【『Roots of 電気グルーヴ 〜俺っちの音故郷〜(仮)』#1:New Order】「Blue Monday」には忘れられない思い出がある


「The Perfect Kiss」

石野 『羊たちの沈黙』とかで有名なジョナサン・デミ(※10)が監督した「The Perfect Kiss(※11)」のPVがあるんだけど、それがスタジオライブで演奏してるやつなんだよね。その緊張感がハンパなくて。あれ、よく初台のお前んちで見てたよね。お前がよく、猫のウンコを片づけたあとの手でおにぎりを握って食わせようとしてきたとこ。

New Order - The Perfect Kiss (Official Music Video)

 嫌い?

石野 猫は好きだけど、猫のクソのおにぎりは嫌い(笑)。

 おにぎりは?

石野 おにぎりは好き。

 でしょ? 猫も好きで、おにぎりも好きじゃん。

石野 でも、当時の初台の家のお前のおにぎりは食べたくない。で、どこまで話したっけ。そうだ。「The Perfect Kiss」のビデオを観て、彼らのバンド形態に捉われない演奏にすごい可能性を感じたんだよね。

 あのPVでスティーヴン・モリス、ドラム叩いてないもんね。

石野 緊張で震える手で(キーボードを弾いて)、カエルの音(※12)を出してる。「ゲロゲロゲロゲロ」って(笑)。当時、(日本は)バンドブームだったんで、俺らは彼らの「バンドじゃないかたち」にすごい勇気づけられたんだよね。

※10 ジョナサン・デミ(Jonathan Demme):ニューヨーク出身の映画監督。『羊たちの沈黙』(1990年)でアカデミー賞主要5部門を制覇。トーキング・ヘッズのライブ映画『ストップ・メイキング・センス』(1984年)やザ・フィーリーズ、ブルース・スプリングスティーンのミュージックビデオも手がける。2017年没。

※11 The Perfect Kiss:サードアルバム『Low-Life』(1985年)収録曲で、アルバムのリリースと同時にシングルカットされた。

※12 カエルの音:ミュージックビデオの5分47秒から(https://youtu.be/x3XW6NLILqo?t=347)。ウィキペディア(https://en.wikipedia.org/wiki/The_Perfect_Kiss)によると、スティーヴン・モリスがカエルの鳴き声のエフェクトを気に入って使いたがったという。

ハシエンダ

石野 電気グルーヴはソニーと契約することになって、メジャーファーストアルバム『FLASH PAPA(※13)』をレコーディングするときに、「海外レコーディングをやろう」とソニーから提案された場所が、ニューヨークかマンチェスターだったんだよね。当然うちらはイギリスの音楽に影響を受けてきたんで、「マンチェスター!」って言ったんだけど。その理由のひとつに、ニュー・オーダーがマンチェスター出身っていうのもあったよね。

 そうだね。

石野 で、マンチェスターに1カ月半くらいいたんだったかな。そのときに得たものがすごい大きくて、その経験がなかったら(音楽活動が)未だにつづいてないんだろうなと思うんだけど。そのころ、マッドチェスター(※14)の真っ只中でね。

 町中にハッピー・マンデーズのポスターが貼りまくられてたよね。

石野 ハシエンダ(※15)っていうクラブがあって、ニュー・オーダーのメンバーが出資して始まったクラブなんだけど。そこにほぼ毎日のように行ってたんだよね。うちらのスタジオに出入りしてたスティーヴっていう海賊みたいなおっさんがストーン・ローゼズのツアーマネージャーで、ストーン・ローゼズと一緒に来日したときに日本ですごくいい思いをしたと。その直後に俺らが日本からマンチェスターに来たから、「任せとけ!」って張り切ってね。毎日レコーディングが終わるぐらいの時間になると、スティーヴが来て「さあ、今日はどこに遊びに行く!?」って色んなとこに連れてってくれるんだけど、そのときにいつもドライバーをやってくれてた若手が、実はストーン・ローゼズのマニ(※17)だったんだよね。当時、ストーン・ローゼズは活動休止してて、することねえからって一緒に遊んでた。それがマニだって気づいたのは、だいぶあとだったよね。それで電気グルーヴとマンチェスターの親密な関係が育まれたというか、特別な土地になったというかね。

※13 FLASH PAPA:1991年にリリース。プロデューサーはマンチェスターのバンド、ヒプノトーンのトニー・マーティンなど。「カフェ・ド・鬼」「電気ビリビリ」など名曲を多数収録。当時の電気グルーヴは石野卓球、ピエール瀧、CMJKの3人編成だった。

※14 マッドチェスター(Madchester):“Manchester”と“Mad”を合わせた言葉で、1980年代後半から1990年代初頭のムーブメントを指す。インディロック、アシッドハウス、レイヴが混然一体となったシーンで、代表的なバンドはザ・ストーン・ローゼズやハッピー・マンデーズなど。マッドチェスターとファクトリー・レコードについては、映画『24アワー・パーティー・ピープル』(2002年)で詳しく描かれている。

※15 ハシエンダ(The Haçienda):1982年に開店したクラブ。ファクトリー・レコードが経営しており、マッドチェスターの中心地だった。1997年に閉店。

※16 マニ(Mani):ザ・ストーン・ローゼズのベーシスト。ドラマーのレニと共に唯一無二のグルーヴを生む。1996年からはプライマル・スクリームのベーシストだったが、2011年に脱退。

マーク・リーダー&バーニーとの交流

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