インチキNo.3『ヨーヨー検定』
ハイパーヨーヨーというヨーヨーが大人気になったとき、町のおもちゃ屋では「ヨーヨー認定」なる試験があった。
全日本ヨーヨー協会?みたいなとこから
「これできる?」みたいな技が出題されて、
その技にチャレンジして、成功したら
自分の認定カードに、合格スタンプを押してもらえる。
「ヨーヨー検定」は技が簡単なものから、難易度がどんどんあがってきて、1日にチャレンジできるのは3回までという、緊張と失敗が隣り合わせの試験だった。
おもちゃ屋の駐車スペースなどでやっていたヨーヨー検定、
いつもヨーヨー認定人みたいなおっさんが来て、
「よし!!」
「ああ、ダメ!!」
とジャッジされていた。
おじさんのジャッジはなかなか厳しく、
本当にその技ができないと認定にならない。
かなりの堅物おじさんだった。
さらにチャレンジは一日3回までというルールをおじさんは頑なに守り、
「ダメダメ!また今度!!」
そう言われた。
「ケチー!!」
言ったところで、チャレンジさせてもらえなかった。
ただ、おじさんはヨーヨーがうまく
熱心に技を教えてくれるので、みんなからは堅物オヤジながらも、なんだかんだ慕われていた。
そんなある日、
そのヨーヨー認定をしているおもちゃ屋が、潰れることになった。
小さいころから通っていたおもちゃ屋がなくなるというのはかなりショッキングで、
嘘だろ?!と信じたくなかったが
来月にも潰れてしまうという。
ヨーヨー検定も、おもちゃ屋がなくなってしまってはできない。
そんな中でも、おもちゃ屋に行くと
ヨーヨーおじさんはいつも通りに堅物で、
ヨーヨーの技を熱心に教えていた。
そして、1か月後。
そのおもちゃ屋での、ヨーヨー検定。
いつも通りヨーヨー検定が始まり、
おじさんは熱心にみんなにヨーヨーを教えて、
ヨーヨーの検定試験になった。
試験が始まると、不思議なことが起こった。
おじさんが、
「よし!」
しか言わないのだ。
「よし!」と言って、合格スタンプをどんどん押してくれる。
さらに、失敗した子に対しても
「もう一回、やってみよう!」
とチャレンジをさせている。
「いいぞ、よーし!」
1日3回までのチャレンジを、
堅物のおじさんが破っている。
「よし!」
何回も何回も、
「よーし!いいぞ!」
成功するまで、おじさんが見守っている。
しばらくそれを見ていると、
ふいにおじさんが僕らに対して、
「、、、楽しかったな…」
と言った。
理解した瞬間、胸が締め付けられるようだった。
ここでようやく、
ああそうか
おじさんとヨーヨーできるの
これで最後なんだ
と気がついた。
当たり前のようにヨーヨーしてたけど、おじさんとはこれで二度と会うことはない。
教えてもらうことはない。
おじさんはそれがわかってて、
みんなに「よし!」と言っている。
どんなに失敗しても、合格スタンプを押している。
潰れてしまうこのおもちゃ屋の最後の思い出を、
最高のものにしようとしてくれている。
いつもは堅物のヨーヨーおじさんが、
僕たちのためにインチキをしてくれている。
「よし!」
「よしっ!」
「よーし合格!」
「よーし、よし!」
「よーし!」
「よし!」
「よしっ、いいぞ!」
「よし!」
「よしよし!」
「よし!」
「ははっ、よし!」
「よしっ!」
「よし!」
ありったけの「よし!」をおじさんが言う。
僕たちの認定カードが合格スタンプでいっぱいになっていく。
「よし!」
おじさんは、みんなが合格したのを見守って、
帰っていった。
おもちゃ屋を後にするおじさんの後ろ姿が、
今でも目に浮かぶ。
あのとき、
「このことは絶対忘れない」と思ったこと。
今でも思い出せること。
それが、本当に嬉しい。
あのおもちゃ屋も、おじさんも、忘れてない。
ヨーヨーも、合格だらけの認定カードも、
心のずーっと奥にある!!
田舎町の、おもちゃ屋。
ルールと戦い、
理不尽を破ってくれたあの姿。
合格スタンプを押してくれた、あの姿。
楽しかった。忘れてない。
おじさんは、
目に見えない何かと戦う、
「地獄先生ぬ〜べ〜」みたいなヒーローだった。
ありがとう、おじさん!!
よし!
よーし!
よし!!
よしっ!!
よし!
この世には、
目には見えない闇の住人たちがいる。
ヤツらは時として牙をむき
君たちを襲ってくる。
彼はそんなヤツらから
君達を守る為に地獄の底からやってきた、
正義の使者なのかもしれない。
ぬ〜べ〜♪
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