結婚して2児の父となった金ちゃんと、親にはならないと公言する良ちゃん。現在発売中の『鬼越トマホークの弱者のビジネス喧嘩術』でも、ふたりの結婚観や家族観が随所に織り込まれている。
QJWeb連載時に賛否を巻き起こしたルポルタージュ『ぼくたち、親になる』を著した稲田豊史が、鬼越トマホークが語る「結婚」と「家族」をさらに掘り下げる。


目次
金ちゃんが“子供ができて変わったこと”「肺に腫瘍が見つかったとき…」
稲田 『ぼくたち、親になる』は、ルポライターの僕が、子供がいる男親12人とパートナーはいるものの子供がいない男性3人に匿名で胸の内を聞いているインタビュー集です。金ちゃんは、お子さんがふたり(長女5歳、長男3歳)いらっしゃいますけど、あまりメディアではそういうお話はされていない気がしていて。でも、『弱者のビジネス喧嘩術』にはご家族の話もけっこう書かれていますよね。
金ちゃん そうですね。やっぱり、公に子供や家族を愛していないと炎上しますもん。「愛してる」と言うしかないですから(笑)。
良ちゃん 愛してない人もいっぱいいるけどね。

稲田 金ちゃんは、この本の中で「結婚すると運気が上がる」という話をされていますけど、具体的にはどういうことですか?
金ちゃん 今の奥さんと結婚するか悩んでいるときに、トロサーモンの久保田(かずのぶ)さんに相談したら「いや、(結婚)したらええやん。芸人としての仕事も増えるし、子供ができたら運気が上がるってよく聞くで」と言われたんですよ。逆にバンビーノさんには「結婚なんか絶対しないほうがええで」って(笑)。
良ちゃん それ、お前またバンビーノさんに怒られるんじゃないの?
金ちゃん いろいろありましたけど、久保田さんにちょっと背中を押してもらったのが大きかったですね。あとは「父親になることで豊かになる」みたいな記事も見たんですよ。実際に豊かになる人もいれば、そうでない人もいるのが現実だとは思うんですけど。
稲田 僕が『ぼくたち、親になる』で取材した男性の中には、育児で時間を取られて仕事がぶつ切りになって、夫婦仲がぎくしゃくして別居しちゃった人もいるんです。金ちゃんはそうではなかった?
金ちゃん それはめちゃくちゃわかりますけど、僕はそうではなかったですね。子供がいることで、仕事も「もうちょっとがんばろう」っていう気になります。もしいなかったら、自分のことも、将来のこともあんまり考えないだろうし。
一番変わったのは健康に対する考え方ですかね。僕って、別にいつ死んでもいいと思っちゃってる部分もあったので、20〜30代の下積み時代は暴飲暴食してたんです。
それで、今年の4月に健康診断を受けたときに、肺に腫瘍が見つかったんですよ。お医者さんには「がんの可能性があります」って言われて。

その時期にたまたま金属バットさんが僕のYouTubeチャンネルにゲストで来て、(金属バットの小林圭輔さんが)3歳のときに親父さんが家を出て行った話をしてくれたんですけど、「親父の顔も何も覚えてへんねん」って言われたときに、自分の子供と重なって。
うちの子もちょうど3歳なので、こんなに毎日遊んでて「パパ、パパ」って来てくれるのに、(もし自分が死んだら)子供は何も覚えてないんだ……って思ったときにめちゃくちゃ悲しくなったんですよ。
結果的に、肺の外にある胸膜っていうところに血管の腫瘍みたいなものがあって、それが良性で、経過観察になって、今はなんともない状態になったのでよかったんですけど。
そのときに考えたのが、やっぱり健康は大事だなと。でも自分が独り身だったら、そんなことは考えなかったと思います。
良ちゃん 話、長いなぁ(笑)。
金ちゃん いやいや、大事なとこだから!(笑) 先に言っておきますけど、良ちゃんは人の話がまったく聞けないんです。
稲田 (笑)。良ちゃんから見て、子供ができる前後で金ちゃんに変化はありましたか?
良ちゃん いや、僕は感じなかったです。というか、結婚したときもそうですけど、(奥さんと)付き合ってるときから僕に隠してましたからね。
金ちゃん 良ちゃんの嫉妬と束縛がすごかったんで(笑)。彼女ができる前は本当に、同期とも遊んじゃダメとか……。
良ちゃん そういう体(てい)ですけどね。本当に結婚するなら束縛なんてしないですよ。
金ちゃん あと、『M-1(グランプリ)』で結婚のネタをやることになったときに、僕はそのとき結婚してましたけど、半年くらい(良ちゃんに)黙ってました。結婚してない設定でネタをやるので、たぶん(結婚していることを)言っちゃったら、ネタが入ってこないんです。『M-1』の予選に落ちたあとに言いましたけどね。
稲田 『ぼくたち、親になる』で取材してる中でも、結婚していることは隠してないけど、子供がいることをまわりに隠してる人がいたんですよ。ネクタイをつけない柔らかい業界の人で、お父さんキャラになりたくない、チャランポランキャラのほうが、仕事が回ると言っていました。
芸人さんでも、パパを前面に出す方と、子供がいらっしゃったとしてもパパ感をあまり出さない方、さまざまなんですか?

