ぺこぱ独占インタビュー【後編】優しいからではない。受け入れるツッコミの原点

2020.2.6


サッカーとバンド、夢をあっさり諦める

──ぺこぱの漫才を初めて見たとき、松陰寺さんのツッコミからにじみ出る“優しさ”に感銘を受けました。独特のスタイルが「人と違うことをしたい」という芸人魂から生まれたことはすでに語っていただきましたが、ではなぜ裏切りの方向が「受容」や「肯定」に向かったのか、個人的にはそこがとても気になりました。

松陰寺 笑いを生むために「ボケてツッコむ」をさらに裏切りたいってことで行き着いたスタイルであって、優しさ先行では別にないんですよ。確かに優しい優しいってよく言っていただくんですが、僕自身はそんな人間でも全然なくて。たとえば昔やってた「ヒップホップ漫才」では暴力的な表現もありましたし、その前の政治を鋭く斬っていく漫才もそんなに優しい感じではなかった。

シュウペイ 昔は売れてる芸人をひがんで、人の悪口とかもすごい言ってたもんね。

ぺこぱ独占インタビュー【後編】優しいからではない。受け入れるツッコミの原点
不遇だった時代を振り返るシュウペイ

松陰寺 そうそう。でも、そういうのって全部自分に返ってくるんですよね。「事務所が何もしてくれないから売れないんだ」ってボヤいてる先輩とかめっちゃいたんですけど、それを見て、「人のせいにしてるうちは絶対ダメだ……」と心の中で思って。そこから「自分を責める」っていう発想が出てきて、「2回もぶつかるってことは俺が車道側に立っていたのかもしれない」みたいなツッコミにつながったのかなとは思います。

──突如舞台の隅っこに行ってしまったシュウペイさんを見て、「正面が変わったのか……?」と自分を疑い出す松陰寺さんも衝撃でした。「自分を疑う」って、特に男性にとってはなかなか難しいものじゃないかと感じます。

松陰寺 こいつが横を向いたんじゃなくて、俺が変かもしれないっていうやつですよね。こういうネタを考え出したのは1〜2年前くらいで、当時は葬儀屋でバイトをしてたんですが、ひどい扱いを受けてたんですよ。こっちは35歳とかなのに、20代の上司たちから「芸人なんだ(笑)」「ぺこぱ知らねえな」「いいからこれ運べよ」って。それで心をなくしかけてたんですけど、そのときも彼らを責めるのはやめようと思って。俺が知られてないのが悪い。めっちゃしんどいバイトだったので、そうしてないと心がもたなかったというのもあるんですけど……。

──あそこにはさまざまな人生経験が染み込んでいたわけですね。こういった感性は、ちょくちょく織り込まれている時事ネタに対する視点にも反映されているように感じます。

松陰寺 ニュースはすごく好きでよく見るんですけど、たとえば前に渋谷区でLGBTの女性同士が入籍する、婚姻届を始めて受理しましたというニュース(※)がありましたよね。僕らの漫才に、女性が女性にプロポーズするひと幕があって、僕が「いや女同士が結婚したっていいじゃないか!」って言うんですが、ツッコまずに受け入れるツッコミが生まれたのはそれが初めてだったかもしれないです。

※2015年、渋谷区が同性カップルにパートナーシップ証明書を初交付。第1号となったふたりは2017年にパートナーを解消したことも報じられた。

ぺこぱ独占インタビュー【後編】優しいからではない。受け入れるツッコミの原点
同性カップルのニュースについて語る松陰寺

──その言葉につづく「そうだろ? 人それぞれいろんな形の愛があるんだ」というセリフには感動すら覚えました……!

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清田隆之

(きよた・たかゆき)1980年東京都生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している。 『cakes』『すばる』『現代思想』など幅広いメディアに寄稿するほか、朝日新聞..

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