なぜ若者たちはハロウィンの渋谷に吸い寄せられるのか(トリプルファイヤー吉田靖直)

2020.10.30

長年の友人と縁を切ることを誓ったハロウィンの朝

ハチ公口を出た時点で、異常な喧騒と熱気が辺りを包んでいた。渋谷は日本有数の繁華街だが、ここまで人が密集しているのを見たのは初めてだ。しかもそこにいる人の多くはドラキュラ、マリオ、ナース、修道女、アメリカンポリス、ピカチュウの着ぐるみ、といった浮かれた格好をしている。

2017年、ハロウィン当日の渋谷スクランブル交差点

なるほど。噂に違わぬお祭り状態だ。私たち3人は周囲のテンションに気圧されながら、人混みをかき分けセンター街を歩いた。通り過ぎる女子の多くが異常に肌を露出した格好をしている。尻がほとんど出ている女もいた。

ネットによると、この人たちは皆ナンパされに来ているという。それが事実かどうかを確かめるため、私が率先してふたり組女子に声をかけてみた。

「ハッピーハロウィーン!!」

ふたりの顔から笑顔が消え、目を背けるようにして向こうへ行ってしまった。なんだ、ネットに書かれていた情報は嘘だったのか。しかしたったひと組に声をかけただけでは検証として不十分である。私は苦痛に耐えながら「一緒に写真撮りましょう!」「コスプレめっちゃ似合ってますね!」などと数組に声をかけ、いつの間にか終電もなくなったころ、ついにメイドの格好をしたふたり組女子に飲みの誘いを了承してもらえたのである。

しかしこっちは3人、向こうはふたりで人数のバランスが悪い。勢いに乗っていた私は、「もうひとり誰か連れてくるわ!」と友人に告げ、またひとりでセンター街を徘徊した。

しかし歩いているのはふたり組や3人組ばかり、ひとりで歩いている女子はほとんどいない。数十分がんばってはみたが、テンションも落ち、やっぱりひとりじゃ無理だ、と気づいて友人に合流するため電話をかけた。

どういうわけか、友人が電話に出ない。LINEも既読になるのに返信がない。急に心細くなった。若者たちが路上でテキーラを乾杯している横で、スーパーマンの格好のままうなだれながら返信を待ったが、数時間経って始発の時間になっても返信は来なかった。

最寄り駅に着いてトボトボと歩いていたとき、やっと電話がかかって来た。友人はやたらテンションが高い。彼はあのあと、ふたり組女子とカラオケボックスに行って卑猥なゲームなどに興じていたという。

「てか、なんで電話出なかったの?」
「いや、盛り上がってたから今さら来られても困ると思って」
「は? 俺朝まで行き場なくてめっちゃつらかったんだけど」
「知らねえし。お前が勝手にどっか行ったんじゃん」

気づくと私は友人に罵倒の言葉を吐きつけながら電話を切っていた。そして長年の友人と縁を切ることを誓い、翌年のハロウィンにリベンジを期したのである。

紋切り型の批判など渋谷の若者たちには無意味である

翌年、別の友人と一緒にまたセンター街を歩いた。しかしなぜか去年のようにうまくはいかない。ちょっと声をかけただけで「うるせえんだよ!」と腹を殴られたり、柔道着を着ていたせいで、欲求不満な大学柔道部OBのような連中から「ちょっと俺らと試合しようよ」などと絡まれたりして最悪だった。

やっぱりハロウィンなどろくなものではない。「渋谷のハロウィンなんてただの欲求不満な奴らのコスプレパーティーだ」「騒ぎたいだけ」といった批判がよくされるが、数度渦中に身を投じた私も、まさにそのとおりだと思う。しかし渋谷の若者はもとよりそんなことは承知なので、紋切り型の批判は無意味だとも思う。

ハロウィンの渋谷で、メイド服の女性ふたりに挟まれ笑顔を見せる吉田氏

今年はこのコロナ禍、世間の批判を覚悟で渋谷に集まる奴はあまりいないと思われる。コスプレ衣装も例年に比べ全然売れていないらしい。そうでなくとも、数年前から渋谷のハロウィンの熱量は下降傾向であったように感じた。コロナが日本なりのハロウィン文化にとどめを刺すかもしれない。それはそれでいい。無駄に扇情的な女性が街を歩き回ることがなくなれば、愚かな男たちも平穏な気持ちでハロウィンの時期を過ごせるだろう。

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