということもあり、かなり早い段階から企画そのものへの積極的な関与があった。
彼が、若木未生の小説『グラスハート』に出逢ったのは20代前半のことだという。このシリーズが最初に刊行されたのは1993年。佐藤健はまだ4歳だった(ちなみに今回のドラマに出演している菅田将暉は1993年生まれである)。20世紀から21世紀へと語り継がれてきたこの名作への想いを、この俳優は10年以上も手離すことなく、丹念に温めてきた。その持久力に驚かされる。
演じたい役であると同時に、映像にしたい作品であるということ。この気持ちをあえて区分けするなら「主観」と「客観」になる。ドラマ『グラスハート』の何が優れているかといえば、エグゼクティブプロデューサーたる佐藤健の「主観」と「客観」の調和バランスだ。情熱だけでも、冷静なだけでも、作品作りはうまくいかない。冷静と情熱のあいだにこそ「王道」はある。そして、それをつかみ取るたったひとつの方法が「照れずに堂々とやる」ことだったのだ。
佐藤健の演技はいつだって清々しい
佐藤健の俳優としての歩みを振り返れば、いわゆる情動型の演じ手ではなく、己を俯瞰できるアクターであることが理解できるだろう。代表作のひとつである『るろうに剣心』シリーズでの仕事(彼にはこの表現がフィットする)は、その顕著な例だ。本来であれば、アクション時代劇やヒーローものとしてカテゴライズされるはずのこの作品は、佐藤健が中心に存在することによって、血湧き肉躍る勧善懲悪活劇とは真逆の佇まいとなった。
無論、それは緋村剣心の特殊な背景と硬軟併せ持つ複雑なキャラクター性によるものでもあるが、演者のアプローチが「成りきる」のとは別種の冷徹さによって支えられていたことが大きい。佐藤健は、作品のパーツであろうとする意識が強く、この思念があるからこそ「剣心として存在する」ための尽力を惜しまない。
ワイルドな人物や悪役の際にも、このスタンスは変わらない。キャラクターが孕む特殊性や複雑性におもねることが一切ない。役の「個性」を特権化しない。そのありようこそが、佐藤健が潔癖であるゆえんであり、観客が彼から受ける波動を清潔なものとして感応する根拠でもある。
つまり、彼は剣心ならぬ献身を生きている。どちらかといえばポーカーフェイスのテクスチャがある俳優だが、人間を「個性」によって孤立させない思いやりが感じられる。どのような役にだって、特殊なバックグラウンドや複雑な生い立ちというものがある。だが、演じるべきはそこではない。そのような視点が一貫している。だから、佐藤健の演技はいつだって清々しい。
無理のない共感を呼ぶ宮﨑優の素直さ
『グラスハート』で佐藤健は、天才的なソングライターにしてシンガーである藤谷直季を演じている。藤谷は、自身のバンド・TENBLANKの最後のピースを埋めるべく、女子大学生ドラマー・西条朱音をスカウトする。物語は主に朱音の眼差しによって展開。いうなれば「憧れ」が根底にある。
藤谷は一種の奇人であり、音楽に才能や生活のすべてを捧げながら、人間として他者とつながることも希求している。だからこそ、羨望と軋轢が生じるのだが、いうまでもなく佐藤健は藤谷の特殊性や複雑性を一切強調しない。ただの「少し変わってるだけの人」程度に留める。

しかし、安易な共感は、やんわり拒む。このあたりの塩梅が非常に精緻で、生命のリアルがある。朱音目線だから、前半における藤谷の人物像は間接的であり、近づけそうで近づけない(このニュアンスはもはや佐藤健の独壇場といってよい)からこそ、魅力もときめきも生まれる。つまり視聴者は、朱音がバンドになじむ過程と、彼女と藤谷の関係性が伸縮する様を、ごく自然に享受することになる。

旬の注目株を起用するのではなく、オーディションによって(実質上の主役である)西条朱音役を決定するという、いささか古典的な手法が大成功を収めている。おそらくは佐藤健の意向も大きかったと思われるが、選ばれた宮﨑優は一般的にはまだほとんど認知されていないだろう。
2023年公開の可憐な逸品『まなみ100%』で、端役とはいえ、かなり強い印象を残した宮﨑。愛らしいがガッツがあるのが彼女の特性であり、そのポテンシャルを『グラスハート』は最大限以上に引き出している。
朱音のマインドに乗りきれないと作品は沈没しかねない。難役というより重圧のある役だ。よくぞ乗り越えたと思うし、新星が全力で羽ばたいていく様がフィクションの中でドキュメントされてもいる。
前半は、朱音に重心があり、藤谷はあくまでも客体に徹している。もちろん朱音の想いはやがて恋愛感情にも発展していくが、その一方通行のジレンマを宮﨑優は誰もが吸収できる素直さで体現し、無理のない共感を呼ぶ。

