岩井秀人「ひきこもり入門」【第4回後編】母に聞く、ひきこもった子供に親ができること


それ以上夫に言わせちゃいけないし、それ以上息子に聞かせちゃいけないと思った

──秀人さんとお父さんがケンカをしている様子を目撃したときはどうされていたんですか。

母 横から違う意見を言ったことはたくさんありますけど、本当に止めに入ったのは1回だけです。

親子だからケンカというか、親が上から言う感じなんですけど、夫が秀人を全否定するみたいな言い方をしてたときがあったんです。「だからお前はダメなんだ」「親に食わせてもらってるのにその言い草はなんだ」とかいうような話になってて。言ってることは秀人には反論の余地がないくらいの事実なんだけど、秀人自身にはどうにもならなくてそうなっちゃってることを一方的に言いつづけてました。

子供に言うべきじゃないことを言ってるなと思ってたんです。だんだんと言い方もエスカレートしてきたので、「それ以上言ったら私は本気で怒るからね。もうそれ以上言わないで」って私は横で言ってたんですけど、それでもまだやめないので駆け寄って、夫を叩いちゃったんです。それ以上言わせちゃいけないし、それ以上聞かせちゃいけないと思って。

──秀人さんもとても驚かれたと思うのですが、リアクションなどはありましたか。

母 それはびっくりしたんじゃないでしょうかね。今度はお母さんがお父さんを叩くんだって。本人が覚えてるかわかりませんけど。

男の人にそんなにすごいダメージを与えるようなパンチ力は私にはありませんし、たぶん平手で叩いたと思います。でも、叩いたらみんなすごくびっくりして、全員がシーンとなってしまいました。

そのことを後悔はしてないです。あのまま言わせてたら秀人が受ける傷のほうが大きいと思って、止められればなんでもよかったので。

──旦那さんもびっくりしていましたか。

母 そうですね。そこからは秀人に対して何も言わなかったです。言い過ぎたとしても謝る人ではないので。何も言わなかったってことは、言い過ぎたことはわかったんじゃないですかね。

──秀人さんが高校中退されてちょうどひきこもってた時期の出来事でしょうか?

母 そうですね。秀人と夫がやりとりするときは、文通が多かったです。家の中での文通が、うちではそのころ流行ってたんだと思います。口で言うと「その言い方はなんだ」とかになっちゃうので。

秀人が中学校を私立から公立に戻したいと言い出したとき、夫に「どう思う?」と聞きました。そしたら夫が秀人に質問状みたいなものを出したみたいで。私の手元には秀人の回答のほうしかないですけど、たぶん夫は「今までの生活がどうだったと思うか」「これからどういう人生を送っていきたいか」みたいなことを聞いたんだと思います。

自分の過去からずっと経過を辿って、「高校は行きたいと思う。大学もつづいてたら行きたいと思う」と書いてありました。あんまり勉強して進学したくはなかったのかもしれません。今までの学校を自分がどういうふうに思っていたのか、公立に戻ることでどういうことを期待しているのかということを、短い文章で項目別に書いてあった。最後は「結婚はしたいと思う」というところで終わっているという。

言葉でやりとりすると夫も秀人もワーッとなるので、紙に書いてやりとりするほうがよかったんだと思います。秀人の返事だけは取ってあります。

──子供への教育の仕方について、旦那さんと話したことはありますか。

母 勉強を見てくれたとかそういうのもないと思います。たとえば私が学校の先生にこういうことを言われたって伝えると、「ちょっと出てこい」と秀人を呼んでガン!と殴るので、そんなに言えなかったですし……。

たぶん夫は自分が医学部に行きたくなかったのに行かされたという思いがあるみたいで、進路のことについては言わないのがせめてもの親切だと思ってたみたいです。行きたいところがあるんだったら、自分ができることだったら行かせてやろうと思ってたようです。

でも、「医者にだけはならせたくない」と言ってたから、「それは同じことじゃない?」と返した覚えはあります。子供がやりたいかやりたくないかというだけで、自分が嫌だったものは子供にはやらせないのは、それはそれで強制だと思うとは言いました。

ひきこもった息子に対して母親ができること

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