奥森皐月が振り返る、2021年のお笑い賞レース「ランジャタイにすべてをぶち壊してほしい」


『ラフターナイト』はツワモノたちの登竜門

2021年の賞レースを観て、強く感じたことがある。それはTBSラジオ『マイナビ Laughter Night』の偉大さだ。芸歴10年以下の芸人さんを対象にしたお笑いスター発掘ラジオ番組である『ラフターナイト』はかれこれ6年ほど放送されている。公開収録で芸人さんがネタを披露し、投票で勝ち上がればラジオでオンエア。さらにオンエアされた組の中からその週のチャンピオンを決め、週間チャンピオンの中から月間チャンピオン、月間チャンピオンの中から年間チャンピオンを決めるというシステムである。

『キングオブコント』、『M-1グランプリ』など主要な賞レースのファイナリストの大半は、『ラフターナイト』に出場経験がある。錦鯉も、モグライダーも、ゆにばーすも、ザ・マミィも、蛙亭も、男性ブランコも。みんな『ラフターナイト』でチャンピオンになっていた。そしてニューヨーク空気階段真空ジェシカオズワルドに至っては、年間チャンピオンに輝いた実績を持っている。

オズワルド『マイナビ Laughter Night』
『ラフターナイト』優勝時のオズワルド

『ラフターナイト』で結果を残した人はいずれ賞レースで活躍しブレイクすると言っても嘘にならない。ラジオとお笑いが好きな私は以前よりこの公開収録には通っていたが、何気なく見ていた芸人さんが、数年後ファイナリストになり王者になるとは思ってもみなかったので、正直ビビっている。

昨年の『M-1』で、暫定ボックスから赤い光沢のある布を羽織り、サングラスにカツラをつけて「『キングオブコント』の待機の仕方」をしていた真空ジェシカ。あれは、『ラフターナイト』で活躍した真空ジェシカの集大成ともいえる。 

『ラフターナイト』でオンエアされたネタは同時にYouTubeでも公開されるシステムで、ネタ中の芸人さんの写真がサムネイルとなる。ところが真空ジェシカだけは、ひととおり漫才を披露したあとに「サムネ撮影タイム」を設け、ネタとは一切関係ないボケをしていた。代表作はやはり、ニッチェ江上(敬子)さんの顔と髪の毛の位置を逆にした『逆ニッチェ』だろう。傑作ばかりだが文字で説明するのは難しいので、ぜひYouTubeで本物を観ていただきたい。

『ラフターナイト』で漫才ではない部分の腕も磨いていた真空ジェシカ。まさかそれを『M-1』の大舞台でもう一度観られるとは思っていなかったため、あの瞬間が一番感動した。今年の決勝戦随一の泣きポイントである。 

2018/6/8 ★今週の一番【真空ジェシカ(人力舎)】TBSラジオ「マイナビLaughter Night」

2021年もお笑いに救われた

一介のお笑い好き女子高生の意見ではあるが、知名度が高くない芸人さんは賞レースの決勝で不利なのではないかと予想していた。けれども蓋を開ければ、モグライダー真空ジェシカなど、どちらかといえば今まではライブがメインだった芸人さんも高い評価を得ていた。ネット上で、「『M-1』で初めて観たがおもしろかった」といった声が上がっているのを見て驚きとうれしさを覚えた。そして、当たり前だけれど大事なことに気づいたのだ。「おもしろくないから売れていない」のではなく、ただ「おもしろいことが知られていない」だけなのだと。

今まで、そのおもしろさを広く知らしめる機会がなかっただけ。そう考え始めると、私が普段好きで劇場に観に行っている芸人さんたちも、みんな大スターになるべき存在なのだと再確認できた。おもしろい人は、みんなの目に触れてほしい。そしておもしろい人として知られてほしい。

お笑いが好きだ。昨日よりも今日、今日よりも明日と好きが増している。日々新しいネタが作られ、楽しいお笑い番組や企画が発案されていき、こうしている今もどこかの劇場で笑いが生まれている。そのおかげで、ずっとずっと楽しませてもらえているのだ。感謝の気持ちしかない。誰に言えばいいのだかさっぱりわからないが、お笑いのおかげで毎日楽しい。2021年もお笑いに救われた年だった。ありがとうございました。

1年の終わりを感じると共に、今年のお笑い界がまた大きく進化しながら始まっていくことに期待で胸をふくらませている。夢が広がる。マヂカルラブリーによって変わった1年が、今年は錦鯉によってどう動かされるのだろうか。

みんなの人生、変えてくれ。

連載「奥森皐月は傍若無人」は、毎月1回の更新予定です。

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