『マンダロリアン』を読み解くヒントは「戦後」。シーズン1で描かれた対比とは?

2020.3.26

なぜ帝国軍は古い装備しか使わないのか?

マンドーらの前に立ち塞がる帝国軍残党。彼らが使う装備は、銀河内乱当時のものばかりである。

そのチョイスは徹底して過去の『スター・ウォーズ』から引用されており、おなじみの白い装甲服を着たストームトルーパーやスピーダー・バイクに乗ったスカウト・トルーパーばかりか、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のデス・トルーパーや、ゲーム『スター・ウォーズ フォース・アンリーシュド』のインシネレーター・トルーパーまでもが登場する。エピソード5『帝国の逆襲』でちょっとだけ出てきたEウェブ重連射式ブラスター砲が強力な重機関銃として登場し、やられ役の雑魚メカだったTIEファイターが恐るべき戦闘機として描かれるなど、それらの描写も実にマニア好みだ。

スピーダー・バイクに乗るスカウト・トルーパー (c) 2019 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

当初は俺も、これはオタク向けのくすぐりなのかなと思っていた。実際、よく知っている帝国軍の武器に新しい方向から光を当て、意外な描き方をされるのは大変おもしろかった。

しかし、この執拗さは少しおかしい。なぜなら、これまでの『スター・ウォーズ』のスピンオフでは、何かしら敵側にも新しい兵器が投入されていたからである。魅力的な敵側の新兵器が出てこなければ、オモチャも売れない。大丈夫なのだろうか。

反面、主人公であるマンドーは、1シーズンのうちに何度も装備を更新する。マンダロリアンたちにとって武器と装備は己のすべてであり、信仰である。彼らは報酬として受け取ったベスカー鋼で装甲服を少しずつ新調し、さらに一定のスキルを身につければジェットパック(背中に取り付ける飛行装置)の装着も許される。

マンドーはシーズン1を通して全身の装備を更新し、それによって強敵に打ち勝つことができた。当初は妙にゲームっぽく見えたこの設定だが、前述の帝国軍と並べてみると違った面が見えてくる。

マンドーはピカピカのスーツと強力な武器を装備 (c) 2019 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

というのも、帝国軍残党のストームトルーパーたちが身につけているのは、ズタボロになった銀河内戦当時からの使い古しの装甲服なのだ。かつては純白だったであろう塗装は痛み、傷と汚れにまみれている。

一方で、マンドーの装備は話数を追うごとに更新されてピカピカになっていき、ついに8話では新たに身につけたジェットパックの力によって、帝国軍の象徴的戦闘機だったTIEファイターに生身で打ち勝つのである。

戦前のドグマに囚われた帝国軍残党

ボロボロに汚れた白い装甲服をなおも着つづけるストームトルーパーは、戦前のドグマに囚われた帝国軍残党の象徴と言える。それに対して、プログラムを根底から書き換えられた戦闘ドロイドや、装備を更新し光り輝くアーマーを身につけた傭兵が、力を合わせて打ち勝つ。

「戦前」の姿を捨てることができず、過去からの遺産だけを武器に再興を待つ者たちと、さまざまな事情を抱えながらも「戦後」のその先へと歩みを止めなかった者たち。装甲服ひとつとっても、『マンダロリアン』では鮮やかな対比が見て取れる。

ストームトルーパーたちの装甲服はだいたいボロボロ (c) 2019 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

この対比のためにこそ、帝国軍残党側の武装は執拗なまでに過去作からの引用にこだわり、そしてマンドーの装備は話数を追うごとに更新されつづけた。そして物語の焦点であるザ・チャイルドが、未来の象徴である赤子の姿を取っているのも示唆に富む。

「未来」に対して何かしら邪な意図(その意図がなんなのかは、今後のシーズンで解明されるだろう)を持っていると描写された帝国軍残党、そして未来を守るため捨て身で戦い、孤児から「父」へと成長したマンドー。ザ・チャイルドを巡っても、未来に向けて歩む者と未来を握りつぶそうとする者との対比が描かれている。

『マンダロリアン』の目標は「戦後」のその先?

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しげる

ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。『ウルトラジャンプ』にて「ウルトラホビー」、『月刊ホビージャパン』にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、『ホビージャパンエクストラ』にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさ..

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