金ちゃん そうですね。はっきり言ってしまうと、パパを前面に出しすぎると、好感度が上がりすぎてよくないことがあるんです。何かあったときにリスクがめちゃくちゃデカいんですよね。
家族を愛している、子供を愛しているって、みんな根底には愛している気持ちがあるんですけど、それをキャラにして仕事をもらっている方って、何かスキャンダルがあったときに反動がデカい。
たとえば、パパを出してハッピーな感じの仕事をしている人もいれば、体張ってちょっとゲスキャラでやってる人もいる。特にゲスキャラの人は、(パパを出すことが)足枷になるというか、「結局お前幸せじゃん」って見られてると、笑いづらくなっちゃうじゃないですか。なので、たぶん各々考えていろいろやってると思いますね。
稲田 モテないキャラでずっとやってた芸人さんがご結婚されると、自虐ネタの説得力が薄くなっちゃう、みたいなことですか?
金ちゃん 今まで不幸キャラでやってた奴が、急に幸せになるということですよね。それはたぶんあると思います。ただ、それが一般の業界でもあるのは初めて知りました。
良ちゃんが子供を作らない理由「一族の流れを止めたい」

稲田 一方で、良ちゃんはお子さんがいらっしゃいませんが、実のお父様に苦しめられたことが『弱者のビジネス喧嘩術』に書かれていて、衝撃でした。
良ちゃん (父親が)嫌いでしたね。嘘でも好きとは言えないというか、それは僕だけじゃなくて、4人兄弟みんなそうだと思います。僕が結婚するまで、誰も結婚してなかったですから。僕ももともとする予定がなかったのは、そういう親や一族の感じを見て、結婚しないほうがいいなと思ってたからですね。
稲田 『ぼくたち、親になる』でも同じような人を取材しました。お父様がダメな方で、DVもされたしお母様も助けてくれなくて、今パートナーの人はいるけど、子供は作らないと。その理由は、良ちゃんとは違うと思うんですけど、自分がそういう親になってしまうのが怖い、遺伝子には抗えないと感じているからだと。良ちゃんは壮絶な家庭で育ってきたんですか?
良ちゃん 壮絶というほどではないですよ。貧乏ではなかったけど、精神的に嫌だったんですよね。当時は家にも学校にもあんまりいたくなかったです。
稲田 ずっとご結婚する気はなかったとのことですが、出会いがあって結婚された今、思うことはありますか?
良ちゃん (奥さんと)なんでこんなことで喧嘩しなきゃいけないんだろうとか、意見が合わないなと思ったことは、人並みにはありますね。
そもそも、僕があまり仲よくない家庭で育って、ずっと親に対して「なんで産んだんだ」「なんで家族というものを作ったんだ」みたいな思いがあったんで。自分は責任取れないし、相手を幸せにできないから結婚しないと思ってたんですけど。

