『THE W』審査をプレイバック!9試合中7試合が7-0のパーフェクトはなぜ起きた?鍵は「国民投票」か
今年で6回目を迎えた『女芸人No.1決定戦 THE W 2022』(日本テレビ)、エントリー数は過去最大の735組だった。12月11日、漫才・コント・ピンネタなんでもありの戦いを制したのは、昨年準優勝だった天才ピアニスト。賞レース採点ウォッチャー・井上マサキがその激闘と審査を振り返る。
目次
Aブロック:全身茶色タイツと大きな箱
今年からファイナリストが10組から12組に増え、ファーストブロックは4組ずつ3ブロックで争うことに。審査はこれまで同様「勝ち残りノックアウト方式」で、1組がネタを披露するごとに審査員7組の投票によってブロックの「暫定1位」を決める。最後まで1位の席に座っていた組がファイナル進出だ。
Aブロック出場者はTEAM BANANA、ヨネダ2000、さとなかほがらか、Aマッソの4組。最初の対決は3年連続3度目の決勝進出となるTEAM BANANAと、今年『M-1』ファイナリストとなったヨネダ2000だった。
安定のしゃべくり漫才を見せるTEAM BANANAに対し、ヨネダ2000は19時過ぎにうんこのネタ! 茶色の全身タイツに身を包んだ愛が、あのフォルムでドスン!と落ちてくるインパクトは、MCのフットボールアワー後藤輝基も「我が国は今食事時なんですね」と釘を刺すほど。
のっけからジャンルを超えた対戦に審査員たちの票は割れ、結果は4-3でヨネダ2000に軍配が上がる。「TEAM BANANAがきれいに舗装した道を全部荒らした(麒麟・川島明)」といった審査コメントのなか、マヂカルラブリー野田クリスタルは「ネタにまぎれて段取りが多いのを完璧にやれていた。3年目なのにすごい」と、演者目線で評価していた。
その後もヨネダ2000のインパクトはなかなか消えない。さとなかほがらかを7-0のパーフェクトで倒し、最後に対するのは昨年準優勝のAマッソ。大きな箱から首だけ出した村上が、面接官の加納に「体型を見て採用不採用を決めてほしくない」「実力や人間性を見てほしい」と訴える。「なんやこいつ」と言い争うなかに「うんこ野郎」という言葉が出てきて一瞬さっきのヨネダ2000が頭をかすめる。
ここで勝ったほうがAブロック勝ち抜け。緊張感とは裏腹に、全身茶色タイツと大きな箱が並んで結果を待つ画面がおかしい。結果は4-3とまたも僅差でヨネダ2000……! 国民投票はAマッソだったが、審査員4人がヨネダ2000に入れた。実は、国民投票と勝者が食い違ったのはこの対戦だけ。このあと怒濤の「6連続パーフェクト」がつづくのだ。
Bブロック:天才ピアニスト3試合パーフェクト!
Bブロック出場者は天才ピアニスト、爛々、スパイク、フタリシズカかりこるの4組。昨年、Aマッソと共に準優勝だった天才ピアニストは、「カップルのケンカを観戦するおばちゃん」のコント。
缶ビール→メガネ→缶ビール(ロング缶)→ビニールシート→双眼鏡と、おばちゃんがアイテムを繰り出すたびに鋭いツッコミが決まり、見る者を飽きさせない展開がつづく。最後は仲よくなってふたり分の缶ビール→ふたり分の双眼鏡→寿司桶まで出てくるきれいなオチ!
