「こんな時代だからこそ、もっと話したほうがいい」
人生相談「赤信号を渡ってしまう夜に」では、俳優・東出昌大が「すねに傷のある僕にしか話せないこと」を募集し、対話していく。
第6回では「失恋の苦しみ」と、第4回で取り上げた「パートナーとのスキンシップ」の継続相談を行っていく。
#1:「大人ってちょっとずつ、建前のルールを破る」
#2:「仲よくなりたい相手には、利益を与える必要がある」
#3:“推し活”に思うこと「でも、好きになっちゃったらしょうがない」
#4:濱口竜介監督に伝えた「僕、この気持ちはわかりません」──映画に“正しさ”を求めるべきか?
#5:東出昌大のタバコ論と“意識低い系”でいたい理由
#6:東出昌大が考える“夫婦間のセックスレス”問題
オーバーヒートした心を冷ます
Letter No.11
失恋しました。彼とは高校3年間、同じ部活で活動しました。上品な顔立ちで性格も穏やかな彼のことを私は好きになりました。春からは別々の大学に進むので、思い切って彼に告白したのですが、返事は「ごめん」というものでした。更に、こうも言われました。「Tさんが正直に告白してくれたから自分も正直に言う。自分はゲイなんだ」と。ショックでした。それは、私が彼の恋人になれる確率はゼロだと分かったからです。彼にも好きな人がいて、けれどもその好きな人には彼女がいるから、自分は告白しないまま諦めると話していました。
そんな風に、私に正直に話してくれた彼の真摯なところに、失恋してもなお惹かれてしまうのです。
「時間がたてば気持ちが落ち着くよ」とか「大学で彼氏見つかるかもよ」などと友人は慰めてくれますが「そうだよね」とは、まだ私には思えません。
こんな辛い気持ち、本当に時間がたてば癒やされるのですか? たかが失恋くらいで、と思われるかもしれませんが、せっかく受かった大学にも通う元気が出そうにありません。
どうしたらいいでしょうか? アドバイスをお願いします。
好きな人との恋が実らないことが精神的にかなりキツいのは、僕も身に覚えがあります。といっても、悲しみには質量がなくて客観的には計れないから、相談者さんのつらさが「全部わかる」とは言えないけれど。
今、あなたは心が摩耗しきって疲れていることだと思います。そしてこのすり減った気持ちは、時間が経つことでしか回復しない。心が疲れると抑うつ的になって、極端な思考に陥ってしまいがちです。この先一生苦しみ続けるのかもしれない、生きている意味はあるのだろうか……そういった思考にハマってしまうかもしれない。
でも、こういうマイナス思考に陥るのは、脳がバグってるだけというか、フリーズ状態に入っただけなんです。車でたとえるなら、エンジンがオーバーヒートしちゃってるわけで、いったん冷ましてあげなきゃいけない。それと同じように心も休ませてあげるべきなんですよね。ちんけな言葉に思えるかもしれませんが、時間が経てば傷は癒えてくる。これだけは信じてほしいです。
あと、「せっかく受かった大学にも通う元気が出そうにありません」と言ってるけど、履修登録だけは手を抜かないでほしいです。ちょっと時期的にはもう終わってしまったかもしれんけど、ヤケになってテキトーな選択をしてしまうと後悔するから。
東出さんは痛い目を見たんですか?
