「にじさんじ」の新人VTuber7人中3人が「学校」出身!VTuberの学校って何?徹底考察(たまごまご) 

2023.2.3
たまごまごサムネ

VTuberのご意見番・たまごまごの連載第11回で注目するのは「バーチャル・タレント・アカデミー」。これは、企業所属のVTuberが、直接オーディションを受けるだけでなく下積みできるといういわばVTuberの学校のシステムで、「にじさんじ」ではしっかり機能し始めているのだ。ほかの企業でも「VTuberを養成する学校」づくりの動きは出てきている。VTuberってそもそも教えたり学んだりするものなのだろうか。 

「にじさんじ」では機能し始めている

企業が運営するVTuberグループとして最大手のひとつ、ANYCOLOR株式会社の「にじさんじ」。今年の1月、新規に7名が一斉にデビューした。同時にデビューする人数としてはかなり多い。

今回のデビューは話題性が高く、ツイッタートレンド入りがつづいた。7人のうち3人は「バーチャル・タレント・アカデミー(以下・VTA)」という教育課程を経てすでに活動しており、デビュー準備の待機状態だった。

企業所属のVTuberが、直接オーディションを受けるだけでなく下積みできる、いわばVTuberの学校のシステムが「にじさんじ」ではしっかり機能し始めており、ファンの間で注目されている。

そもそもVTuberもYouTuberも各々が自由に、自分のやりたいエンタメを見せるものだ。資格もいらないし、やらねばいけない必須項目もないはず。なのに学校にそろって通うというのはどういうことなのか、という疑問はVTAが始まった当初、正直筆者にはあった。ツイッターを中心とした反応も、「にじさんじ」のファンであっても、何をするところなんだ?と疑問の声が当初上がっていたのは事実だ。それどころか、アカデミー生ですら当初は首を傾げていたくらいだ。

お金のかからないVTuber研修

「弊社のタレントとしてのデビューを目指した、候補生の募集を開始します。バーチャルの世界で活躍したい、本気の方々のご応募をお待ちしております」とVTAの公式HPには記載されている。

VTuberの養成コースはかなり前からいくつかの専門学校ですでに存在している。しかし、ANYCOLORのVTAは「VTuber企業が自身で運営している」「『にじさんじ』でデビューの可能性がある」「候補生として配信ができる」「タレント性を高める」という点で存在が特別だ。

まず企業運営であることにより、研修中の受講費、入学金等が一切かからない、というとんでもない好待遇になっている。詳細までは公式記載がないが、元アカデミー生の話によると機材も会社のサポートを受けられるそうで、配信をやったことがない人でも配信機器一式を借りることができるとのこと。やる気さえあれば、文字通り身ひとつでできるのだ。

詳しくはVTAデビュー生に、にじさんじライバーがインタビューしたこの動画がわかりやすい。アカデミー卒業生の話によると、レッスンで学ぶのはボーカル、ダンス、演技といったアイドル・タレント修行の内容や、YouTube活動で役立ちそうな音楽のMIX知識、ANYCOLORの歴史などの座学とのこと。

【にじさんじ】直撃VTAインタビュー【グウェル・オス・ガール/フミ/天ヶ瀬むゆ/海妹四葉/先斗寧】

にじさんじの先輩ライバーはかつてはダンスなどは必須項目ではなかった。VTAでは専門家の指導のもと必修になっているのは、「にじさんじ」の方向性として興味深いところだ。

授業は大学のような形式で、先輩後輩問わずグループ分けして一斉に受講。課題は多くなかなかハードだったようだ。あとは元VTA生の発言から推測するしかないが、少なくともかなりきっちりした研修プログラムが組まれているのは間違いない。

これらの授業を受けながら、VTAの公式チャンネルで週に1回、実践授業的に配信を行う機会がもらえる。比較的多い人数の、目の肥えたアンテナの高い視聴者から見てもらう機会が、最初から与えられることになる。

そしてVTAでの活動後、正式ににじさんじでのデビューが決まる可能性が出てくる。デビュー後はVTA時代のアーカイブは非公開になり、0からのスタート扱いになるものの、すでに知名度はある程度高いはずだ。