それを嫁に(付き合ってるときに)言ったら「結婚してみて、ダメだったら離婚すればいいじゃん」「離婚しても、この職業だったらおもしろくできるでしょ」って。僕は何十年も重く考えてたし、自分の父親の態度を長期間見て「こんなふうになりたくない」って思ってたんですよね。でも、嫁の考えにちょっと救われた。
今って男女平等とはいえ、僕らの世代は本当の男女平等の思想を子供のときから味わってきたわけではないじゃないですか。男が責任を取らなければいけないし、稼げなくなったときにみじめだろうなとか考えてたんですけど、嫁は意外とあっけらかんとしていて。逆にライトな感じで結婚して、背負える部分だけ背負えばいいのかなと思えたんで、結婚できましたね。
稲田 かなりデリケートな質問ですが、今でもお子様をもうける気はないですか?
良ちゃん ないですね、子供いらないです。嫁にも「本当に子供が欲しいんだったら、好きだけど、別れることも考えてほしい」と最初から言ってました。それも理解してくれたんで結婚しましたね。
稲田 それは幸せな親子家庭があまりイメージできない、ということでしょうか?
良ちゃん それもありますけど、一族の人間が嫌いなので、ここで(一族の流れを)止めたいんですよ。遺伝子を残したくない。たぶん、俺だけじゃなく、弟たちも同じように思ってると思います。
稲田 『ぼくたち、親になる』で取材した中にも、「別に、血は途絶えても構わない」みたいなことを言っている方がいました。
良ちゃん そうですよね。まず、俺は墓に入りたくないです。海に散骨がいい。でも、墓参りを無理やり大事にしてきた家ではあったんです。めっちゃ仲悪いのに、親族付き合いを保とうとして。ようやく上の世代が死んで、楽になってきましたけど、やっぱり恨みは消えないですよね。
だけど子供を作らないのは、俺の臆病なところもあるんですよ。子供に「なんで産んだんだ」とか言われたら、「でも、俺もそう思ってたよな」とか思っちゃう。だから自分の人生だけでいいかなって思ってます。
愛妻家アピールしなくても、みんなの共通認識で“家族”ならいい
稲田 お話を聞くと、おふたりって対照的ですよね。『ぼくたち、親になる』で取材をした15人も、おふたりと同世代の40代が多いんですが、価値観にかなり振れ幅がある。
今って、誰もが通過する人生の「当たり前」がなくなってきていて、「○歳くらいで結婚して、結婚したら1年ぐらいで子供を作ります」みたいな昭和的価値観は完全に崩れています。

良ちゃん 当たり前はないんですけど、当たり前の刷り込みはあります。
稲田 そうなんですよ。たぶん40代くらいは過渡期の世代です。家父長制的というか、昭和的な価値観の親に育てられたので、それが当たり前として刷り込まれているけど、時代は大きく変わりましたし、今は共働きがほとんどだから、刷り込まれた当たり前のとおりには家庭を作れない。そのジレンマで苦しんでるんですよ。ところで、金ちゃんのお子さんは、お父さんがこういうお仕事だってどれくらい認識されているんですか?
金ちゃん 「パパはお笑い芸人」と認識して、テレビを指差して「パパ、パパ!」って言うようになっています。でも下の子は正直ギリギリですね。パパイヤ鈴木さんや、令和ロマンの(松井)ケムリが出てるときも「パパ」って言ってたんですよ。たぶんヒゲで認識してる(笑)。
稲田 もう少し大きくなって、芸風を把握するようになったとき、喧嘩芸や毒舌だったりがお子さんにどう映るかを気にすることもあるんでしょうか。
金ちゃん いや、そこに関してはあんまり。結婚した当初はよく「子供できたんで、この芸風変えたいです」って笑い取ってましたけど、今は正直ないですね。これで生きてきたし、奥さんにも「好きなようにやってほしい」と言ってもらえたので、いつか子供にも「パパは人の悪口を言ってみんなを養ってます」と教えようかなって(笑)。
僕はそんなに、芸人に対してプライドないですよ。今の芸人って『M-1』出て、アーティストっぽい、ちょっとリスペクトされるような感じになったじゃないですか。大学お笑い出身の奴とかもいますけど、自分は高卒だし、別に誇れるものもないんで、そこは別におっぴろげに全部言っていこうかなと。
稲田 お子さんがいらっしゃる芸人さんは、お子さんに対して自分の芸風がどう見えるか気にされたりするんでしょうか?
良ちゃん 子供をめっちゃ愛してるけど、全然浮気してる奴もいますからね。でも、子供を大切にしてないわけでもないんですよ。社会的には批判されるかもしれないけど、子供がOKならいいんじゃないかと思いますけど。
金ちゃん 僕は「愛妻家で売ってるけど、実はそうでもない」って奴が嫌いなんですよ。その裏側を見たときに冷めちゃうというか、この人で笑いづらいなと思うことはありますね。
今はやっぱり愛妻家のほうが仕事も増えるけど、そこまでして仕事欲しいかな?って。みんな、奥さんのことも子供のことも愛してはいるじゃないですか。でも、それをわざわざ言うのが嫌いで、別にみんなの共通認識で“家族”であればいいと思うんですよ。
稲田 一般人の場合は、イクメンをアピールする人ほど実はそんなに育児をやっていなくて、ちゃんとやっている人は黙ってることが多かったりしますね。
この本で取材した男性のひとりは、家計が逼迫しているからと睡眠時間を削ってダブルワークをしていました。しかし奥様から理解も感謝もなくてつらい。そんなときに見つけたのがマッチングアプリで、同世代の女性4人と会ったそうです。誰とも肉体関係を結ばなかったけど、自分の話をおもしろがってくれて、すごく感謝してくれて、奥様から得られない喜びと感動を得たそうです。精神的浮気ではあるけど、それでめちゃくちゃ充足したと。
良ちゃん いいんじゃないですか? じゃあ独身の奴だけがキャバクラに行っているのかって話ですよ。僕もボーイやってたことがあるからわかりますけど、キャバクラに行かないと、次の日の仕事に行けない人がいるんですよ。
金ちゃん 男はそう思うんですよね。だから難しいのは、女性がどう思うかで、ほとんどの女性は同意できないんだろうなって気がします(笑)。

