森山未來が見せつける、ひとつの真理
『世界の中心で、愛をさけぶ』でも、『モテキ』でも、『セイジ-陸の魚-』でも、『苦役列車』でも、彼は、特殊な磁力を放っていた。
行定勲も、大根仁も、伊勢谷友介も、山下敦弘も、まるで資質の異なる映画作家だが、その中心で愛をさけんでいる【森山未來】は、同じモールス信号を、私たちの脳髄に送っていた。
私たちは、それがなんなのか、わからないまま、受信している。
信号は、沈澱して、私たちの脳内に、沼を形作る。
もちろん、その沼がどんな沼なのか、どのくらい深いのか、私たちには、わからない。
しかし、あるとき、私たちは、その沼に飛び込むことになる。
【森山未來】に接近遭遇することは、バンジージャンプによく似ている。
『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、40代の「ボク」が、20代の「ボク」の恋を回想する物語だ。
回想というのは、正確ではない。40代の「ボク」と20代の「ボク」は等価である。どちらかが主体で、どちらかが客体ということも、ない。若いから輝いているわけではないし、中年になったから霞んでいるわけでもない。
比較なんてものに、意味はない。
【森山未來】と【森山未來】は、そのことを、無言で証明している。
ファッションや髪型は変わっている。社会におけるポジショニングや、周囲、時代、風俗なども変化しているから、20代の「ボク」と40代の「ボク」は違って見えるかもしれない。
だが、そうではないのだ。
「ボク」は「ボク」でしかない、ということを、あらゆるヒエラルキーを抹消しながら、【森山未來】は見せつける。
ねじれの底辺に素直さがあり、素直さがねじれたがっている。このメビウスの輪のような、主人公の内面を、一切の言葉に頼ることなく、表現している。
その、圧倒的な、シンプルさ。
終始、受動態に映る主人公だからこそ、【森山未來】の人物の捕まえ方は、これまで以上に深淵な領域で行われている。
【森山未來】は、狩人だ。
固有の人物の本質を捕まえ、それを己の肉体にぐいっと突っ込み、不特定多数の私たちに差し出し、感じさせる。
20代の未来に40代があるのではなく。
40代の過去に20代があるのではなく。
「ボク」が「ボク」であることを、「ボク」と「ボク」とを行ったり来たりしながら、揺らぐことのない極太の一筋の線として、手渡す。
その、どうしようもないほどの、確かな手応え。
あの目。
【森山未來】が、「ボク」を見据え、私たちを見据え、そうして、わけもわからぬまま、覚悟が定まることになる。
さあ、飛び込め!
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映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』
2021年11月5日(金)より、シネマート新宿、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかロードショー&Netflix全世界配信開始
監督:森義仁
脚本:高田亮
原作:燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮文庫刊)
出演:森山未來、伊藤沙莉、萩原聖人、大島優子、東出昌大、SUMIRE、篠原篤
配給:ビターズ・エンド
(c)2021 C&I entertainment関連リンク
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