口をそろえて「うさん臭かった」

先ほどの動画に出ていたのは3人組ユニット「Ranunculus(ラナンキュラス)」。天ヶ瀬むゆ、海妹四葉、先斗寧で構成されている、元VTA一期生のグループだ。彼女たちは動画内でVTAに対して「うさん臭かった」と口をそろえて言っている。

何をやるのかHPを見てもはっきりしていない。本当にデビューできるかどうかもわからない。お金がかからないというけれどかえって不安になる。

最近のVTuber界隈では、怪しげなオーディションやスカウトがそこそこ存在する。今でこそ実績があるので人気の高いVTAだが、いくら「にじさんじ」のANYCOLORとはいえ前例がないとなると警戒されるのも無理はない。

それらの不安は、ラナンキュラスのデビューで払拭された。VTAでちゃんとがんばれば、多くの人の憧れの的である「にじさんじ」からデビューできる、という最初の例を作った。以降、VTA時代の話は配信でもされることが増えて、VTAという組織の透明度はぐっと上がった。

次にVTAからデビューしたのはVOLTACTION(ヴォルタクション)という男性4人グループだ。配信慣れしている、歌がうまい、バイオリンやギターなどそれぞれ特技を持っている、4人の仲がいい、とタレント性を発揮し一気に人気になった。ラナンキュラス、ヴォルタクション共にデビュー時はANYCOLORが大々的に宣伝を打っており(例・駅に巨大広告を貼るなど)、サポートも万全だ。

その後VTAには二期生、三期生と後輩も入り始めるようになった。応募者が増えてVTA自体が狭き門になっていき、受かるのが大変になった。二期生のひとり未来丹音羽がオーディションの話題と受かるコツを語っている(この動画は仮に彼女がデビューすると決まったらおそらく観られなくなるので、早めに観てほしい)。

https://www.youtube.com/watch?v=x-TlGr-Jz-U
【面接対策】VTAオーディション受けてみた【未来丹音羽/VTA2期生】

デビュー前のフレッシュな新人の時期を観ておける、というのはほかにないエンタメだ。VTAのチャンネルでアカデミー生が30分リレー形式で配信を行うため全体が見渡しやすく、VTA箱推しファンは多い。アカデミー生たちの関係性は学園物的な空気感もあり、マンガのスピンオフを観ているようで、コンテンツとして非常に魅力的だ。

ただ、不安もファンにはあった。VTAのアーカイブが消えるのはデビューの前触れ、というのはラナンキュラスとヴォルタクションのときに判明した。ところが一期生の鏑木ろこはひとりだけデビューが遅いのみならず、アーカイブが消えてからも一向にデビューの報がなかったのだ。

VTAデビューがルーティーン化すると思われていただけに、それが崩れたのにはファンは動揺した。VTA生はデビューできる、という確約は存在してはいない。

VTA生と新人が入り交じる7人

【初配信】じゃじゃ~~ん【鏑木ろこ】

結果として鏑木ろこは、ほかの6人と今年1月に一緒にデビュー。彼女のVTA時代からのファンは「デビューしないかもしれない」という不安の中で待ち焦がれていたため、報が出たときのツイッターでの安堵と喜びの盛り上がりは尋常ではなかった。もともとユニークな企画配信で人気だった彼女。デビュー配信も自己紹介ではなく「遊園地復興のプレゼン」という個性あふれるもので、期待を裏切らない内容にファンは大喜び。今までのファン以外からも高い評価を受ける配信になった。

【雑談】すってんころりん【先斗寧/にじさんじ】(32:40あたりから)

鏑木ろこのデビューについて誰よりもソワソワしていたのは、元一期生の同期だったラナンキュラスのメンバーたちだ。先斗寧は特にかつてから鏑木ろこの「強火オタク」として知られており、なかなかデビューしなかったことが気になって仕方なかったことを語っている。