いやぁ、本当ひどかったですよ(笑)。あんまり大きな声じゃ言えないんだけど、けっこう荒れた生活をしていて、1年生の前期は2単位しか取れませんでしたから。
相談者さんは少しでもおもしろそうな授業をちゃんと探して履修登録してほしいですね。勉強に打ち込んでたら、失恋の傷もいつの間にか忘れてるかもしれんし。もし前期は投げやりになってしまったのなら、それは過ぎたことなので仕方ない。後期からやり直しましょう。
東出さんも、山での生活にシフトしていきました。それも心を休ませるためでしたか。
ここに来たのはいろんな理由がありますけど、ひとつはそうですね。家の中に引きこもっちゃうと、どんどん内省する方向に行っちゃって、よけいに心がすり減っていくんですよ。だから相談者さんも家にこもらないでほしいです。
今ってインターネットで個人情報をいくらでも追えるじゃないですか。彼のことをSNSで調べたりもしたくなるかもしれんけど、それはやめたほうがいい。こういうときは忘れるしかないんです。家でうつうつと考え込むくらいなら、スマホも持たずにぷらぷら歩いてほしいかな。僕はやっぱり散歩信者なのでこればっかり言ってますが(笑)。歩きながらゆっくり思いを咀嚼しやすいので、ぜひ散歩してみてください。
あ、あと最後に。この相談文を読んで、思い出したことがありました。僕が今よりずっと若いとき、渋谷のスクランブル交差点に面したスターバックスで外の景色を眺めながら、「ここを行き交う人々それぞれに、固有のドラマがあるんだよな」と、ふと気づいたんです。楽しそうに笑いながら歩いている学生、観光客、早足でセンター街に向かう人、スーツの人……その全員がなにかしらの悩みにぶつかったことがあったでしょう。それでもみんな生きているんですよね。そう思うと、僕はすっと肩の力が抜けました。相談者さんにもこのことは覚えていてほしいな。
夫婦関係は一般化しにくい。だからこそ、当事者同士の“対話”が重要になる
※以下の文章は、連載第4回で受けた相談への応答に対するお返事です。
Letter No.12
東出さん、ありがとうございます!まさか自分の相談が採用されて、しかも東出さんから追加質問をいただけるなんて思ってもみませんでした。まず、前回の連載で東出さんにいただいた「ご自身が夫とスキンシップを取る代わりに、夫がヨソでそういう欲求を発散するのは許容できるのか?」という問いに対しての回答ですが、
→風俗などお金が発生するものであればギリギリ許容できます(とはいえ風俗に行ったことはバレないようにしてほしいですが)。一般女性と肉体関係を持つ、いわゆる不貞行為は絶対に許せません。
そして「そもそも旦那さんとは信頼関係が築けているのに、なぜ恋愛感情がなくなったことは打ち明けられないんだろう」という問いについては、
→恋愛感情がなくなったことを打ち明けたら、夫が傷つくと思うからです。これは信頼関係云々ではなく、デリカシーというか、思いやりだと考えています。
ちなみにこの相談ですが、ママ友会でも頻繁に聞く鉄板トークテーマだったりします。同じ悩みを抱えている既婚子持ち女性、結構多いようです。東出さんはこういう状況になったことはありますか?そのとき、どう行動しましたか?(なったことがなければ、ご自身だったらどういう行動をとりますか)
第4回の相談者さん、お返事くれたんですね。ありがとうございます。この文章をお読みになって、どう思われましたか?
最初の相談文よりも心理的に距離ができてしまったような印象を受けました。
同感です、「東出わかってねぇな〜」と思われてしまった気がする(苦笑)。こうなってしまうと、これから僕が話す言葉も「薄いなぁ」と思われて届かないかもしれない。何から話そうかな。ちょっと困りました。
「ママ友会でも頻繁に聞く鉄板トークテーマ」という言葉が印象的でした。
そうですね。そこから話しましょうか。ママ友会って現代の「井戸端会議」だと思うのですが、そういう場で盛り上がる鉄板の話題って要するに「あるある話」ということですよね。
日々のうっぷんを晴らすためには、そういうガス抜きの場は必要なんだけど、そこで話しても根本的な解決に至ることは少ない気もします。そもそも解決できないからこそ繰り返し話せる“鉄板”になるわけですよね。しかもセックスレスは夫婦間のデリケートな悩みだから、お互いそこまで踏み込みにくい。
しかし今回の相談者さんは、根本的に解決したいなと思って僕にメッセージをくださった。僕はそのことがうれしいです。でも同時に家族の問題にアドバイスはしにくいな、という思いもある。
それはなぜですか?
