伝説の異色曲「スナッキーで踊ろう」「イエロー・サブマリン音頭」の制作秘話(てれびのスキマ)

てれびのスキマ

テレビっ子のライター“てれびのスキマ“が、昨日観た番組を記録する連載「きのうのテレビ」。バラエティやドキュメントの中で起こった名場面、名言、貴重な会話の数々を書き留めます。2020年から毎日欠かさず更新中。


『レギュラー番組への道』

NHK『レギュラー番組への道』枠で放送のパイロット番組『1オクターブ上の音楽会』。歌謡曲全盛の時代に常識を突き抜け、異色の輝きを放った名曲を取り上げ、その制作秘話を探ると共に、なんとその当時の歌手本人が現在の歌声で歌う会。

主宰のクターブ・イチヲに扮するのは竹中直人。第1回は「巨匠たちの大冒険」と題し、1968年に発売された海道はじめの「スナッキーで踊ろう」と、1982年に発売された金沢明子の「イエロー・サブマリン音頭」。

前者は「オぅオぅ~~~~♪」という不穏なメロディラインでカルト的人気の曲だが、演歌界の巨匠・船村徹が手がけたもの。もともとはスナッキーのCMソングの依頼から制作が始まった。「断末魔の声、地獄に落ちていくような声……そんなものを作りたかった」と船村が制作意図を語った貴重なインタビュー映像も流された。「新しいロックを作る」という意気込みで、高音が得意で独特な舌使いを持つ民謡出身の弟子であった海道に歌わせたそう。バックダンサーには少女たちを起用。のちに清純派女優として大成する吉沢京子が10代のころに参加していたという。80歳の海道と68歳の吉沢が54年ぶりにそろって「スナッキーで踊ろう」を歌い踊るのがすごかった。

大滝詠一が手がけた「イエロー・サブマリン音頭」は「いろいろな小節にいろいろな音楽に対するリスペクトが詰まっていて音楽のおもちゃ箱みたい」と評されていたように、ビートルズの「抱きしめたい」、「デイ・トリッパー」、「アイ・フィール・ファイン」、「涙の乗車券」など数多くの曲の要素が入っているのはもちろん「スーダラ節」、「遺憾に存じます」といったクレイジーキャッツ要素、アメリカの行進曲「錨を上げて」や日本の「軍艦行進曲」、「おこさ節」、さらには自身のはっぴいえんどの音源も使われていたと解説され、その作り込みのこだわりに今さらながら唸った。67歳の金沢明子も、見事に当時のまま歌い上げる。どちらもしっかり高音を響かせてプロフェッショナルのすごさを感じた。

次回も藤波辰爾の「マッチョ・ドラゴン」や『ゴジラ対ヘドラ』の「かえせ!太陽を」を取り上げる模様。

『ドキュメント20min.』

今回は「タイトルだけは決まってる」と題された実験型ドキュメンタリー。まずルーレットを回してタイトルを決める。結果「ズレてるテレビ」というタイトルに決まり、バカリズム、ヒコロヒー、構成作家の矢野了平、ラッパーのTaiTan、漫画家の大橋裕之がどんな番組にするのかを討論。それをNHKが制作するという企画だ。物理的にズレてるのか、心理的にズレてるのか、あるいはセットごとズレてるのかなど、さまざまな角度から「ズレてるテレビ」を検証していく。途中、無言の時間があったり会議ならではのやりとりがおもしろい。

「通訳さんが訳してるのって多少ズレてるじゃないですか。一回番組を撮ってそれを起こして、英語に訳してもう一回日本語に訳して、それで台本を作ってそのとおりにやる」(バカリズム)、「微妙に音がズレてる音楽番組」(TaiTan)、「ネットの反応を意識しない今の時代とズレてる番組」(ヒコロヒー)などの案が出るなか、最終的にヒコロヒー案をもとに「おもしろくないものではなくて、(ネットが)盛り上がらないものを作る」と決定。

後半は、その討論をもとにNHKのスタッフが制作した“番組”に。その「バズらないゲスト」として、出演本数ランキングで46位、テレビに出てもSNSでつぶやかれにくいというジャンポケ太田をキャスティングしたのはおもしろかった。しかし内容自体は「おもしろくないものではない」(つまりはおもしろい)という部分を大事にしつつ「(ネットが)盛り上がらないもの」というのは難しいなという印象。試みはとてもおもしろかったので、また別のタイトルのものでも見たいし、バカリズム案の番組も観たかった。


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てれびのスキマ

1978年生まれ。ライター。テレビっ子。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)、『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)など。

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