2014年公開の中島哲也監督作『渇き。』で注目を集め、『ちはやふる』シリーズ、『ミスミソウ』、『東京リベンジャーズ』など話題作への出演を重ね、昨年はNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』で個性的な気象予報士を演じたことでも記憶に新しい俳優、清水尋也。そんな彼の最新出演作『さがす』が1月21日に封切られた。
ライターの相田冬二は、「清水尋也は地震だ」と評する。俳優の奥底にある魅力に迫る連載「告白的男優論」の第18回、清水尋也論をお届けする。
清水尋也が出現すると、海馬が震える
海馬(かいば)は、脳にあり、記憶をつかさどる器官と言われている。
見たことも、触ったこともないが、清水尋也が出現すると、海馬が震える。
清水尋也というのは、私にとって地震のようなものなのかもしれない。遥か彼方の激動が津波となって押し寄せ、今まさに到着しようとしている、ざわざわとした予兆が、抜き差しならない魔の感覚と隣り合わせにある愉悦。
恐怖とは違う。危険なときめき。台風が来る前にも似ているが、荒々しいざわざわではなく、ぴーんと張り詰めた、静謐で深遠なざわざわ。沈黙という底なし地獄の大らかな穴の前で、ぼんやり立ち尽くす。金縛りになったように動けないのだが、精神の一瞬の停止が、永遠の戸惑いに幽閉されるかもしれない風情は、存外に魅惑的だ。
揺れるのではなく、震える。この微細な感覚が、脳のある部分を刺激し、私たちは彼の存在を知覚し、記憶する。行きつ戻りつする、魂の反復。ぐらぐらと揺れるのではなく、ざわざわと震える。
やはり、清水尋也は地震だ。
外側が揺れるのではなく、内側が震える。
ベースメント(地)が震えるから、地震は地震なのだ。
限りなく幻想に近い記憶
『渇き。』では、いじめられっ子を演じた。
『ミスミソウ』では、豹変する転校生を体現した。
『青くて痛くて脆い』では、イケてるルックスで誤解されやすいナイーブな大学生に扮した。
いずれも、作品が孕む、ある種のミスリードに加担するキャラクターだ。いや、清水尋也の役自体が、ミスリードそのものと言い換えてもいい。
だが、私たちは、彼が画面に登場した瞬間から、そのことを、脳のある部分で察知していたのかもしれない。
麗しき予兆。
それは、記憶に基因している。
清水尋也が過去に表現した人物たちが教えてくれるのではない。
いつかどこかで出逢ったかもしれない、デジャブのような残り香によってかたちづくられた、限りなく幻想に近い記憶が、知らせてくるのだ。
この、美しい長身の少年(彼は、時を止めている。だから、今も少年のままだ)が、見たとおりのものであるはずがない。
その予感が、私たちの海馬を震わせる。
今そこにある、アロマ。
清水尋也、不滅の残像
最新作『さがす』でも、彼はキーパーソンとして君臨する。
生きる鍵として、降臨する。
やがて、正体は明かされる。
しかし、私たちの海馬に焼きつけられた最初の残像は、拭えぬまま、残りつづける。
真相よりも、深層が、重要なのだと、清水尋也の不滅の残像は物語る。
ファースト・インプレッションが、ラスト・インプレッションとなる。
その、無限の円環構造。
そして、私たちは、探していく。
果てなき彼を。
そして、私たちのベースメントは、震える。
消えない香りに導かれながら。
-
映画『さがす』(PG12)
2022年1月21日(金)テアトル新宿ほか全国公開
監督・脚本:片山慎三
共同脚本:小寺和久、高田亮
音楽:髙位妃楊子
出演:佐藤二朗、伊東蒼、清水尋也、森田望智、石井正太朗、松岡依都美、成嶋瞳子、品川徹
配給:アスミック・エース
(c)2022『さがす』製作委員会関連リンク
関連記事
-
-
天才コント師、最強ツッコミ…芸人たちが“究極の問い”に答える「理想の相方とは?」<『最強新コンビ決定戦 THE ゴールデンコンビ』特集>
Amazon Original『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』:PR -
「みんなで歌うとは?」大西亜玖璃と林鼓子が考える『ニジガク』のテーマと、『完結編 第1章』を観て感じたこと
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
「まさか自分がその一員になるなんて」鬼頭明里と田中ちえ美が明かす『ラブライブ!シリーズ』への憧れと、ニジガク『完結編』への今の想い
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
歌い手・吉乃が“否定”したかった言葉、「主導権は私にある」と語る理由
吉乃「ODD NUMBER」「なに笑ろとんねん」:PR