その後も天才ピアニストが強い。爛々が迫力あるやりとりで「チョメ!」を叫び、スパイクが居酒屋で働くプリンセスを演じ、フタリシズカかりこるが声を自由自在に変えても、審査員7票はすべて天才ピアニスト! 『M-1』や『キングオブコント』の点数制と違い『THW W』の審査は1対1なので、審査コメントでは必然的に敗者に触れることになるのだが、「ここがよかった」「もっとこういうのが見たかった」という視点のコメントに、審査員たちの優しさを感じる場面も多かったように思う。
「(天才ピアニストはネタで笑いを取ったが)おふたりは人間がすごくおもしろいというか、人間力で笑かしに来ている。これキャリアだけの差だと思います」(川島が爛々に)
「小川(暖奈)さんが憑依型で相当入り込んでいるのと、松浦(志穂)さんの外に投げるツッコミは、ふたりだからこそ出せる色だと思う」(ドランクドラゴン塚地武雅がスパイクに)
「初登場ですごい難しいネタを、しかも生放送に持ってきたと思って。口の動きとかもすごく練習されているんだなと」(友近がフタリシズカかりこるに)
天才ピアニストは、3試合ともパーフェクトゲームで最終決戦に進出。とはいえ、本人たちに余裕があったわけではなく、毎回1票入るごとに祈ったり安心したりする様子が印象的だった。それだけ審査結果が読めないということかもしれない。
Cブロック:コントvs漫才の異種格闘技
Cブロック出場者は河邑ミク、エルフ、紅しょうが、にぼしいわしの4組。『R-1』常連の河邑ミクだが、意外にも『THE W』では初のファイナリスト。可憐な女子高生を演じながら、テスト中は目を見開いてカンニングを試みる様子はもはやジャパニーズホラー。対するエルフは、タメ口だったギャルが、逆に携帯ショップの店員にタメ口をきかれ、「わかったー!」と気づきを得るコント。女子高生vsギャルは7-0でエルフが勝利。
つづく紅しょうがはコント。ゴミ捨て場で酔っ払って寝てしまった女と、かつてゴミ捨て場で知り合った男が忘れられない女。はじめはゴミ袋を投げ合ってケンカをするも、最後はゴミ袋を雪だるまに見立てたハートフルな展開。「4分の使い方がうまい(野田)」「展開が見事(笑い飯・哲夫)」と、またも7-0の満票で紅しょうがが勝利する。
今回、紅しょうがもAマッソもヨネダ2000もエルフも、ファーストブロックでは漫才ではなくコントを選んでいるのが興味深い。こうした勝ち抜き形式では、今見たネタと、ちょっと前に見たネタを思い出して比較することになる。そうしたとき、ビジュアルも含めて記憶に残るコントは有利に働くのかもしれない。
でも、最後ににぼしいわしが披露した「医療法人が母体の水族館」の漫才は、マイク1本でありえない世界を浮かび上がらせた。だって「デモ運動するカツオ」に「MRIの治療費で25mに育ったジンベイザメ」である。結果はまたも7-0で紅しょうがの勝利だったが、コントvs漫才の異種格闘技を楽しませてくれた。
パーフェクトゲームが多かったのはなぜ?
それにしても、9試合中7試合が7-0のパーフェクトになったのは、この審査形式になった2019年以来初めてのこと。これまでは6-1や5-2というスコアもあったのだが、今回はまったくなかった。
去年までの違いに審査員の顔ぶれがある。今回は審査員が刷新され、2019年から審査員を務めていたヒロミ、久本雅美、ハイヒール・リンゴのベテラン3名に代わり、野田クリスタル、ドランクドラゴン塚地が起用されたのだ。世代やバックグラウンドが近しい審査員が揃ったから……ともいえそうだが、たとえば『キングオブコント』は同世代の審査員でも採点が割れることもあり、必ずしもそういうわけではなさそう。
となると注目すべきはdボタンによる「国民投票」だろうか。今回は審査員6名と国民投票1票がすべて揃ってはじめてパーフェクトになる。笑いに携わる者も、笑いを見る者も、満場一致だからこそのパーフェクト。全員が文句なしに「こっち」と言えるおもしろさを持つ組が勝ち上がり、ヨネダ2000が関わった2試合だけ「これはどうなんだ……」とみんなが戸惑ったといえそうだ。
最終決戦:「悪口を言うやつはチョメです」
最終決戦のネタ順はくじで決まり、紅しょうが→天才ピアニスト→ヨネダ2000の順になった。この順番、なんとなく昨年の最終決戦のAマッソ→天才ピアニスト→オダウエダを思い出す。
紅しょうがは漫才で真っ向勝負に出た。「愚痴を言う相手以上に自分が怒ることでスッキリさせてあげる」という流れで、お互いに愚痴をどんどんエスカレートさせ、最終的に「イオンモールが横に広過ぎる!」まで行き着いてしまう。天才ピアニストは「理想の家族団らんVRに逃げ込む母親とその娘」を演じ、現実とVRの世界を行ったり来たりしながら、お父さんに「現実を見ろ」と迫る。ヨネダ2000は……もうなんというか「モヒカンパワ~」ばかり頭に残ってしょうがない。あんなに動いても倒れないでっかいモヒカンすごい。
最終決戦は、審査員6票と国民投票1票の計7票の投票で決まる。これまで満票が多かったが、最終決戦3組は票が割れた。紅しょうがが1票、天才ピアニストが4票、ヨネダ2000が2票で……優勝は天才ピアニスト!
去年、あと一歩で優勝を逃したふたり。ますみは「この1年単独ライブ毎月やって、ネタ磨いて、ホンマにうれしい……」と涙。川島は「ますみさんもよかったけど竹内(知咲)さんの切れ味がとんでもなかった」と振り返り、「紅しょうがとヨネダ2000の悪口を言うやつはチョメです」と爛々のギャグでオチをつけた。12組全組がおもしろく、年々レベルが高まっていることが感じられる『THE W』。来年はどんなドラマが見られるだろうか。
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