雑談 冬の雨なら雪の方が楽しい【 天ヶ瀬むゆ / にじさんじ 】(33:30あたりから)

天ヶ瀬むゆは一期生の中で鏑木ろこだけデビューしなかったことに対して「なんで?」とかなり驚いていたようだ。卒業してデビューする際は一時的にお別れすることになるのもあり、「全然泣いたし」と語った。彼女は鏑木ろこを「同期」だと明言している。

【雑談】扁桃炎とか喉が〇んだりとかしてたけどおかげで逆に整いました【海妹四葉/にじさんじ】(45:30あたりから)

海妹四葉は7人の後輩ができたことについて、ものすごくウキウキで話しており、かわいがる気満々のようだ。鏑木ろことに対しては、心の友ではあるけど後輩、立場は対等だけどできることはやってあげたい、というスタンスのようだ。まるで卒業した高校生が大学で再会するときのようなフレッシュな距離感だ。

今回デビューした新人はVTA生と新人のミックス。しかもVTA生側は先輩と後輩が混じって同期デビューしている。今まではVTA生は同期ユニットでのデビューだったので、今までにない新鮮な構成になった。VTA経験者と未経験者でどんな化学反応が起こるか楽しみだ。

「ぶいすぽっ!」の新しいプロジェクト

別の企業の例として、Virtual eSportsプロジェクト「ぶいすぽっ!」でも、研究生制度が発表されたのを挙げておきたい。「ぶいすぽっ!」も企業運営の人気VTuberグループで、こちらはeSportsに特化した配信が目玉のひとつだ。

研究生は一個人配信者としてスタートし、そのバックアップを会社が非公開で行う、というかなりユニークな形式になっている。運営からは配信用PCの貸し出しや配信に対するフィードバックが行われ、配信戦略の提案やゲーム上達のプランニングまでプログラムに組み込まれている。その中で採用試験が行われ、受かると「ぶいすぽっ!」の正式メンバーになるという構造だ。

OJTスタイルなので、みんなで集まる学校形式にはならないようだ。そのぶん一人ひとりに会社がかける労力コストはものすごく高いように見える。シークレットスタイルなので、今がんばっている配信者が、ある日突然「ぶいすぽっ!」でデビューするかもしれない、というのはなかなか見る側としても夢のある話だ。

企業側の育成

VTAにしろ「ぶいすぽっ!」研究生にしろ、企業側がお金と人手をたっぷりかけて、本格的にタレントを育成しているのが伝わってくる。現在は特にVTuber・Vライバーがそのまま各種メディアに出ることが増えた。企業VTuberとしてデビューした瞬間から何千何万という人の視線を集め、ネットでの影響力はとても大きくなりつつある。となると先に企業のあり方やコンプライアンス、タレントとしての基礎経験の研修をしておくのは、本人のためにも会社を守るためにも理にかなっている。

もちろん完全新人の持つ爆発力や自由な発想は見逃せない魅力。「にじさんじ」の壱百満天原サロメはVTA生ではないが、デビューと同時に大ブレイクし、あっという間に170万人登録者を記録、お嬢様を目指す一般人というユニークな性格が話題になって、テレビに雑誌にと引っ張りだこだ。1月デビューの半分のメンバーのように、VTA卒業がデビュー必須条件とは限らない。

今後もしかしたら、さらに高いレベルのタレント的活動を目指してデビュー前研修をするVTuberのグループや企業は増えていくかもしれない。一方で個人だから自由にできる特化型のVTuberやアートスタイルのVTuberも、爆発的ではないが増えつつある。一概にどちらがいいとはいえない。タレント型とクリエイター型がそれぞれに大きく育ちつつある現代ならではの動きとして、注目したい。

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たまごまご

道民ライター。『ねとらぼ』『Mogura VR』などのWEBメディアや、雑誌『コンプティーク』『Vティーク』『PASH!』などで執筆中。マンガ、アニメ、VTuber、サブカルチャー中心に活動中。『仕事のマナー「気がきかない」なんて言われるのは大問題ですっ!』などなど発売中。バーチャルプラットフォーム..

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