新たなチームで開花する長澤まさみと渡辺あや
この場面の浅川は飲めない酒を飲んで酩酊し、斎藤は
「俺は俺で落ちつかなきゃいけないっていう事情があってさ」
第3話より
と浅川が嫌がるのを無視して煙草を吸う。気持ち悪くなってトイレに吐きに向かい、その際、音消しに音楽をかけてと頼む浅川。淡々と音楽をかける斎藤。トイレから出てきて、シンクで口をすすぎながら、嗚咽し始める浅川。大根仁は、長澤まさみを撮ることにかけては天下一品である。『モテキ』のときの溌剌としたTシャツ一枚の長澤まさみを経て、『エルピス』では懊悩する長澤まさみへ──。
泣きじゃくりながら、自ら斎藤にキスする浅川。これもまた、渡辺あやのインタビューでの発言、
あたりさわりなく社会に存在するためにはそのエネルギーを全開にできないから、ちょっとずつ自分を殺している必要があるんじゃないかなって。それも一種の自己管理じゃないかと思うんですよ。
脚本家・渡辺あやインタビュー(5)煙草と人間のエネルギーについて「ちょっとくらい体に悪いこともやっていないと」
を思わせるシーンである。
斎藤は、浅川にとって煙草という毒なのではないか。それを摂取することによって何かを得るように、彼と同衾したあと、放送できないといわれた映像を『フライデーボンボン』で流す暴挙に出る。そうしたエネルギーを斎藤から得ることができたのではないだろうか。これまでのNHKのドラマでは見られなかった、渡辺あやのなかに潜む濃密な危うさが佐野亜裕美プロデュースと大根仁演出のもとで開花しているように感じる。
『エルピス』で語られる「正しさ」とは
『エルピス』は一見、社会の問題に目を向け、世直しを訴えるドラマのようなところもあるが、実のところ、ここで語られる正しさとは個人の問題であり、自分の信じたものを貫くことであり、それは時として他者からはそしられることでもある。だから浅川は岸本に
「空気読めない人って強いよね」
第3話より
と言うのであろう。空気を読まずに突き進もうとする浅川の盲信は少し危うくもあるが、それこそがこのドラマの求心力だ。
第3話でほかに気になったのは、
「言っちゃなんですけど、斎藤さんたちのせいですよね」
第3話より
と空気を読まずに冤罪事件の発端をさくっと指摘した岸本と、弁護士・木村卓(六角精児)が浅川に紹介した新聞記者の笹岡まゆみ(池津祥子)が、社会部ではなく政治部だということ。本人は八頭尾山が地元だからと言っていたが、政治部記者であることは、政治家が事件に絡んでいる可能性を示唆しているのではないだろうか。
複雑にエピソードが絡み合っていく大衆娯楽的な要素も、渡辺あやの新境地になりそうな予感がする。ただひとつ、空気を読まずにいうならば、映画とNHKドラマ育ちの渡辺あやの脚本は、時間が連なっていてCMを入れる余地が難しそうだということだ。いつもシリアスな登場人物の表情のあとに、ガヤガヤしたCMが入ると、CMのあるドラマになんの疑問も持たずにこれまで観てきた筆者ですら、あまりの世界の違いに戸惑う。『フライデーボンボン』と冤罪調査報道のような差異、この個性は失わずにいてほしい。
『エルピス ―希望、あるいは災い―』
毎週月曜22時から放送中
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、岡部たかし、筒井真理子、鈴木亮平 ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁、下田彦太、二宮孝平、北野隆
音楽:大友良英
プロデューサー:佐野亜裕美、稲垣護
写真提供=カンテレ
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