『スピリット・オブ・ジャーマニー』
卓球 「ドイチュ=アメリカニシェ・フロイントシャフト」というバンド名には元ネタがあって、「(ゲゼルシャフト・フュア・ドイチュ=)ソビエトシェ・フロイントシャフト」(※3)っていう、(東)ドイツと当時のソビエトの同盟みたいなものからきてて、そのパロディでもあるんだけど。彼らにはそういうところがあるんだよね。俺が最初に聴いた「Der Mussolini」の「ムッソリーニ」はヒトラーのマブダチだし(笑)。政治性を一瞬感じるんだけど、実はそんなことなくて、政治的なメッセージではないっていうか。高度だよね。(立川)談志のやり方。
瀧 DAFは男臭さがあって、女性の匂いがしないんですよね。暴力的ではないけれども……。
石野 でもね、「ゲバルト(Gewalt)」って曲があるよね。ドイツ語で「ゲバルト」って、「暴力」の意味なんだけど。で、彼らがすごいのは、コニー・プランク(※4)っていうジャーマンロックの時代からずーっとやってる伝説的なケルンのエンジニア/プロデューサーのスタジオでレコーディングしてて。基本的にコニー・プランクが関わった作品にハズレなし、って言われてるんだよね。DAFの音楽は本当にベースのシーケンスと生ドラムだけで、よけいなものが一切ない。大事なものしかないっていう。
瀧 音が厚いわけじゃないんだけれども、ザクって刺さるよね。
石野 ラモーンズとか前回のニュー・オーダーもそうなんだけど、最低限のコードでとてつもなく広い表現をするっていうのが、俺は好きなんだ。DAFに至っては、ほぼ和音が出てこないんだよね。とにかく、ピカピカに磨かれた金属が機能的に動いてる、みたいな感じの印象なんだけど。
瀧 暗めの照明のとこでね。
石野 それはあとでするビデオの話ね。ギタリストがいたころのアルバムもパンキッシュでいいんだけど、やっぱりうちらが好きなのは、この2人組になってからのDAF。ちなみに、2人組になってからDAFの3部作は、ほぼ同じアイデアで作られてて──野太いシーケンスと生ドラムとガビのエロい低音ボーカルっていう。うちらの間では、通称「汗」「革ジャン」「影」(※5)って言ってんだけど(笑)。この3枚はほんと、たまんないよね。ちなみに、ガビはガビ・デルガド=ロペスっていって。
瀧 忘れようもない名前だよね。
石野 スペイン系の人なんですよね。だから、たまにスペイン語で歌ってる。ドイツで一時期俺のDJのブッキングマネージャーをやってたアンディってやつがいるんだけど、そいつが生まれて初めて買ったシングルがこのアルバム(『Gold Und Liebe』)に入ってる「Sex Unter Wasser」、「水中セックス」ってタイトルの7インチ(笑)。
瀧 いい出だしだね、アンディ(笑)。DAF以降、ほかのジャーマン・ニューウェーブのバンドが、どんどん出てくるんですよね。うちらは、そっちにも傾倒していくんですけど。
石野 当時はさ、もちろんインターネットなんかないし、YouTubeもないし、レーザーディスクも何もないじゃん。「俺らこんな村いやだ」だったじゃん。「レーザーディスクは Who are you?」だったから、DAFが動いてるの見たことなかったじゃん。
瀧 そう。で、当時ね、貸しレコード屋さんってのがあったんですよ。その一角にビデオも貸してるゾーンがあったんです。そこで見つけた謎のビデオがあって、そのタイトルが『スピリット・オブ・ジャーマニー』(※6)。それを借りて、俺がダビングしたんですよ。
石野 確か東映から出ててね。当時は西武(セゾングループ)がすごくジャーマン・ニューウェーブに力を入れてて、日本盤を出したりとかしてて。そのときにデア・プラン(※7)のライブビデオと、『スピリット・オブ・ジャーマニー』っていうDAFとラインゴルト(※8)とデア・プランとアンドレアス・ドーラウ(※9)とかジャーマン・ニューウェーブのグループを集めたVHSがあって。それを瀧がゲットして、「初めて動いてるDAFが観れる!」って。衝撃だったよね。
瀧 特に目を引いたのが、ガビのダンスが独特でね。
石野 ラジカセをステージに置いてシーケンスを流してるんだけど、うしろにカセットデッキが20台ぐらい並んでて。ドラムのロベルトが腕を組んでるだけでドラムは叩いてなくて、その前でガビが歌って踊る。で、たまにロベルトがこう、ポーズを変えるっていう。それがもう、シビれたよね! そのときのガビのダンスがめちゃめちゃかっこいいっつって、当時やってた人生のステージで瀧が「ガビダンス」を取り入れて。最近やってないよね?
