社会問題に対してエンタテインメントができること
池上 昨年2020年11月に、NHKで『こもりびと』というひきこもりを題材にしたスペシャルドラマがあったんですけど、実は私が監修をさせていただきました。ドラマがすごいなと思うのは、講演や本だとなかなか伝わらないことがけっこう広く伝わるんだなということです。ドラマを観て感動して、自民党が部会を作っちゃったんです。
岩井 すご!
池上 一昨日呼ばれて行ってきました。
岩井 「実状どうなってるんですか?」みたいなことを聞かれるんですか?
池上 そうですね。ひきこもりの社会参画を考える部会という。
岩井 それはすごいですね。
池上 エンタテインメントは今まで知らなかったような人たちにまで広く伝えることができるんですね。その自民党の部会には当事者団体と家族会がヒアリングに呼ばれて、私は家族会の一員としてどういう施策を必要としているかなどの要望を伝えました。
岩井 たとえば「39歳以上だとひきこもりサポートが受けられずに弾かれちゃう人がいるからその年齢も見直す」とかでしょうか。
池上 そうですね。当事者が制度の狭間に置かれている現状を伝えました。8050も制度の狭間の問題でもあります。医療も受けられないし、障害認定もないからサービスも受けられない。結局たらい回しになって絶望し、助けを求めることも諦めてしまった結果、8050という状態になっているという背景を説明しました。その隙間を埋めるような施策、制度を作ってほしいということ、それから先程のハローワークの話のように当事者の話を聞き、心情を理解できる担当者の育成が重要であること。これまでのひきこもり支援は、当事者以外の支援者側がつくったフレームで行われてきましたから。
岩井 支援団体側の話ってまた違いますもんね。
池上 支援団体は就労に近そうな人だけをトレーニングする傾向があります。就労を目的にしてきた団体が多いので。
岩井 結果、数字が出ることしかやらない構造になっている。
池上 「就労」などの実績がノルマになっているんです。特に税金が投入されている場合、「効果を上げている」という数字が必要になる。それによって契約が更新されなくなる可能性もあるので、どうしてもノルマ達成が目的になる。すると、支援者が成果を焦って早く就労するよう結論を押しつけるという悪循環になります。そうなってしまうと当事者は、誰かがつくったフレームを強要されるだけで暴力性を感じてしまいうまくいきません。
支援を受けている方はまじめな人が多いので、断ったら悪いと思って、つい従って就労はするんですけど、本質的に不安が解消されているわけじゃないので、すぐ辞めてしまうことになります。就労という数値だけがひとり歩きして、「これだけ成果を上げてます」という形だけの支援が行われてきた実情がある。
岩井 そこから先、幸せになったかどうかなんて数字で表せる表せるものじゃないから。
池上 本来はそれぞれの幸せの形に寄り添うことが評価基準であるべきなんです。
岩井 親子の間で、フワッとでも幸せのイメージを共有できるかできないかということが、僕はすごく大きいことだと思っています。子供の深いところの悩みを、横並びで一緒に考えてくれるかどうか。それこそ「同じ風景を見て」くれれば、家の中でそこまで孤立はしないで済む。「社会で幸福といわれていること」を押し付ける前に、親が子にできることはあるはずです。
池上 親はこもっている子を「見守ってほしい」とよく言われますが、親の役割は外での情報収集と、子供に情報を届けるっていうことではないかと思っています。親は自分の生きてきた価値観を付加してしまいがちですが、それを極力入れないで、今世の中で起きているよということを勉強し、新しい情報をできる限り多く伝えていく。すると子供は、その中から時代に即したやり方を取捨選択できる。あくまでも「選択するのは本人の意思」というのが大事だと思います。
自分の幸せは他人から押しつけられるものではなく、自分自身で判断することなんです。親はすぐに先回りしてしまいますが、それは一方で本人の判断力を奪うことになる。しかし自分の意思で判断したことであれば、たとえ失敗したとしても納得できます。本人が自ら判断する上で必要な選択肢をたくさん用意してあげることが、周囲にできるサポートだと、今は考えています。
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