なぜ若者たちはハロウィンの渋谷に吸い寄せられるのか(トリプルファイヤー吉田靖直)

2020.10.30

文=吉田靖直 編集=森田真規


ソリッドなビートに、なんとも形容し難いユーモラスな歌詞で人気を誇るバンド「トリプルファイヤー」。作詞を担当するボーカルの吉田靖直は『タモリ倶楽部』や大喜利イベントに出演するなど、独特なキャラクターを活かして幅広いフィールドで活躍している。

ハロウィンの何が楽しいのかどうしても理解できなかった彼は、ある年、ハロウィン当日の渋谷センター街に繰り出した。スーパーマンのコスチュームとマントを身にまとい、彼がそこで見たものとは――。

ハロウィンなんか絶対に日本で定着しない。そう思っていた

誰かが日本でハロウィンを流行らせようしている。初めてそう感じたのは10年以上前のことだった。広告代理店の力なのかマスコミの力なのか知らないが、メディアでハロウィンが取り上げられることが急に増えた時期があった。アニメの時事ネタでハロウィンがあたかも日本に定着しているかのように描かれているのも観た。反射的に、踊らされてたまるか、と思った。

個人的にいい思い出がなかったせいもあるが、もともとクリスマスだとかバレンタインデーのような、外国の文化に憧れて合わせにいっているようなイベントがあまり好きではない。それでもクリスマスにデートをしたら楽しいだろうし、バレンタインに好きな子からチョコをもらったらうれしいのはわかる。

しかしハロウィンはいったい何が楽しいのか。欧米では子供が仮装をして「お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ」と近所を訪ねたりするらしい。それはそれで楽しいのかもしれない。しかし彼らがハロウィンを楽しめるのは、自分が好きでやっているわけではなく、伝統的な行事だからある意味仕方なくやっている、という逃げ道があるからではないか。

たとえば節分に豆を撒くことにもそれなりに楽しさはある。しかし仮にそんな文化がもともと日本になかったとして、「よし、南米で伝統の豆撒きパーティーをしよう」とみんなで集まって豆を撒いたとして楽しいだろうか。たぶん、「自分はなんのために豆を投げているのか」という違和感を拭えない気がする。食べ物で遊んでしまった、と罪悪感を持つかもしれない。

クリスマスやバレンタインデーのような、恋愛イベントと軽薄に結びつけられる行事でもない限り、海外の文化の上澄みを日本に取り入れようとしても上滑りした寒々しさが漂うだけだ。だからハロウィンなんか絶対に日本で定着しない。そう思っていた。

この目で確かめるため、スーパーマンのコスプレでセンター街へ繰り出した

しかしそれから数年後の10月末、最寄り駅の近くでスーパーマリオに変装した男やメイドのコスプレをした女などを数人見かけた。うわ、マジでハロウィンに乗せられてる奴っているんだ、と驚いた。マリオやメイドがハロウィンとなんの関係があるって言うんだ。馬鹿馬鹿しい。でもどうせ来年には偽物の流行も消え失せ、こいつらも踊らされていた自分のバカさを恥じているに違いない。

そんな私の予想は外れたようだ。初めてコスプレをした若者を見かけた年以来、ハロウィンの時期のコスプレ男女の数は年々加速度的に拡大していった。しかも鼻につくのが、ナースや魔女のような格好をした女が、皆決まって無駄に露出度の高い扇情的な格好をしていることである。

こいつらの目的はなんなんだ。何かよからぬことを考えているのではないかとネットで調べた結果わかったのは、最寄り駅で見かけた彼らは皆、渋谷を目指していたということだ。

ハロウィンの渋谷には日本各地から大量のコスプレ男女が押し寄せ、スクランブル交差点やセンター街は身動きも取れないほどの活況を呈している。そして、彼らはただコスプレを見せ合って楽しんでいるわけではなく、少なからぬ男女が出会いを目的としてそこに集っており、あたりはさながらナンパ大会と化している。ハロウィンの渋谷の非日常空間なら、誰でも簡単にナンパに成功できます。そのようなこともネットには書かれていた。

そんなことになっていたのか。嘆かわしいことだ。道端に大量に廃棄されるゴミも問題になっているらしい。日本のモラルの低下はここまで来ていた。あいつらは結局ハロウィンなどどうでもよくて、猥褻なことがしたいだけだったわけだ。いや、しかしネットの情報をただ鵜呑みにするのもどうなのか。一度渋谷の乱れ具合をこの目で見てみないことには、批判するにも力が宿らないかもしれない。

そう考えた私は、友人をふたり誘い、スーパーマンのコスチュームとマントを身にまとってハロウィン当日のセンター街に繰り出すことにしたのである。

長年の友人と縁を切ることを誓ったハロウィンの朝

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