藤谷直季の情熱と佐藤健の冷静とが奇蹟的に統合
佐藤健は客体として存在しながら、そこに独特の風情を付加することが抜群にうまい。だから、朱音に映る藤谷の構築は見事だが、基本的にバンド内で完結するこの密室型(スタジオ型)ストーリーの主眼はそこにはない。

藤谷直季という客体の像がいかにほどけていくかのスリルが、バンドメンバーたちの観点とリレーションシップによって浮き彫りになる。生真面目といえばかなり生真面目、逆にいえばあまりにも地道な手法で『グラスハート』は紡がれる。おそらく、エグゼクティブプロデューサー佐藤健、最大の野心はここにある。
菅田将暉や山田孝之といった凄腕を招聘(しょうへい)し、脇に配置していながら、派手なドラマ性で作品を彩ることはしない。そんなことより、人と人とはなぜ惹かれ合い、また、ぶつかり合うのか、という愚直な問いに、懸命に立ち向かう。
私たちにはそれができる──佐藤健は叫ばず、ひっそりとつぶやきながら、断言している。これはキャストだけではなく、スタッフ全員の想いを担ってもいるだろう。

音楽業界への夢を毀損することなく、曲や演奏が生まれるまでのシビアな現実を可視化している。そこでは、なぜ音楽がかけがえのないものなのかという根源的なテーゼを、あくまでも具体的に証明していくひたむきな手法が選び取られている。それは簡単なことではないのだ──だから、安易な熱血やありきたりの絆讃歌に流れることもない。
それでいて、終始、ロマンを失わない。
そのロマンを支えるのが、ギタリスト・高岡尚を演じる町田啓太であり、キーボーディスト・坂本一至に扮した志尊淳である。町田のダイナミズムも、志尊の繊細さも、『グラスハート』が有する破格のロマンティシズムに、生まれたての初々しさで寄り添っている。そして、この設計の屋台骨となっているのが、佐藤健なのだ。


最大のロマンは、4人組バンド・TENBLANKを見つめるということがすなわち『グラスハート』という作品を生み出そうとしているキャスト・スタッフの記録と絶妙に重なり合うことだろう。宮﨑優だけがドキュメントされるのではなく、本作に関わった人々全員(おそらくは私たち視聴者も含まれる)がドキュメントされているのだ。

こうした視座は、佐藤健が主演とエグゼクティブプロデューサーを兼ねているから実現したことであり、彼ならではの冷静と情熱のマリアージュが最良のかたちで昇華している。『グラスハート』においては、情熱の中に冷静があり、冷静の中に情熱があるのだ。
情熱と冷静は分離しない。
宮﨑も町田も志尊も菅田も山田も身を挺(てい)して音楽に取り組んでいる。もちろん佐藤健も自ら歌う。では、彼はそこでどのように歌っているか。一刻も早く目撃してほしいので、稀有なパースペクティブの詳細はここに記さないが、あの歌唱にこそ、分離しない情熱と冷静が宿っている。

藤谷直季の情熱と佐藤健の冷静とが奇蹟的に統合されたもの。それが『グラスハート』だ。
Netflixシリーズ『グラスハート』

2025年7月31日(木)より独占配信
出演:佐藤健、宮﨑優、町田啓太、志尊淳、菅田将暉
原作:若木未生『グラスハート』シリーズ(幻冬舎コミックス刊)
監督・撮影:柿本ケンサク
監督:後藤孝太郎
脚本:岡田麿里、阿久津朋子、小坂志宝、川原杏奈
エグゼクティブプロデューサー:岡野真紀子
共同エグゼクティブプロデューサー:佐藤健
プロデューサー:アベゴウ
ラインプロデューサー:櫻井紘史
制作プロダクション:ROBOT
製作:Netflix
関連記事
-
-
九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「猛暑日のウルトラライトダウン」【前編】
『「SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE」~ハイヒールとつけまつげ~』:PR -
「“瞳の中のセンター”でありたい」SKE48西井美桜が明かす“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】
「SKE48の大富豪はおわらない!」:PR -
「悔しい気持ちはガソリン」「特徴的すぎるからこそ、個性」SKE48熊崎晴香&坂本真凛が語る“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】
「SKE48の大富豪はおわらない!」:PR -
「優しい姫」と「童顔だけど中身は大人」のふたり。SKE48野村実代&原 優寧の“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】
「SKE48の大富豪はおわらない!」:PR