竹内涼真論──【ちからづよい】ではなく、【ちからつよい】。竹内涼真は、濁点のない空気清浄俳優だ。

告白的男優論#26 竹内涼真論

(c)2022「アキラとあきら」製作委員会
文=相田冬二 編集=森田真規


人気韓国ドラマのリメイク作として話題を呼んでいる放送中のテレビドラマ『六本木クラス』(テレビ朝日)で主演を務めている竹内涼真。そんな彼が『下町ロケット』『陸王』につづいて池井戸潤の映像化作品に出演した映画『アキラとあきら』が8月26日に封切られた。

ライターの相田冬二は、竹内涼真の演技は「(観客の)想像力を喚起する」と評する。俳優の奥底にある魅力に迫る連載「告白的男優論」の第26回、竹内涼真論をお届けする。


濁点がない表現

じっとりではなく、しっとり。
ざらざらではなく、さらさら。
ばっと出るのではなく、はっとさせる。

竹内涼真の表現には、濁点がない。

濁点を抜くことで、テクスチャが様変わりすることを、あっけらかんと実践している。しかも、孤独に、淡々と、行っている。

その不断の継続を、爽やか、などという大雑把な言葉でまとめてしまっては、大切なものがこぼれ落ちる。

心を込めている。が、その振る舞いが大仰な方向に傾くことはない。だから、演技が誇示される瞬間など、けっしてない。

立派な体躯に反して、竹内涼真が醸し出すウェーブフォームはどこまでも清らかで、濁りがない。スムースで、クリア。日本酒なら、純米大吟醸。ワインなら、透明度の高いプレミアム。水のように、ではなく、水よりなめらかなお酒のように、彼の存在は観る者に浸透していく。

想像力を喚起するパフォーマンス

映画『アキラとあきら』予告

最新主演作『アキラとあきら』のありように、改めて驚かされる。濁点のなさ、澱みのなさに、呆気に取られる。見つめるべきは、物語やセリフではない。竹内涼真の実存である。

新人銀行員のストーリー。幼いころ、父親の町工場が倒産。銀行の冷たい仕打ちがトラウマとなった少年は、人情に厚いバンカーとなった。

彼には同期入社のエリートがいて、大企業の御曹司であるにもかかわらず、継ぐことを拒否。銀行員となった変わり種だ。

対照的な家庭環境。ポリシーや性格もまるで違う。ふたりの青年の道行きは実に劇画チックで、わかりやすい構造。バチバチに火花を散らしていた両者がやがて協力し合うまでの流れは、多くの観客にとって想定内だろう。

山崎瑛<アキラ>に扮する竹内涼真(写真左)と、階堂彬<あきら>に扮する横浜流星のW主演が実現した『アキラとあきら』

竹内涼真は、明瞭なお話の中にキャラクターを埋没させるのではなく、生き生きと呼吸することで、物語そのものを活性化させていく。つまり、設定や展開に同化するのではなく、一匹の生き物の息吹きを自立させ、その清々しさで逆にすべてをくるんでいくのである。

あらかじめ想定されるシチュエーション→キャラクターという確認作業をひょいとかわし、深刻な背景を持つ者が必ずしも深刻な面構えで生きているわけではない、という当たり前の真実を、平然とかたちにしている。

逆にいえば、私たちには、たとえば主人公の少年時代が映し出される映画のとき、いかに過去のシリアスさに現在の主人公が同化しているかを期待する、嫌な習性がある。少年時代を演じる子役と、主演俳優がよく似ていると、とたんに浮き足立つ。だが、そんなことに本質はない。それは演技表現を見つめることとはまったく別種の、意味のない「圧」だ。

竹内涼真は、無意識に同化を求める愚かな眼差しをすり抜けて、一見、過酷な少年時代にはさほど支配されていないように見える主人公の現在形を画面に存在させる。そして、その姿があまりにも自然だから、あの少年がこの青年になるまでには何があったのか、秘められたストーリーに想いを馳せることになる私たちがいる。

そう、想像力を喚起するのだ。

やっぱり、思ったとおりだ。そんな安直な確認作業ではなく、どのような人物にも、その人にしか通れない道があり、そこをくぐり抜けてきた轍のことを、固有の人生と呼ぶのだということが、竹内涼真のパフォーマンスからは体感できる。

『アキラとあきら』より

竹内涼真が教えてくれる“観客の醍醐味”

あるいは、ライバルである同期(横浜流星)に初めて接近するときの振る舞い。

相当にプライドの高いこの同期に、自ら近づき、リスペクトを表明しながら、腹の探り合いをけしかけていく竹内涼真のカジュアルなアプローチは、余裕とおかしみに満ちており、通り一遍の熱血漢ではまったくない。

竹内涼真=熱い人情派。
横浜流星=クールな知性派。
誰もが想定し得るカテゴライズを、するっと崩し、物語上の好敵手というよりは、演技者同士としての好敵手の肌触りを、ごく自然に漂わせる。

『アキラとあきら』より

定められたレールからは逸脱しているが、だからこそおもしろいし、吟味しがいがある。むしろ、与えられた設定・展開をいかに踏み越えていくか、それこそが演技の醍醐味であり、観客の醍醐味でもあるかということを、竹内涼真は教えてくれる。

辣腕である。が、辣腕ぶりを見せつけることはしない。

ゴリゴリしたところがまるでない。ゴリゴリせずに、私たちの先入観からコリを取る。そうして、観る者は楽になって、自由に、そこに映し出された人間を、味わうことができるようになる。

気張らなくていいんだよ。

竹内涼真は気張ることなく、私たちの背筋を伸ばしてくれる。

思えば、土屋太鳳共演の『青空エール』における不動の清涼感にも、菅田将暉共演の『帝一の國』における尋常ならざる善人ぶりにも、枠をはみ出るフリーダムと、ボーダレスな魅惑が充満していた。

竹内涼真を見ていると、元気になる。

【ちからづよい】ではなく、【ちからつよい】。濁点のない表現で私たちの感性をマッサージするこの俳優は、無駄なチリや埃を除去し、観る心を清浄しているのだ。

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  • 映画『アキラとあきら』 (c)2022「アキラとあきら」製作委員会

    『アキラとあきら』

    2022年8月26日(金)全国東宝系にて公開
    監督:三木孝浩
    原作:池井戸潤『アキラとあきら』(集英社文庫刊)
    脚本:池田奈津子
    出演:竹内涼真、横浜流星、髙橋海人(King & Prince)、上白石萌歌、児嶋一哉、満島真之介、塚地武雅、宇野祥平、戸田菜穂、野間口徹、杉本哲太、酒井美紀、山寺宏一、津田寛治、徳重聡、矢島健一、馬渕英里何、山内圭哉、山村紅葉、竹原慎二、アキラ100%、奥田瑛二、石丸幹二、ユースケ・サンタマリア、江口洋介
    配給:東宝
    (c)2022「アキラとあきら」製作委員会

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相田冬二

Written by

相田冬二

(あいだ・とうじ)ライター、ノベライザー、映画批評家。2020年4月30日、Zoomトークイベント『相田冬二、映画×俳優を語る。』をスタート。国内の稀有な演じ手を毎回ひとりずつ取り上げ、縦横無尽に語っている。ジャズ的な即興による言葉のセッションは6時間以上に及ぶことも。2020年10月、著作『舞台上..

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