東出昌大が“おじさん”を自称する理由とは?「現代の30〜40代ってバグってる」:人生相談連載「赤信号を渡ってしまう夜に」

文=安里和哲 撮影=長野竜成 編集=菅原史稀


この人生相談連載「赤信号を渡ってしまう夜に」では、価値観が流動化し対話が難しくなった現代に「こんな時代だからこそ、もっと話したほうがいい」と語る俳優・東出昌大がお悩みを読者から募集し、応答していく。

今回は、精神的に不安定な父親への対応に悩む10代の悩みに答えながら、「がんばって生きてください」と言えないという気持ちを吐露する。

さらに、加齢に伴う体の変化への戸惑いと、人生の来し方への心許なさを告白した相談者を励ましながら、年相応になることの大切さを説いていく。

【連載】赤信号を渡ってしまう夜に(東出昌大)記事一覧

#1:「大人ってちょっとずつ、建前のルールを破る」
#2:「仲よくなりたい相手には、利益を与える必要がある」
#3:“推し活”に思うこと「でも、好きになっちゃったらしょうがない」
#4:濱口竜介監督に伝えた「僕、この気持ちはわかりません」──映画に“正しさ”を求めるべきか?
#5:東出昌大のタバコ論と“意識低い系”でいたい理由
#6:東出昌大が考える“夫婦間のセックスレス”問題
#7:東出昌大「この先、生きていけなくね?」──そんなとき“救い”になった2冊とその理由
#8:東出昌大が考える“愛”の定義「『好き』という気持ちは、恋愛だけじゃない」
#9:東出昌大、“諦め”という再出発点にたどり着くまで「僕はもうあんまり考えないんです」

あなたのお父さんには寄り添えない

Letter No.20
東出さんに相談があります。 どうやら、最近、私の父親が病んでいるようです。何かにつけて、「死んだほうがいいのかな」と言ってきます。

私は今18歳でもうすぐ19になります。 私も病んでいた時期があり、死にたいと思って試みたこともありましたが、今は生きる目的もあるので結果的に楽しく暮らしています。 父に「死んだほうがいいのかな」と言われるたびに、「そうじゃないよ」と言うのですが、心のなかでは「人に死ねと言われたら死ぬというのは変だ。人は楽しいから生きるというのではなく、目的を持って生き、相応しいときに死ぬべきだ」と思います。 ですが、それをそのまま言うとうつ状態になっている人にはキツイかもしれないと思うので毎回のみこんでいます。そもそも娘に「死んだほうがいいのかな」と訊く父親が情けなくもあります。(精神科等には通っているようなのでその点は心配しなくて大丈夫です。)

こんなとき東出さんならどうしますか。どう声をかけてもらったら嬉しいと思いますか。

これは難しいです。僕がこれから言うことは、医学的な正しさとは無関係なので、話半分で聞いてください。

どのように声かけをしたほうがいいか、どのように接すればいいのか、申し訳ないですけど、僕は何もアドバイスできません。

しかしひとつ言えることがあるとすれば、あなたまで病んでしまわないか心配です。お父様とひとつ屋根の下で暮らす状況で、そのネガティブな状態に影響されないか。力になろうとがんばりすぎて、あなたまで疲れてしまわないか。そうならないために、お父さんはお父さん、自分は自分だと分けて、考えてみてほしいです。

家族は大切だけれど、自分の精神の健康を第一に守ってお過ごしください。

もうすぐ19歳になるということで、おそらく就職や大学進学など、相談者は人生の転機にあると思います。

たしかにそうですね。ここから、すごく過激なことを言ってしまうかもしれないけど、少し話させてください。

相談者さんと僕の間には今、縁が生まれました。こうやってわざわざ文章をしたためてくださって、それを僕が読んだ。この縁を僕は大切にしたい。あなたの力になれたら、という気持ちがあります。情が湧いてるんですよね。

だけど、僕はあなたのお父様のことは知りません。だから、彼の「死んだほうがいいのかな」という感情には正直寄り添えない。お父様には情が湧いてこないんです。僕は一度知り合った人たちには幸せになってほしいと心から思います。でも逆に言えば、自分と縁がない人に対してはそこまで寄り添えない。

そしてまたすごく怖いことを言うようですが「死にたい」と本気で言う人に向かって、「がんばって生きてください」とも僕は言えない。その先の人生で味わうかもしれない苦しみの責任は持てません。それに人間、どうしたって弱い人はいると思うんです。自然界を見ていて、その思いはより強くなりました。だから「生きたくない」っていう気持ちに対しても、そういうもんだよなと思ってしまうところがある。

どこか達観してしまうと。

そうですね。そういう個体がいても仕方ないと思ってしまいます。繰り返しになるけど、僕はこの相談者さんに情を持ってしまったから、父親を支えようとしたり、理解しようとしたりするよりも、あなたの人生を生きてほしいです。

「弱い父ちゃんなんて放っとけ」と言いたい。それであなたが自分自身の人生を生きたとて、その決断は何も間違ってないです。とにかく今は、お父様にどんな言葉をかけてあげればいいのかなんて考えずに、自分を守ることに集中してください。落ち着いたらまた見えてくることもあるはずですから。