良ちゃん 俺は正直、奥さんが浮気したり、女性用風俗とか行っても全然いいんですよ。でも、それを許す男はあんまりいないんですよ。自分は浮気するけど、奥さんの浮気や、奥さんが男友達と遅くまでふたりで飲むのは絶対嫌だっていう男、めっちゃ多いですよ。そこを平等にすればいいじゃないですか!
稲田 YouTuberのヒカルさんも、オープンマリッジを公表されてましたよね。
金ちゃん ヒカルさんはそういうこと言いそうだし、やりそうじゃないですか。お互いに認めてればいいと思いますけどね。
良ちゃん それに、今の時代は離婚するのも普通ですよ。前澤友作さんはお子さんがいらっしゃって、離婚してますけど、俺は前澤さんの子になりたいですからね! 離婚しても自分がやりたいことにお金くれるんだったら、前澤さんのこと「パパー!」って呼びますもん。
金ちゃん それは選ばれし人間だよ(笑)。
子供のことを考えられるなら、離婚もアリ?
稲田 パートナーへの愛情とお子さんへの愛情って、切り分け可能なものなんでしょうか。
金ちゃん はんにゃの川島(章良)さんも最近離婚されたんですけど、別れても両親ふたりともお子さんを愛してるし、たまに会ったりして、お子さんが不幸にならないように動いてるんですよ。一緒にいるというかたちがなくなるだけで、本当に子供のことを考えられるなら、離婚もアリだなと思いますけどね。
良ちゃん シングルマザーやシングルファザーも、今は普通ですから。俺の家なんか、離婚もしてないし、夫婦何十年も続いて子供が4人いて一軒家で……これだけ聞くと「いい家ですね」って言われかねない。それを必死で「もう最悪でしたよ」って説明するわけですよ。
毎日朝から酒飲んでる親父がずっと家にいて、「料理は女が作るものだ」って言われる。だけど、親父がいない日は母親がコンビニ弁当買ってきてくれて、それが楽しくてしょうがない。だから俺、セブン-イレブンの牛カルビ弁当がいまだに大好きなんです。
だから、僕が口出すこともないですけど、百者百様、なんなら一億者一億様の家庭があると思いますよ。

稲田 さっきのマッチングアプリの男性はお子さんがふたりいるんですけど、下の子が成人するときに離婚するかどうか決めると言ってました。
金ちゃん たぶん子供も気づいてますよね。僕らも子供のころ、親が喧嘩しているのを見るのは嫌じゃないですか。でも、年を取るにつれて理解できるようになってくる。いろいろ事情があるし、そうなっていくよなって。
稲田 親が思うより、子供のほうが考えてるし、見てるんですよね。今日はたくさんお話を聞かせていただき、ありがとうございました。『ぼくたち、親になる』の15人に、あとふたり分、金ちゃんと良ちゃんの話を加えたいくらいです。
金ちゃん 『ぼくたち、親になる』は、匿名インタビューというのがまたいいですよね。きっと、匿名じゃないとしゃべれないですから。逆に、自分の嫁が匿名で出て、めちゃくちゃ俺の悪口言ってたらショックですけどね(笑)。

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『鬼越トマホークの弱者のビジネス喧嘩術』
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