『キングオブコント2022』採点結果を徹底分析。空気階段の記録を塗り替えたビスケットブラザーズ歴代最高得点の意味

キングオブコント2022サムネ

文=井上マサキ イラスト=まつもとりえこ 編集=アライユキコ


『キングオブコント2022』(TBS)はビスケットブラザーズが第15代キングに輝いた。神回の呼び声も高かった2021年の評価を上回る歴代最高点が飛び出したハイレベルな争いを、賞レースウォッチャー・井上マサキが今年も審査員の採点結果から徹底分析。


2年連続で歴代最高得点を更新

3018組がエントリーした『キングオブコント2022』(TBS)。決勝10組による大接戦の中、頭ひとつ飛び出したのは、ブリーフ1枚で野犬を追い払い、バイト先の女友達を男友達に変え、ぶっとんだ設定を巨漢とセンスでねじ伏せたビスケットブラザーズ!

審査員5人体制になった2015年以来、記録尽くしになった今回を、審査員の採点から振り返ってみたい。

審査員は昨年に引き続き、山内健司(かまいたち)、秋山竜次(ロバート)、小峠英二(バイきんぐ)、飯塚悟志(東京03)、松本人志の5人。5人×100点の500点満点で採点し、ファーストステージ3位までがファイナルステージに進出。最終的に、ファーストとファイナルの合計点で優勝が決まる。

『キングオブコント2022』審査員採点一覧(作表/井上マサキ)
『キングオブコント2022』審査員採点一覧(作表/井上マサキ)

全ての採点を表にまとめた。赤字はその審査員がつけた最高点で、青字は最低点。出場者および審査員ごとの平均点と標準偏差(点数のバラつきが多いほど値が高い)も合わせて算出している。

採点表が真っ赤になっているのがビスケットブラザーズだ。5人の審査員のうち、山内以外の4人がその日の最高得点を付けている。1本目と2本目を合わせた総合計963点は、審査員5人体制での歴代最高得点。昨年、空気階段が更新したばかりの記録(960点)をあっさり塗り替えてしまった。

一方、かまいたち山内が最高得点を付けたコットンの総合計944点も、準優勝の歴代最高得点で、こちらも昨年男性ブランコとザ・マミィが935点で更新したばかり。ちなみに3位のや団もこの点数を超えている。

ファイナルに進出したビスケットブラザーズ、コットン、や団の3組は、すべて2本目の点数が1本目を上回った。これは史上初のことで、2本目で失速した組がいなかったことを意味する。高クオリティのコントを2本揃えたことが、記録更新にも、終盤の盛り上がりにもつながっていた。

僅差のなかでも割れていた評価

今回、ファーストステージは僅差の展開が続いた。特に、ビスケットブラザーズが登場するまでの7組は11点差に収まっており、いぬ(459点)、クロコップ(460点)、ロングコートダディ(461点)が1点差の攻防を繰り広げる。結果的にコットンとや団が同点2位となったが、もし同点3位だった場合は決選投票が行われたはずだ(2019年にGAGとジャルジャルが同点3位となり決選投票となっている)。

ビスケットブラザーズ以外の各組の採点は平均92点~94点と同じくらいだが、標準偏差を見ると違いがある。標準偏差は点数のバラつき度合いを表しており、値が高いほど「審査が割れた」ということ。特にこの値が高いのが、いぬとコットンだった。

「夢の中へ」と題されたいぬのコントは、パーソナルトレーナーと主婦がなんやかんやあって最終的にキスをしまくる展開。そのバカバカしさに高評価を付けた松本・秋山のふたりと、90点前後をつけた飯塚・小峠・山内の3人で評価が割れた。特に飯塚は「めちゃくちゃ笑ったんですけど」と前置きして「やっぱキスは禁じ手だと思うんですよね……」と、この日の最低点(89点)を付ける。

また、「浮気証拠バスター」で行き過ぎたプロの技を演じたコットンは、松本・秋山・山内が96点、飯塚・小峠が91点と評価が真っぷたつ。山内「設定の良さが存分に出た」、秋山「アイテムも全部面白い」、松本「心技体がバッチリ」と高評価コメントは聞けたが、時間の関係か飯塚・小峠のコメントは聞けなかったのは残念。

前回の審査でも感じたことだが、5人の審査員はそれぞれタイプの異なるコントを現役で演じており、それぞれの「軸」を持っている。まるで五角形のチャートのよう。その軸すべてに刺さり、五角形が最大になって爆発したのが、ビスケットブラザーズだったのだろう。


松本人志は2本とも自己最高「98点」

「五角形」の話を続けると、ファイナルステージは3組すべてが大きな五角形を描いたといえる。標準偏差は1.0前後で、全組が平均94点以上。評価は割れていない……ように見えるが、実は「点差で優劣を付ける」というやり方で、審査員それぞれの評価をうかがうことができる。

コットンの2本目が終わったあと、審査コメントで飯塚と松本は「や団と優劣をつけるために差を付けた」と発言している。や団とコットンの2本目の点数を比較すると、山内・秋山・小峠がコットンにプラス1点、飯塚・松本がや団にプラス1点の差を付けているのがわかる。甲乙つけがたいなか、なんとか差を付けるための「1点」だろう。その差し引きの結果、1点差でコットンがや団を上回ったのだった。

そして最後。1本目で11点差をつけたものの、2位3位がまったく失速しない。そんなプレッシャーを、ビスケットブラザーズは見事にはねのけた。特に松本人志は2本とも自己最高点の「98点」を付け、2人を大いに評価した(それまで松本人志が付けた最高点は、にゃんこスター(2017年)、チョコレートプラネット(2018年)、空気階段(2021年)に付けた97点)。

優勝者インタビューによれば、ビスケットブラザーズのふたりは2本目が終わってもまったく優勝を確信できなかったという。点数発表前には司会の浜田雅功をいじっては叩かれ、優勝が決まったあとも「(優勝者の赤いジャケットに)サイズが合ってない!俺たちが優勝すると思ってなかったんじゃないの~?」「このトロフィーは僕らと同じくらい重たいです~!」と、最後まで明るかった。

その朗らかさ、素直さは、優勝後の「十分楽しい人生なのに、もっと楽しくなっちゃう(きん)」というコメントにも現れていたように思う。歴代最高得点であり、歴代最重量級のコンビが、キングオブコントの歴史に名を刻んだ一夜だった。

14年続いたジンクスを打ち破った!

そうそう最後に、キングオブコントにまつわるあるジンクスについて。2008の第1回から2021年の第14回まで、優勝者はすべて「初出場または3位を経験したことがある組」だった。これに対し、今回優勝したビスケットブラザーズは「前回6位」。14年続いたジンクスを打ち破った! という記録も書き残しておきたい。


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井上マサキ

(いのうえ・まさき)1975年宮城県生まれ。ライター、路線図マニア。大学卒業後、システムエンジニアとして15年勤務し、2015年よりライターに転身。共著に『たのしい路線図』(グラフィック社)、『日本の路線図』(三才ブックス)、『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか? 日本の昔話で身につく税の基本』(..

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