瀧 そうね。ガビダンス、やってあげようか?
石野 ♪デンツテテテンツテテテン……。
石野 のちにさ、ベルリンのゲイクラブとかに行くと、こうやって踊ってるやつがいっぱいいたよね(笑)。
瀧 そうそう。あのビートに合ってるんだか合ってないんだか、独特なダンスを初めて観て、かっこいいと。
石野 『ベストヒットUSA』とかで流れる、アメリカのヒットチャートに入るような曲のビデオは、当て振りで演奏してたじゃん。でも、DAFは何もしない(笑)。あと、低予算だからっていうのもあるんだろうけど、照明が薄暗いんだよね。当時のVHSって、ヨーロッパのPAL方式から(NTSC方式に)変換したやつだから、独特の暗さがあったじゃん。それで、この感じ(ロベルトのポーズ)。
瀧 なんにもしないか、あとは2拍4拍で「ンッターンンッターン」ってドラムを叩くだけ(笑)。
石野 カメラ目線でね。それが衝撃で、さらにまた好きになったんだよね。で、そのあとDAFが解散しちゃうんだよね。1回来日の噂があって。これは法政大学の学園祭にDAFが初来日するっていうときのフライヤーのレプリカ。
石野 当時『FOOL’S MATE』(※10)とかでは、「DAFは100人編成で来日する!」みたいな噂があって──インターネットのない時代って怖いよね(笑)。でも、結局これは中止になっちゃって、幻に終わるんだけど(※11)。そのあと、初来日は2003年なのよ。ちなみに呼んだの、俺なんですよ。
※3 ゲゼルシャフト・フュア・ドイチュ=ソビエトニシェ・フロイントシャフト:ドイツ=ソビエト友好協会。両国の協力を推進するための東ドイツの組織だが、もともとは東ドイツ国民にソビエト文化を教えるためのもので、実態はプロパガンダの道具だった。なお、「DAF」というバンド名には西ドイツの「RAF(ドイツ赤軍)」もかかっている。
※4 コニー・プランク(Conny Plank):ノイ!、クラフトワーク、グル・グル、アシュ・ラ・テンペル、ハルモニアなど、著名なジャーマンロックのバンドの重要作に携わったエンジニア/プロデューサー。プランクが作る独特の音響は、デヴィッド・ボウイの「ベルリン3部作」やニューウェーブ/ポストパンクの作品に影響を与えた。
※5 「汗」「革ジャン」「影」:それぞれ、1981年作『Alles Ist Gut』、1981年作『Gold Und Liebe』、1982年作『Für Immer』のこと。
※6 スピリット・オブ・ジャーマニー:東映ビデオによるコンピレーションVHS。DAF、クラフトワーク、デア・プラン、ディー・ドーラウス&ディー・マリーナス、パレ・シャンブルグ、ラインゴルトの映像を収録。
※7 デア・プラン(Der Plan):1979年にデュッセルドルフで結成された、DAFと並ぶノイエ・ドイチェ・ヴェレの重要バンド。DAFの初期のメンバーも参加。アートギャラリーから発展した彼らの実験的な自主レーベル「Ata Tak」からは、DAFのアルバムもリリースされている。
※8 ラインゴルト(Rheingold):1980年にデビューしたノイエ・ドイチェ・ヴェレのトリオ。
※9 アンドレアス・ドーラウ(Andreas Dorau):1964年生まれ、ノイエ・ドイチェ・ヴェレのアイドル的なミュージシャン。1981年に上記の「Ata Tak」からデビュー。前述のディー・ドーラウス&ディー・マリーナスはドーラウと少女たちによるグループで、シングル「Fred Vom Jupiter」(1981年)がヒットした。
※10 FOOL’S MATE:1977年に北村昌士が創刊した日本の音楽雑誌。ジャーマンロック、ニューウェーブ、ポストパンク、ノイズ、インダストリアル、オルタナティブ/インディミュージックなどを取り上げていたが、1990年代にヴィジュアル系専門誌に変貌。電気グルーヴのデビュー作『662 BPM BY DG』(1990年)は、北村のレーベル「SSE COMMUNICATIONS」からのリリースだった。
※11 DAFの幻の初来日公演:DAFは、「DAF with コニー・プランク」として1982年12月に法政大学と京都大学で初来日公演を行う予定だったが中止に。企画にはフリクションやPhewの作品をリリースしていた「PASS RECORDS」が関わっていた。
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