「女の話は聞いても無駄」。ホイチョイ『不倫の流儀』が時代遅れで女性蔑視の見本市
映画『私をスキーに連れてって』(1987年)など、80〜90年代に数多くのブームを生んだホイチョイ・プロダクションズ。若者たちに絶大な影響力を持ち、新しいライフスタイルを提唱しつづけたホイチョイは、当時のカルチャーの中心地にいた。
それから30年。ホイチョイによる新刊『不倫の流儀:オッサンがモテるための48の秘訣』が驚くべき内容となっていた。書店員の花田菜々子が、その衝撃を綴る。
女を喜ばせるのは「チヤホヤすれば女の性欲が増す」から
あれは7月8日のことだっただろうか。ツイッターを何気なく眺めていると「母親なんだからポテトサラダくらい買わずに作れ」とスーパーで見知らぬ女性に言った高齢の男性が非難される(当然だ)ツイートがバズっているのを目にした。と、瞬く間にあちこちから「私もポテトサラダを買ってきた」「私もポテトサラダが食べたくなって」と、総菜店やコンビニで買ったポテトサラダの画像がどんどんツイートされ、祭りと化し、問題の発言者には「ポテサラじじい」という名前までついてこの祭りはハッピーエンドを迎えた。
ただ、おのれのツイッターのタイムラインと社会全体が大きく乖離していることはたびたびある。都知事選では、ツイッター上ではほとんど支持者がいない小池百合子氏が圧勝する違和感をつぶやいている人も多かった(これも、私のタイムライン上の話ではある)。ツイッターでは仲間を得て溜飲を下げることができても、実社会ではまだまだ女性への差別発言や蔑視に苦しめられることも多いだろう。
そんなことを考えていた矢先、女性蔑視の総本山のような本に出会った。2020年7月の新刊である『不倫の流儀:オッサンがモテるための48の秘訣』。著者はホイチョイ・プロダクションズの名義である。ホイチョイといえば、私もリアルタイムで経験はしていないが《バブルのときにトレンディな映画を作り、若者を熱狂させた人たち》というイメージだ。『私をスキーに連れてって』(1987年)、『彼女が水着に着替えたら』(1989年)などが代表作とのこと。20代の人でも、タイトルくらいは聞いたことがあるかもしれない。
興味本位でページをめくってみたのだが、冒頭から「かつてのコギャル(アラフォーの女性をそう呼んでいる様子)は今、全員が毎日毎日やりたくてウズウズしている」「若い女は、同世代の男に対し、『あんたたち、種を絶やしたいの!?』と常に憤っている」と、まるで性犯罪加害者のような思い込みを披露している。また、ドライブではこうしろ、美術館ではこうしろ、と独自のモテテクを次々と提案しているのだが、その端々に尋常でないミソジニーがみなぎっていて驚いた。
モテるためには女を喜ばせよう、話を聞こう、と説く。そこまではよいのに、その先を読むと、「チヤホヤすれば女の性欲が昂進(こうしん)されるから」「欲しいと言っていたものを買って次に渡せばヤレる」ということしか書かれていない。また、「女の健康法はファッションとして有名人の真似をしているだけなので、〇〇がいい、と言ってきても論理的に話を聞くのは無駄」だとされている。彼らにとって、どうやら女は内面を持たない生き物であるらしい。最後まで読み通したが、相手がどんな人なのか理解したい、自分がどんな人間なのか知ってほしい、心を通わせたい、という考えは、この一冊を通して一行もなかった。女Aは常に女B、女Cと交換可能な存在であり、若く、美しく、面倒なことを言わないほどランクが高い。
「けしからん」よりも「かわいそう」なほどの没落
私は、これまでフェミニストが「女をモノ扱いしている男」「女の人格を認めない男」を非難しているのを見かけても、それが何を指しているのか正直あまりピンときていなかった。だがこの本を読んで、「女をモノとして見る」というのはこういうことを言っていたのか、とはっきり理解することができた。そしてそれ以外にも今までピンときていなかったミソジニーや女性蔑視の事象が、この本を通して次々理解できるようになったのである。たったの一冊で。まったくすごい本だ。個人的には「この一冊ですぐわかる!女性蔑視」と実用書風にタイトルを変えて自分の店のフェミニズムコーナーに置きたいほどだ(置かないけど)。
しかしこの本全体を通して私が感じていたのは「けしからん」というよりは「かわいそう」という気持ちであった。この本が無名のミソジニー老人によるものであれば、自分もここまでの衝撃を受けなかったように思う。一時は時代を掴み、時代をひっぱっていた人でさえも、こんなふうに老化して激しいミソジニーを撒き散らすようになってしまう、そしてまったく今のトレンドを把握できなくなってしまうのだというショック。単純にフェミニズム的な怒りだけではなく、そんな驚きと寂しさが胸に広がった。
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