EXILEと三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEのメンバーとして活躍しつつ、俳優としても独特な存在感を放っている岩田剛典。彼の最新出演作『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』が6月17日に封切られた。
ライターの相田冬二は、彼の演技の本質を「男性的なフェロモンとは別種の、オリジナルな香りが匂い立つ」と評する。俳優の奥底にある魅力に迫る連載「告白的男優論」の第25回、岩田剛典論をお届けする。
立体的なスパイシーさを有した俳優
おそらく引き出しの多い俳優である。
女優に対する純然たる相手役。
あるいは、喜劇性を多分に含有したキャラクターもなんなく乗りこなす。
テクニシャンの余裕も感じるし、陰陽どちらにも転べるミリ単位の柔軟性はとても正確。
だが、単純に技術力の高い演じ手としての側面を語ったところで、岩田剛典の岩田剛典たるゆえんは浮かび上がってはこないだろう。
第一に彼は、とても個性的な存在なのだということを確認しておきたい。
まず、身のこなしがきめ細やかである。表現者としての出自はダンサーなのだから、これは当然のことなのかもしれない。だが、この綿密さに、黒胡椒を思わせる粗挽きな声の質量が配合されることで、岩田剛典は独自の風合いを醸し出す。
もしも、甘やかでムーディな声の持ち主であったらなら、ジェントリーな物腰は倍加し、往年のスタアを思わせるスマートさに、私たちの眼差しは釘づけになっていただろう。しかし彼は、完璧に調合されたガラムマサラのように気高く、そして複雑にして立体的なスパイシーさを有している。
いわゆる男性的なフェロモンとは別種の、オリジナルな香りが匂い立つ。
ハンサムの枠内には、到底収まらない。
岩田剛典が持つ固有の“効能”
だからだろうか。
人間離れした役を体現したときのほうが、岩田剛典固有の輝きは際立つ。
それは奇人変人ではない。極端な振り幅を強調しなくても、彼が演じることによって、いくつかの作品では、人間ならざるスピリチュアルな何かが立ち上がってくる。
初期の『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』はかわいらしいテイストの作品である。濡れた仔犬のようにヒロインの家に転がり込んできて、おいしい料理を作る青年を、私はずっと植物の精だと思って眺めていた。物語の結末はそうではなく、このキャラクターはあくまでも人間だったが、岩田剛典という個性がそこではファンタジーを呼び込んでいた。
『Vision』では、山守に扮した。奈良・吉野の山奥が舞台だったが、主人公がジュリエット・ビノシュということもあり無国籍、もっといえば、どこでもない抽象的な場所=【山】の守り人として、そこにいたように思う。いや、【山】を守っているというより、【山】そのものであった。
英語のセリフもあったが、基本的にはほとんど話さず、主人公とはテレパシーで交信しているようにも見えた。ビノシュは幻の薬草を探しに来日するジャーナリストという設定。薬草。岩田剛典はやはり、植物と親和性が高い。どこか、ハーブを思わせる佇まいもある。自然がよく似合う。彼自身が薬草といえるかもしれない。
こうした【効能】に着目し、さらに高い領域に引き上げたのが、青山真治監督であった。
『空に住む』は、岩田剛典ならではの森の精霊のような冷ややかさを極限まで研ぎ澄ましている。
タワーマンションで暮らす人気俳優。虚無なのか。甘えなのか。誘惑なのか。ツンデレなのか。そのどれでもあるようで、どれでもない深層を小出しにする彼に引き寄せられるように、多部未華子扮する女性編集者は接近していく。
ある種の潔癖さと、理解を拒むネガティブな岩田のありようは、タワマンを高く聳え立つ【山】として認識させる。そう、そこは空気が薄い。
無菌室の【王】たるこの俳優に、ヒロインは果敢にインタビューを挑み、それがクライマックスとなる。
そうして岩田剛典の小動物を思わせる眼球が、私たちに、底なしの示唆を与える。
精霊の道は、動物に通ずる。
何段階もの変幻を見せる『去年の冬、きみと別れ』も、衝撃=圧倒のラストシーンで観客を金縛りにする『名も無き世界のエンドロール』も、いずれも、スクリーンの向こう側から、私たちが生きる現世を凝視する動物的な気高さに満ち満ちていた。
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