最新のニュースから現代のアイドル事情を考える。振付師・竹中夏海氏がアイドル時事を分析する本連載。今回は、現代の女性アイドル界が抱えている“とある問題”について取り上げる。
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目次
アイドル誕生から半世紀。現代の女性アイドル事情
日本に「アイドル歌手」と呼ばれる存在が生まれてから、すでに半世紀が経っている。
いつの世もその活動はハードだったに違いないが、苦労の影など一切見せず、いつも軽やかにステージに立つ姿はひとえに彼女たちのプロ意識、努力と美学によって成り立っている。
それゆえ、アイドルという仕事が体力的にいかに壮絶なものか、想像もつかない人がほとんどだろう。
現代の女性アイドルたちは、具体的にどのような問題を抱えているのか。近年のアイドル界で起こった事象をもとに取り上げていきたい。
“グループのパフォーマンス”により年々上がる運動量
2010年代初頭、日本では「アイドル戦国時代」と呼ばれるほど全国にアイドルが生まれ、その潮流は徐々に落ちついてきたものの、今日までつづいている。
同じくシーンが盛り上がった1980年代のいわゆる「アイドル黄金期」と決定的に異なるのは、ソロ活動が中心だった当時に比べ、現在はグループ活動が主流ということだろう。
それによってアイドルには運動量の増加という変化が起きた。「風が吹けば桶屋が儲かる」的な飛躍の仕方にも思えるかもしれないが、いったいどういうことなのか見ていこう。
ソロ歌手の場合、当然だが歌割りがないため歌いながら踊ることへの物理的な限界が生まれる。そのため手振りやステップは最小限に抑えられていることがほとんどだった。
それに対し、グループのパフォーマンスでは必然的に歌唱パートが割り振られ、それ以外の部分に振り付けがないとメンバーは手持ち無沙汰になってしまう。
次々に交替する歌唱メンバーを目立たせるという意味でも、また楽曲の表現手段としても、フォーメーション移動が必須となり、自然と運動量が上がっていったのだ。
ももクロから加速した「ストイックライブブーム」
もうひとつ、さらに大きく更新されたのはライブの密度ではないだろうか。
いくらアイドルの数が増えたとはいえ、当時から現在までも、メディアで大きく扱われるのはAKB48系列や坂道系列のグループがほとんどだ。
その中でテレビCMや数少ない音楽番組の出演枠を獲得してきたももいろクローバーZやでんぱ組.inc、BABYMETAL、BiSHなどの面々は、いずれもメンバーや楽曲の人気と共に、ライブの内容を高く評価されて狭き門を突破したという印象が強い(BABYMETAL、BiSHに関しては「アイドル」と公式に自称していないものの、前者は「成長期限定アイドルユニット さくら学院」からの派生グループ、後者は「新生アイドル研究会 BiS」の姉妹グループである)。
特にアイドル戦国時代の象徴的存在ともいえるももいろクローバーZ(以下、ももクロ)は、汗だくの全力パフォーマンスが従来のアイドルのイメージを覆し、多くの人々の心に届いた。
ももクロのステージングスタイルはライブアイドル界にみるみる浸透し、○○曲連続披露、MCなしライブと謳った公演が軒並み支持された。数多くのグループがしのぎを削った結果、ストイックなライブのブームは加速しつづけたのである。
アイドル史上「最も踊る時代」へ
また、テレビ出演の機会が多いAKB周辺のアイドルたちの中でも、系列ユニット間で差別化を図るため、SKE48やNMB48、そして欅坂46(現在は櫻坂46に改名)といった一糸乱れぬダンスを売りとしたグループが現れ、音楽番組出演時やCDリリース時のセールスポイントとして大きく扱われた。
もともとは1997年に「シャ乱Q女性ロックボーカリストオーディション」の最終選考落選者で結成されたモーニング娘。も、幾多のメンバーチェンジを経て、個々の確かなボーカル力はそのままに、隊形が次々と変化するフォーメーションダンスで再注目され、アイドル界屈指のパフォーマンス能力の高さで歴史を更新した。
こうして日本は半世紀を経て、「アイドルが最も踊る時代」に突入したわけだ。
CD不況が及ぼす、リリースイベントの頻発
2000年代に入ってからのCD不況は、アイドルの活動内容にも大きく影響を与えた。
音源としてのCDが売れなくなった時代に、握手券をつけたアイドルのCDだけが体験のおまけとして売れつづけ、週間売り上げランキングの上位に食い込むことが可能になったからである。
サブスクリプションサービスが今ほど定着する前の2010年代は、日本の音楽シーンもいわば過渡期で、CDの売り上げランキングの価値がまだ現在よりも高かった。
これをビジネスチャンスと捉えたアイドル運営やレーベルは、握手会やCD予約会、即売会のリリースイベントを頻発させることになる。メンバーの夏休み期間、GW、年末年始などはこうしたイベントが連日つづいた。
このようなシーンの変化の中で、アイドルたちの身体へのケアが追いついているかというと、残念ながらそこまでカバーできている運営・マネージメントは現状では少ないと言わざるを得ない。
月経痛が「甘え」であるはずがない
月経時に強い下腹部痛や腰痛などが起こり、日常生活に支障をきたすことを月経困難症といい、女性のおよそ4人にひとりが悩む症状ともいわれている。
身体に特に異常がないにもかかわらず、体質によって起こる機能性月経困難症は10〜20代に多く見られ、アイドルの多くが活動する年代とも重なっている。
月経周期には個人差があるものの、一般的には25〜38日が正常範囲とされているため、複数のメンバーが在籍するグループならば常に誰かしらが月経期にあたることになるし、さらにそのうちの数人は月経困難症に悩まされている可能性が高い。
しかし現実には、それを前提としてスケジュールが組まれることは稀だ。
たとえば激しい月経痛や経血漏れを訴えるメンバーが現れると、まるで不測の事態であるかのように現場が動揺する場面を私は何度も目にしてきた。しかし実際には、月経はけっして予測不能の体調不良ではない。
生理日管理アプリでサイクルを把握しておけば、月経不順でない限り先々までだいたいの生理日の予想がつくし、あまりにもつらい場合には月経困難症の可能性を疑い、婦人科を受診したほうがいい。ハードなセットリストを組む前に、メンバーの体調と相談しながら調整することも可能なはずだ。
さらに、座りながらの握手会を「甘えだ」という人は業界の内外を問わず少なからずいる。けれど月経中に立ちっぱなしでいることは時に踊るよりも辛いのは、私自身も身をもって経験している。多くの人に、まずはその事実を知ってほしい。
こうした女性特有の不調を、環境や性格によっては本人が職場に自己申告しづらいというケースもある。特に初経を迎えてからの数年は周期や症状も安定しないため、10代のうちは自分の身体の変化を把握できていないことも多い。
このような世代に、女性の身体についての正しい知識を運営・マネージメントからも教えられるような環境作りがアイドル界にもそろそろ必要ではないだろうか。
※竹中夏海 著『アイドル保健体育』「第一章 アイドルと生理」より抜粋・改稿
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