前科者がいる社会において、私たちはどうあるべきか──映画『前科者』を観て、ライターになった私が今思うこと(折田侑駿)

2022.1.29
映画『前科者』 (c)2021香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

(c)2021香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会
文=折田侑駿 編集=森田真規


「保護司は仮釈放で出所した受刑者の保護観察にあたる。」

これは映画『前科者』(1月28日より公開中)の冒頭シーンに登場するテロップである。有村架純が、不器用でまっすぐな保護司を演じたこの映画で描かれるのは、犯罪を犯してしまった者たちが社会復帰することの難しさと、加害者/被害者と区分することの難しさだ。

そして、この記事の筆者であるライターの折田侑駿氏は、かつて理不尽な傷害事件の被害者になってしまったことがあり、さらに同居していた祖母が保護司の活動をしていたことによって悩まされた時期があったという。

「忌まわしい過去の経験から得た何かしらについて、いつか書かねばならないと思っていた」という折田氏が、『前科者』を観て感じた思いを記した──。


罪を犯した者と保護司の関係を見つめた『前科者』

生きていればいろいろなことがある。うれしいこと、悲しいこと、楽しいこと、つらいこと。思い出したくないことのひとつやふたつ、誰しもが抱えていると思う。そして誰だって、時には間違いを犯すものだ。自らを清廉潔白の聖人だと主張できる者などひとりもいないはず。けれどもこの「間違い」があまりに大きい場合、それは「罪」となり、人は「犯罪者」となる。

このような人々が更生し、社会復帰をするためのサポートを務めるのが保護司の存在。犯罪者や非行少年の更生を助ける非常勤の国家公務員でありながら、報酬は一切ないという。民間の奉仕精神だけで成り立っている職業なのだ。そんな保護司を主人公に据えた映画『前科者』は、罪を犯して“前科”を持ってしまった者たちと保護司の関係を見つめている。

本作は、原作・香川まさひと、作画・月島冬二による同名コミックを実写化したもの。WOWOWにて放送されたドラマ『前科者 -新米保護司・阿川佳代-』の「劇場版」であり、続編に当たる作品だ。「ドラマ版」では主人公・阿川佳代(有村架純)の新人保護司としての奮闘記が綴られていたが、この「劇場版」は、数年後の成長した彼女と保護観察対象者たちとの日々を描いている。

「WOWOWオリジナルドラマ 前科者 -新米保護司・阿川佳代-」/90秒予告映像

「ドラマ版」は主人公・阿川の新人時代の奮闘記とあって、より保護司側の視点にフォーカスしていたと思う。前科者たちに対して彼女がどのような視点や態度をもって接していくのかに重点が置かれていた。しかしこの映画『前科者』は、保護司と前科者の関係を俯瞰して見つめている。主として描かれるのは、阿川が新たに担当することになった工藤誠(森田剛)との関係だが、「ドラマ版」で完全には描かれなかった阿川の暗い過去と、それと同じくらいの比重で工藤の内情にも肉薄しているのだ。

罪人とその周囲の者との関係を描いた作品は古今東西ごまんとある。そしてその多くが、罪人か、周囲の者かのどちらかに視点が偏っている。本作のよいところは、この視点が公平であることだ。

映画『前科者』本予告

加害者であり被害者でもある“複雑な当事者”

保護観察対象者・工藤は、殺人罪で服役していた男だ。とはいえ彼は大人しく、とてもまじめな性格の持ち主。かつて務めていたパン工場で先輩から激しいいじめを受けた末、その場の勢いで刺殺してしまったのだ。いじめの瞬間こそ描かれないが、先輩から受けていた暴力がいかにひどいものであったのかを、工藤の左耳の補聴器が物語る。それに彼は、義理の父親に母親を殺されたという複雑な過去を持つ男。そんな彼は事件当時の記憶がなく、また誰かを殺めてしまうのではないかと怯えている。

工藤は加害者であり被害者でもある、複雑な当事者なのだ。これが本作の核である。

森田剛が演じる保護観察対象者・工藤誠と、有村架純が扮する保護司・阿川佳代
森田剛が演じる保護観察対象者・工藤誠と、有村架純が扮する保護司・阿川佳代

個人的な話になるが、筆者は過去に傷害事件に巻き込まれた経験がある。10人ほどの人間から、自宅を出てすぐのところで暴行を受けたのだ。いわゆる集団リンチというものだが、彼らとは面識がなかった。自宅から目と鼻の先で彼らに遭遇し、不幸にもこういう目に遭ってしまった。彼らのことは誰一人として見たことがなかったし、名前も知らない。たまたまなのだ。「目が合った」ことが気に入らなかったらしい。理不尽極まりない。

10代のころの出来事とあって、筆者はこんな目に遭ったことを恥ずかしく思っていたため、大人たちには相談できずにいた。しかし目撃者がいたことでこれが発覚し、結果的に学校や警察が介入することになった次第。事件直後からしばらくの間の記憶が不鮮明なのだが、病院で精密検査をし、事情聴取の日々がつづいたことだけは覚えている。毅然とした態度でいたつもりだが、ひとりになるとよく泣いていた。内心は怒りと憎しみでいっぱいだったし、何よりも怖かったのだ。

この当時のことは今でも不意に思い出すし、夢にも見る。何かうまくいかないことがあると、その原因をこの一件に結びつけたくなることもある。思いがけず理不尽な暴力に遭うというのは、こうした状況を生み出すものなのだ。いまだに「よく耐えてこられたな」と自分でも思う。

しかし当時の筆者は、理不尽な暴力がもたらすもの以上に、不条理な状況にあった。一緒に暮らす祖母が、保護司だったのである。

つまり、筆者は被害者でありながら、加害者たちのような人間を助けるための活動をしている者が家族にいたというわけだ。これに気がついたとき、何がなんだか、わけがわからなくなった。祖母の立場が、保護司という存在が、まったく理解できなかった。

映画『前科者』より
映画『前科者』より

本作の主人公・阿川は、自らが過去に遭遇した事件をきっかけに報酬のない保護司となり、コンビニのバイトで生計を立てている。被害者側に立った経験がありながら、罪を犯した者たちの社会復帰を支援する道を選んだ。阿川も筆者の祖母も、“複雑な当事者”だ。祖母が当時どのような心境でいたのか知らない。けれども今は、理解できるような気がする。理解したいと思うのだ。

前科者がいる社会において、私たちはどうあるべきか


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折田侑駿

(おりた・ゆうしゅん)文筆家。1990年生まれ。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、文学、服飾、酒場など。映画の劇場パンフレットなどに多数寄稿。映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを務めている。

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