“浜村凡平太”という人間をご存知だろうか?
芸歴約19年、テレビ出演は10回以下、おそらく知らない人のほうが多いだろう。
しかし、芸人でその名前を知らぬ者はいない……とは言い切れないが、知っている人もちらほらいる。
どうしても、一向に売れず解散した同級生とのコンビ“浜口浜村”。
いまだに、一向に芸人を辞められないピン芸人“浜村凡平太”。
ランジャタイ国崎のM-1決勝前コラムには、そんな芸人への愛と感謝が、これでもかというくらいたっぷり綴られていた。
今回はそれを受けて、浜村本人にアンサーコラムのようなものを書いてもらった。
コラムのタイトルは、「スミスへの感謝状」。
暗そうな、目つきの悪い二人
初めて会ったのは、私が名古屋から上京してきてガロイン薗田君という後輩の家に居候していた時だろうか?
国崎は今の国崎じゃなかった気がする。国崎はガロイン薗田君から「スミス」と呼ばれていた。なので私もスミスと認識した。
スミスはなんか怖かった。今より痩せていたのか全身が角張っていた。スミスの名の通り本当に外国人みたいだった。スミスというコードネームを与えられた殺し屋みたいでもあった。清掃員に扮して、何気無くターゲットに近付いていって殺して、何事もなかったかのように帰っていくタイプの殺し屋。
そんな殺し屋スミスは、私が言ったことで時々笑ってくれた。何を話したかは覚えてないけど、あ、笑ってくれる人なんだ、と思った記憶がある。今考えると、富山から出てきた純朴青年が東京に馴染めずに人見知っていただけなのかもしれない。
伊藤幸司は今の伊藤幸司だった気がする。
ガロイン薗田家に遊びに来たランジャタイという二人。とても暗そうな鬱屈とした顔の目つきの悪い二人だった。おそらく私も同じような顔をしていた。三人とも、ウケなさすぎて自然に世間や社会を睨んでいたのだと思う。その横でガロイン薗田君は虫みたいな顔をしていた。
私は当時、本当にどうかしていたので、虚勢50%自分も騙す思い込み50%で「今の若手の中だったら俺が一番面白い。」とかましていた。二人はツッコむでも馬鹿にするでも嫌な顔をするでもなく(ほー。)という顔をしていた。先輩だから否定はしないけど自分達も面白いよー、という顔だった。
どんな会話をしたのかはあまり覚えてない。
一緒にランジャタイの漫才が入ってるビデオテープを見ることになった。
めちゃくちゃ面白かった。そして何よりもやろうとしてることが理解できた。自分達が面白いと思うことに忠実だった。
でも、ビデオの中では誰も笑ってなかった。
でも、というか、勿論、無論、言うまでもなく、当然の如く、誰も笑ってなかった。
想像してほしい。今のランジャタイのネタを国崎がぼそぼそ小さい声で小さい動きで全くお客さんに伝える気が無さそうにぶっきらぼうにやっているのを。そして横にいる伊藤幸司はこれまた更に小さい声でぼそぼそと注意することなくわけのわからない言葉を足したりしてるのだ。
笑わせる気ないだろ。(今だからこそそう思えるが、当時は私も、なんでこの客達笑わないの?と思っていた。)
ただ明らかにこのふたりの中に一本でっかい自分達の“面白”が通っているのはわかった。羨ましかった。
初めて会った時のことを思い出しても、ランジャタイのことは思い出しても国崎がどんな人かはわからない。
それからはランジャタイが当時所属していたソニーのライブに見に行ったり(誰も笑ってなかった)、ガロインと断固絶壁とのライブを見に行ったり(何人か笑っていた。ランジャタイがちょっとウケてるのを初めて見た)、ライブで会ったら話したり、時々ご飯を食べたりする関係になった。
いつ頃からか、ランジャタイと全然会わなくなった。ガロイン薗田君に聞くとライブも全く出てないらしい。このままだと辞めちゃいそうだなと思って自分のライブに誘った。当時、私が組んでいたコンビは少しだけ人気が出てきて、100弱くらいのキャパの劇場なら満員にできるくらいにはなっていた。私達のお客さんの前なら絶対ウケると思ったからだ。
ライブ当日。ランジャタイはウケていた。ふたりは嬉しそうだった。私も嬉しかった。私の勝手な勘違いじゃなければランジャタイはそれからまたライブに出るようになったと思う。
律儀にも、その時の事に今でも恩義を感じてくれているのかよく私の名前を出してくれる。ありがたい。
私はランジャタイが面白かったから誘っただけだ。
あの時のお客さんが笑ってくれたおかげ。ありがとう私達のお客さん。やっぱり良かったよあなた達。回り回って今回みたいなお仕事もらえました。
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