ひと口に「夫婦関係」といっても、すべての関係は個別具体的な話であるから、そこで踏み込んだアドバイスをするのはある意味無責任になってしまうと僕は思うんです。
この「人生相談」では常に、僕から一方的に解決策を提示するつもりはありません。僕はあくまでも「この方法はどうだろう?」「こういう考え方をしてみたらどうだろう?」という提案をする。それを受けた相談者さんが改めて考えを深め、自分なりのアプローチで悩みに対処していく。そういうかたちでの対話ができたらいいなと思っています。
夫婦っていうのは、本当に難しいです。ともに人生を歩んでいくなかで、結婚時とは価値観も変わっていくでしょう。そのなかでどうやってお互いが気持ちよく暮らせるのかって考えると、やはり話し合うしかないと僕は思うんです。
あくまでも「東出だったら」ということで聞いてほしいんですが、僕がもしパートナーから拒まれてしまったら、やっぱり理由を知りたい。打ち明けてくれたら「よくぞ話してくれた」と思う。それで子供が生まれる前の恋人同士だった関係性が終わったんだと受け止め、子供を育てる両親としていいチームを作るためにどうすればいいか話し合っていく。相談者さんも、そうしなければ事態は悪化するばかりじゃないかなと僕は思ってしまう。
第4回で相談者は出産を経て「夫からスキンシップを求められても生理的に拒否」してしまい、そのことを「申し訳なく思う」と書いていました。
うーん、相談者さんの気持ちはわかったんです。でも、旦那さんの気持ちは推測することしかできない。
その上でこれはひとつの可能性ですが、スキンシップを拒否されて、旦那さんは戸惑っているんじゃないでしょうか。しかも相談者さんが理由を言ってくれないから、余計に混乱するでしょう。そうなってくると、やっぱり今の相談者さんの気持ちを打ち明けるしかない気がする。
しかし「恋愛感情がなくなったことを打ち明けたら、夫が傷つくと思う」「これは信頼関係云々ではなく、デリカシーというか、思いやり」とおっしゃっていて、話すのにも心理的ハードルがありそうです。
でも、話さないままだと旦那さんが詰んでるんですよね。旦那さんのスキンシップを拒んでいる。その理由を話すと夫が傷つくから理由も打ち明けられない。モヤモヤした旦那さんが、性欲だけでも満たそうとヨソで発散するのも許せない。これでは八方塞がりで、それこそお互いの「小さな不安と不満」がふくらんで、いつ爆発してもおかしくない。そうなったら、夫婦関係の修復も難しくなるかもしれません。
「夫が傷つくと思う」とおっしゃっていますが、旦那さんはすでにじゅうぶん傷ついてるはずなんですよ。だから、もう話し合うしかないのかなって。解決したいのであれば、どこかで傷つける覚悟を持つしかないと僕は思います。
夫婦のことは、ひとりだけでは解決できないじゃないですか。ふたりですべて打ち明け合って、そこから対話していくことが大事だと僕は思います。相談者さんが正直に話したら、もしかしたら旦那さんが「俺も同じこと思ってた」って言うかもしれない。「子育てはふたりで一生懸命やりたいけど、ふたりの間には恋愛感情はなしでいいよね。君とは魂の伴侶として協力して生きていきたい」って固い握手を交わせるかもしれない。
逆に旦那さんが「一緒にいるのにセックスができないのはつらいから別れたい」と言う可能性もありますよね。もしかしたら、その可能性を考えて切り出せないのかもしれない。
そうですね。たしかにどっちに転ぶかはわからない。でも、繰り返しになるけれど、僕が今言ったことは正解ではないから、今回の僕の言葉を踏まえて、相談者さんが新たな見方に気づくかもしれないし、やっぱり言わないでいいやと思うかもしれない。それはそれでいいんです。
もし僕が旦那さん側だったらそういう答えをとりあえず出すかな?と想像しただけなので、旦那さんがどんな性格の人で、相談者さんとの関係性をどう捉えているのかを僕は知りません。無責任に聞こえるかもしれないけど、どんな結果が出るかはわかりません。それでも僕は「話し合う」ことでしか道は開けないような気がしています。
今、僕はここまでしか言えないかな。もしまだ腑に落ちないことがあれば、またメッセージください。対話を続けましょう。
本連載では、読者の皆様から引き続き人生相談を募集中! 東出さんに相談したいお悩みがある方は、どうぞ下のボタンをクリックしてお寄せください(※お答えできない場合もございます。あらかじめご了承ください)
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