誰もが認めるハリウッドを代表する世界的な大スター、トム・クルーズ。彼の初期代表作の36年ぶりの続編『トップガン マーヴェリック』が5月27日に封切られた。
ライターの相田冬二は、彼の演技の本質を「トム・クルーズの輝きとは、自らを輝かせるためではなく、自分ではない誰か、何かを輝かせるためにある」と評する。俳優の奥底にある魅力に迫る連載「告白的男優論」の第24回、トム・クルーズ論をお届けする。
ハリウッドを代表するスターであり、特異な俳優トム・クルーズ
どの映画が彼らしいのか。その答えは、観客一人ひとりで違うだろう。彼に何を求めるかというよりは、映画という娯楽メディアに何を求めるかによって、トム・クルーズという固有名詞の位相は異なる。
多数決に真実などあったためしはないが、どうしても数の論理で考えたいのであれば、四半世紀にわたって継続されている『ミッション:インポッシブル』シリーズは来年7作目が公開されるようだし、8作目の製作も決定しているとのことなので、これが代表作ということになるのかもしれない。
彼は依然、マネーメーキングスターだし、今やすっかり小粒になってしまったハリウッドの、偉大な歴史の最後の代名詞と呼んでも過言ではない。
しかしながら、リアルタイムで彼のキャリアを体感してきた者のひとりとして感じることは、トム・クルーズという存在は、非常に特異な俳優であるという事実だ。
トム・クルーズは目立ちたがり屋ではない
『ハスラー2』(1986年)でポール・ニューマンの、『レインマン』(1988年)でダスティン・ホフマンの傍らに立った若者は、その光でベテランたちを輝かせた。ニューマンやホフマンの演技に支えられるのではなく、大先輩である彼らを支えていた。
添え物、ということではない。むしろ、バディである。つまり、対等。ポジションキープが的確で、老練な俳優たちを自由に泳がせる才覚を感じた。なんなら、ニューマンやホフマンより、一枚上手だった。
トム・クルーズの輝きとは、自らを輝かせるためではなく、自分ではない誰か、何かを輝かせるためにあるのだ、ということをはっきり知ったのは、主演作を積み重ねていた過程で迎えた『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年)でのことだった。
当初、その起用に反対していた原作者アン・ライスは完成した映画を観て、美しき吸血鬼を演じたクルーズを絶賛。だが、彼の演技は、彼自身ではなく、相手役ブラッド・ピットを輝かせるために捧げられていた。物語構造がそうなのではない。トム・クルーズの演技がそうだった。ある意味、演出を超える芝居だった。
スタンリー・キューブリック最後の映画となった『アイズ ワイド シャット』(1999年)では当時の妻ニコール・キッドマンと共演。結果的には、妻の艶やかな魔(それまで、そのような女優ではなかったにもかかわらず)を引き出すことになった。が、これは意図していたかどうかはわからない。
『マグノリア』(1999年)では、新興宗教の教祖を快演、当時新人だった監督ポール・トーマス・アンダーソンの才能開示にひと役買った。群像のひとりというポジショニングを守り通した姿勢は、映画人の仕事として天晴れだった。
もちろんネームバリューは歴然としている。だが、映画そのものをつぶさに見つめれば、トム・クルーズという男はけっして目立ちたがり屋ではないことがわかる。おそらく、自己顕示欲(それはあるだろう)の取り扱いが特殊なのだ。
映画に心身を捧げてきたトム・クルーズ
彼の決定打は、『宇宙戦争』(2005年)である。ことによると、スティーブン・スピルバーグの最高傑作かもしれない本作で彼は、いよいよ特異な俳優としての力量を完全に発揮した。この監督とは2度目のタッグということが、トム・クルーズの全力を生んだのだろう。
『アイズ ワイド シャット』で見せた流浪する男の虚ろな瞳が、『宇宙戦争』においてはさらに空洞化しており、あの眼球に、世界の不条理がすべて映り込んでいた。震撼に値する目の演技。トム・クルーズってこんな芝居もできるんだ、ではなく、スピルバーグってこんな映画が撮れるんだ、と思わせるところが、トム・クルーズマナーである。このことは、映画史においてきちんと記録されなければいけない。
トム・クルーズは、そのパブリックイメージに反して、延々、映画に心身を捧げてきた男なのである。
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