世の中が変わった。僕らは何も変わってない
M-1決勝の生放送。裏では、昨年も決勝進出した見取り図の盛山晋太郎が「全員で戦いましょう!」と盛り上げ、熱い現場だったという。かまいたち、和牛という優勝候補2組が2番手、3番手で登場して、高得点を獲得していくなか、ミルクボーイは焦らずウケることしか考えていなかったと振り返る。1番手のニューヨークが登場した瞬間、観客席からは盛大な拍手が起きた。その瞬間、ふたりはいけると確信する。
内海 一昨年2018年のM-1は、1組目登場の時に拍手がなかったんですよ。僕らの漫才は、ネタの冒頭に観客席から何か物をもらうというツカミがあります。ですから、観客席から拍手が起きていない状態だと、どうしてもツカミが不自然になってしまう。
駒場 決勝ではそのツカミをやめようとも考えてたんですが、ギャロップの林さんに相談すると、「普段やってるもんやめて、どうすんねん」と僕のほうは見ずに、空を見て言われました。
内海 かっこいいハゲやな!(笑) でも、実際、「ABCお笑い新人グランプリ」のときみたいに、金のメッシュ入れたり、新しいをスーツ買ったり、本番当日だけ急に普段と変えても、いいことなんてまったくないですから。
駒場 決勝の7番手で、ステージにせり上がっていく途中も、ふたりで「マジでやろやろ! おもろい! 最高やな!」と話しながらステージに出ました。普段の通りに臨めたんです。漫才中は、ここウケたら次はどうなんねんて、ずっと楽しかった。ひとネタ目の1位通過については、本当に「ウソ?! ウソ?!」って感じでしたけど。
2本目のネタ「最中(もなか)」は当日練習できなかったんですが、ネタに不安はなかったです。最初にオール巨人師匠から票が入って、次々とミルクボーイに入っていきました。松本人志さんで「あ、かまいたちさん……」と一瞬思いましたけど、1本目でM-1史上最高得点を獲得し、その上完全優勝までしてしまったら、僕らはまた呑んで遊んでしまってたかもしれませんから(笑)。
内海 まだ自分らは足りないと思えたので、本当によかったです。
彼らはM-1チャンピオンになった今でも、まったく気を緩めることなくトガった志を保つ。ただ世間からはミルクボーイの漫才に対して、“人を傷つけない漫才”というトガりとは対極とも思える声も上がっている。
内海 僕らの漫才は自分では毒があると思ってて、「コーンフレーク」の漫才も怒られてもおかしくないと思ってました。もちろん、誰かを傷つけないようには多少は配慮してましたけど、基本は同世代のお客さんに向けて全力でおもしろいものをぶつけてました。でも結果、普段は若い人の漫才についてけないと言ってる80代のおばあちゃんが笑ってたとか、小学生が僕らの漫才をまねしているとか聞いて、驚いてます。角刈りの太ったおっさんが言ってたのがよかったんですかね。
駒場 人を傷つけてると思ってた武器がめっちゃ柔らかかったのかなと。けっこうズバッと言ってたんですけどね。
内海 優勝以降、世の中が変わった感じがします。僕らは何も変わってないんですが。
ミルクボーイは2019年の1年間、テレビでネタをやるのはその日のM-1の決勝が初めてだった。大阪・天王寺区の「住みます芸人」として、おばあちゃんたちと社交ダンスを踊ったり、小学生とけん玉をやったり、それまで営業の現場で様々な経験を積んできた。そのすべてがネタに、人間に反映されているのだろう。
M-1優勝後も休むことなく、ふたりは常にネタ合わせを怠らない。その姿を観た劇場の後輩芸人たちも、それまで以上にネタ合わせに励んでいるという。
駒場 ミルクボーイがM-1獲れたんやったら、俺らもいけるんちゃうかと思って、後輩たちがネタ合わせをするようになったんやったら、むちゃくちゃうれしいですね。
内海 僕ら、M-1優勝したことで、今、自由に漫才ができてる感じがします。「他にネタあるのか?」「1パターンのネタしかないやろ」と言われたりしますけど、シメシメと思ってますよ。12年間分の漫才がありますし、まだまだ違うかたちのネタもたくさんありますから。
駒場も僕も、自分らのM-1の漫才をあとで観て、全然へたやなと思ったんです。だからもっとうまくなって、「上方漫才大賞」も獲りたいし、なんばグランド花月でトリもやりたい。まだまだ漫才でやりたいことがあるんですよ。
駒場 もっと先ですが、師匠になっても新ネタをやってスベっていたいんですよ。
内海 かっこいいよな。憧れですよ。僕ら、トガりまくった師匠になりたいんで。
ミルクボーイはまだ、漫才師という道を歩き始めたばかりだ。
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