『その女、ジルバ』から見る日本ブラジル交流史。帰国者が語る<ブラジル移民の実情>
池脇千鶴の9年ぶりの連ドラ主演作『その女、ジルバ』(フジテレビ系にて放送中)が、「オトナの土ドラ」シリーズの最高視聴率を記録するなど各所で話題になっている。
アパレル販売員から会社の倉庫係に追いやられた池脇千鶴演じる笛吹新が、40歳の誕生日にひょんなことから高齢バー「OLD JACK&ROSE」に出合う。やがてホステスとなり、同僚との交流やバーでの出会いから新たな人生を見つけていく……という物語だ。サイドストーリーとして、新の故郷である福島の震災からの復興、ブラジル移民2世だったジルバの人生、店で働く女性たちの連帯が描かれている。
原作は、2019年に手塚治虫文化賞を受賞したマンガ『その女、ジルバ』(有間しのぶ/小学館)。本稿では、ジルバのバックボーンにある「ブラジル移民」の実情について、ブラジル帰国者の方へのインタビューを交えつつ紹介していく。
本日3月6日の放送分を含め、ドラマはあと2回で大団円を迎える。味わい深いこのドラマを最終回まで存分に楽しむために、「ジルバ」に迫る。
目次
ジルバの人生──ブラジルで生まれ、“世界にたったひとり”になって帰国
ドラマでは、ジルバは新(源氏名:アララ)が働く店「OLD JACK&ROSE」の初代のママ。ジルバが「初恋だった」マスター(品川徹)、「ジルバとOLD JACK&ROSEに救われた」エリー(中田喜子)、ジルバが「お母ちゃんみたいな存在」だったナマコ(久本雅美)と、店のメンバーにとって大きな存在だった。回想や写真だけの登場だが、新とジルバの2役を演じる池脇千鶴の魅力も相まって、その存在感が伝わってくる。
ドラマの第4話では、ジルバの命日のパーティーで、チーママの大田原真知(中尾ミエ)の口からジルバの激動の人生が語られていた。
ブラジル生まれの2世で、ブラジル育ち。幼いころに父が亡くなり、苦労して育った。昭和13年に結婚し娘が誕生し、やっと幸せな暮らしを手に入れた。ところが、アメリカとの開戦が迫り、帰国することに。開戦前に帰国船に乗ったが、日本まであと数日というときに、夫と娘が流行病で亡くなってしまう。ジルバは「世界にたったひとり」になって帰国。そこから戦争を挟み、マスターや店で働く女性たちとの出会いを経て店をオープンする。
ブラジル移民の始まり──戦前、家族と共に3歳で移民したジルバ
ところで、ドラマではあまり詳しく描かれていなかったが、ブラジル移民とはどのようなものだったのだろう。
ブラジル移民が始まったのは1908年(明治41年)。開国により海外移民が解禁され、当初は出稼ぎ目的で北米やハワイへ渡る人が多かった。ところが、日本人移民の増加に危機感を覚えた北米各国は移民を制限する法律を制定。資源獲得に役立つと、国策としてブラジル移民が奨励され、移民希望者は南米を目指すようになった。
ジルバはマンガでは、戦前、3歳のときに家族と共に移民したとある。年代は正確には明かされていないが、おそらく1910年代からブラジル移民の最盛期の1920、30年代の間だろう。
神戸にある「海外移住と文化の交流センター」は、1928年から戦中を除く1971年まで、これから移住する人がブラジルでの生活や心構えを学ぶ場所として使われた。現在は移民の生活用品や暮らしの様子が数多く展示されている。
原作漫画でも1941年の帰国船で神戸港についたジルバが、当時「国立移民収容所」と呼ばれていたこの建物を訪ねるシーンが4巻に出てくる。ちなみに、ドラマに協力している横浜のJICAの海外移住資料館でも、海外移民の歴史を知ることができる。
戦前は出稼ぎ目的の農業移民が多かった。彼らはいつか故郷に錦を飾ろうと、新天地での成功を夢見てブラジルへと渡っていった。ところが、じゅうぶんな現地調査をしないまま「楽園」「開拓すれば農園主」と喧伝されたため、実際にブラジルで移民に与えられた土地が使い物にならないことも多かったそうだ。
戦後の移民は旧植民地から引き揚げてきた人や炭鉱離職者も多く、その中には農業経験がほとんどない人もおり、そうした人たちが一から農業を始めるのは並大抵のことではなかった。
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