『マンダロリアン』を読み解くヒントは「戦後」。シーズン1で描かれた対比とは?
海外ドラマファンやSFファンの間で、『マンダロリアン』が熱い支持を得ている。ベビーヨーダ(正式名称は「ザ・チャイルド」)の愛らしさが話題になることも多いが、それは魅力のごく一部。シーズン1が完結し、自宅で過ごすことが多い今の時期にこそ観る価値がある作品だ。
『スター・ウォーズ』初の実写ドラマシリーズであり、エピソード6『ジェダイの帰還』以降の世界が舞台となる本作では、何が描かれているのか? アメコミやミリタリー分野に精通するライターのしげるが、「戦後」というキーワードから紐解く。
過去に囚われた者/未来に進む者の対比
物語全体の序章である1~3話以降は1話ごとに毛色の違うストーリーを展開し、そもそもの『スター・ウォーズ』の構造である「SFというパッケージで過去のジャンル映画的な要素を提示し直す」というコンセプトに立ち返ったかに見えた『マンダロリアン』。
しかしシーズン1を通して観て浮かび上がったテーマは、「戦後という時期を通し、過去に囚われた者たちと未来に進む者たちの対比を描く」というものだった。
『マンダロリアン』の時代設定は、エピソード6『ジェダイの帰還』の5年後、エピソード7『フォースの覚醒』の25年前という時期に当たる。銀河帝国と反乱同盟軍との大戦は終わったものの、新共和国は銀河の隅々まで統治の手を広げることはできておらず、辺境には無法者やガンファイター、そして賞金稼ぎが跋扈(ばっこ)していた。
主人公は特殊な装甲服を身につけた戦士の集団「マンダロリアン」に属する若き賞金稼ぎ。本名を隠している彼は、単に「マンドー」とだけ呼ばれている。マンドーは旧帝国の残党から50歳のターゲットを捕獲する任務を受け、悪戦苦闘の末に獲物を捕らえることに成功する。
戦争の傷を抱える者たちと、50歳の赤ん坊
しかし50歳と聞いていたターゲットは伝説のジェダイであるヨーダと同じ種族と思しき、緑色の赤ん坊「ザ・チャイルド」だった。掟に従うならザ・チャイルドを帝国軍残党に引き渡すべきであるが、マンドーは道中のトラブルをザ・チャイルドの強力なフォースによって救われる。葛藤の末ザ・チャイルドを救い出すことにしたマンドーは、追っ手から逃れながら銀河の各地を転戦することになる。
各地でトラブルを解決したり、チンピラヤクザの脱獄に手を貸したりと、マンドーとザ・チャイルドはさまざまな戦いを経験する。4~6話では『七人の侍』へのド正面からのオマージュやケイパーもの(犯罪者集団が活躍する映画ジャンル)っぽい展開なども挟まれた。それらの中で出会った人々との関係が、一気に物語を盛り上げるのが7話「罰」、そして8話の「贖罪」である。
『マンダロリアン』に登場する人々の多くは、戦争によって深い傷を負っている。元反乱軍のショック・トルーパーであり、故郷オルデランをデス・スターによって破壊されたことから、未だに帝国軍に対して増悪を燃やすキャラ・デューン。アグノートの農民として暮らすも、過去にはやむを得ない事情から帝国軍に加わっていたクイール。ドロイドでありながら賞金稼ぎとして戦い、第1話で破壊された後は大きく性格が変化したIG-11。
マンドー自身もクローン大戦での難民で、幼少期にマンダロリアンたちに拾われた孤児だった。いずれも脛に傷を持つ身である。
7話では彼らがマンドーの呼びかけによって結集し、帝国軍残党との決戦に赴く。この戦いにはかつてのように巨大な宇宙戦艦などの出番はなく、大型兵器として登場するのはTIEファイターただ一機である。
彼らの戦いはもはや「戦争」たりえず、地方軍閥とガンファイターの小競り合いに過ぎない。にも関わらず、この戦いには「戦後」を生きていこうとする者と、「戦前」に回帰しようとするものとの鮮やかな対比があった。