自分はまだ何も積み上げていないという不安

Letter No.21
東出さんより2才程年上なのですが、年齢との向き合い方についてお伺いしたいです。

ここ1、2年程、もう若くない自分について憂鬱になる時があります。小学生の子供がいるので自分をおばちゃん呼びすることには慣れているし、30代になって老化を感じてもそれほど気にしてこなかったのですが、40才が近づき明らかに身体が変わってきた頃から、年を取っていくのが不安になってきました。

もともと美人でもなく見た目に重きを置いているつもりはなかったのに、シミや白髪が増えていくと落ち込んでしまう自分がいます。周りから若い女性として優しく扱ってもらっていたことがなくなったことへの虚しさもあるかもしれません。「おばちゃん」として堂々と元気に振る舞えるようになりたいとも思うのですが、なかなか自信のある振る舞いができません。育児や夫の転勤などでキャリアを築いてこなかったのも影響しているのかもしれません。

また、もう子供を産むことはないのだなと実感するようになり、たまに底知れない寂しさのようなものに押し潰されそうになります。 東出さんはちっともおじさんではないのに、最近自分のことを「オジサン」と呼んでいるのを目にします。イケメンと呼ばれたくなくて敢えてそうしているのかなとも思いますが、年齢との向き合い方で考えていることはありますか?年下の男性に聞くのはおかしいかもしれませんが、40才を迎えていくにあたってどういう心持ちでいた方がいいかお聞きしたいです。

自信のなさを吐露されていますが、育児を一生懸命なさってたわけじゃないですか。旦那さんの転勤にも合わせて、その場その場で移り住んで、生活を切り盛りしてきた母ちゃんってすごいですよ。

だからといって「自信を持ってください」と伝えたところで、「はい、わかりました!」ってなるもんじゃないのも、もちろんわかる。

相談者は、加齢に伴う外見の変化に落ち込んでいるというより、「自信のある振る舞いができない」ことに悩んでいるように感じました。

そうですね。話をちょっと迂回させたいんですが、先日『日本映画批評家大賞』の授賞式で、黒沢清組だった芦澤(明子)さんに久しぶりにお会いしたんですよ。

今年73歳になるベテラン撮影監督ですね。東出さんは『散歩する侵略者』や『クリーピー 偽りの隣人』などでご一緒されています。

彼女は授賞式にもジャンパーにズボンっていう格好で来ていました。それって撮影するときと同じ格好なんですよ。でね、受賞スピーチでの言葉がまた最高なんです。

「撮影やりながら、やっぱりずっと考えてるんです。私の人生の命題は闇についてなんです。カメラを構えながら、闇をどう撮ろうか。それずっと悩んでて。悩みは尽きないんですけど、今後もその闇に向き合っていきたいと思います」と。

年齢を重ねて、そういう含蓄のある言葉を言えるようになるって、めちゃくちゃ素敵じゃないですか。相談者さんは「キャリア」という言葉を使っているけれど、仕事だけじゃなくて、子供を育ててきたお母さんの中にも、こういう示唆に富んだ言葉はたくさんあるでしょう。

誰しも「自分は何も積み上げてないんじゃないか」と不安に駆られることある。だけど、相談者さんは今まで子供も育ててきて家族の生活を支えてきた。それはとても立派な積み重ねだし、そこは胸を張っていいんじゃないでしょうか。

もう立派なおじさんだから

東出さんはいつからか「おじさん」を自称するようになりましたよね。最近の風潮では36歳ってまだおじさんというには早いのかな?と思うんですが。

いや、今が異常なんですよ。長い人類の歴史の中で──というのは僕の口癖なので、あまり真に受けないでください(笑)──現代の30〜40代ってバグってるでしょ。昔の30代って、もっとおじさんでしたよね。大きい声じゃ言えないけど、おじさんになるのがこんなに遅くなっているのは、40〜50代の男性を「◯◯くん」と呼ぶアイドル文化の影響が大きい気がする。

俺らは「おじさんである」ことを自覚しないとダメですよ。

「東出くん」って言われがちですよね。

そう、めっちゃ言われる(笑)。でも、僕らはもっとちゃんと歳を重ねていかなくちゃいけない。今、戦中を舞台にした映画を撮っても、役者の外見が幼すぎてピンとこないんじゃないかな。軍人を演じられる30〜40代の男っていないでしょ(笑)。ちゃんと年相応にならなくちゃいけないですよ。

僕も「俺はまだまだ精神的に成熟してないな」と思うときはあります。かといってそれでピーターパン・シンドロームに陥るのも嫌なんで、自分に発破をかける意味で「俺はおじさんだ」と言い聞かせてる節もありますけどね。

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安里和哲

(あさと・かずあき)ライター。1990年、沖縄県生まれ。ブログ『ひとつ恋でもしてみようか』(https://massarassa.hatenablog.com/)に日記や感想文を書く。趣味範囲は、映画、音楽、寄席演芸、お笑い、ラジオなど。執筆経験『クイック・ジャパン』『週刊SPA!』『Maybe!』..

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