:Door(青葉市子)|得体の知れないD vol.06
2021年の3月、震災(Disaster)から10年(Decade)という節目にさまざまな「D」をテーマとしたイベント「D2021」が開催される。
連載「得体の知れないD」では、執筆者それぞれが「D」をきっかけとして自身の記憶や所感を紐解き、その可能性を掘り下げていく。
第6回の書き手は音楽家の青葉市子。近年は、音楽活動以外にも、芸術祭への作品発表などさまざまなフィールドで創作を行っている。
そんな彼女が、文章と写真に加え、この記事のために録音されたオリジナル音源で描くのは、「生きている」ものたちの温かさ、匂い、そして、光。
:Door
2020年5月23日、
しばらくつづいていた雨や曇りがひと休みして、雲は高く伸び、お日さまの光が室内に転がり込んでくる。
近くの川まで散歩。
数カ月ぶりに友人たちに会い、カメラを回されながら突然尋ねられたことは「あなたにとって生きてることってどういうことですか?」。
え、インタビュー? また急になあに?
朝から畑を耕していたらしい、あぐらをかいているスニーカーの裏には土がしっかりついたままだ。
私の髪は30分前に洗ったばかりでまだ乾いていない。
違う生き物が違う場所で、それぞれのことをしていたのに、今は一緒にいる。きっと死ぬときも別々に、それぞれ死んでいくのに、こうして今は一緒にいて、感じ合っている。愛しい。
頬も心もほころび、陽だまりが私たちを包んでいた。
いつの間にこんなに太陽が強くなって、まぶたがいくつあっても眩しい。
そうか、今は初夏なんだ。
仰向けになり寝転んで光合成をした。
胸の真ん中奥深くから、じわじわと、まるで眠りから覚めるように、蔓や根のような脈が伸びてきて、体の内側から静かにノックした。鍵はかけていないよ、そう唱えるとゆっくりとドアが開いた。ああ、人と会うって、こういうことだったっけ。
私たちは笑っていた。生きるってなんだろうね。シンプルに、笑っていること。それに伴っているのは、紛れもなく、好きな人たち、人々の体温だ。
風が吹いて、匂いがした。
目を閉じていてもわかる。懐かしい、ステージ袖やツアーの移動車や、肩を組んで夜中の酒場で語り合ったときと同じ匂い。確かに生きている。
カメラが回った。
いーよ!と言われ、川沿いに降りて花を摘み、橋の上からこちらを見下ろす友人たちめがけて走る。
「青葉さん! 生きてるってことはどういうことですか!」
胸の真んなかから、ドアを開けて伸びてきた蔓や根や脈を、摘んだ花たちと一緒に束ね、レンズに向かって差し出した。
:D
窓辺からたいようが
ころがりおちて
プリズムのうたを
あなたの弾くゆびが
せかいをほどいて
すべてのものに道を
花束の中に
争いが
海辺には
うつくしい葬列
やがてみる夢に
わたしは息をする
(作詞/作曲:青葉市子)
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【連載】得体の知れないD
坂本龍一とGotchが中心となり、震災(Disaster)から10年(Decade)という節目にさまざまな「D」をテーマとしたイベント「D2021」を、2021年3月13日と14日に日比谷公園にて開催します。
「D2021」開催をおよそ1年後に控えた2020年3月11日、こうしたさまざまな「D」を探るための連載がQJWebにてスタートします。ここでは執筆者それぞれが自由に「D」を端緒として自身の記憶や所感を紐解き、「D」を通じてその可能性を掘り下げていきたいと思います。 -
「D2021」
日時:2021年3月13日(土)、14日(日)
会場:日比谷公園(日比谷公園アースガーデン“灯”内)
主催:D2021実行委員会
共催:アースガーデン/ピースオンアース
※D2021は「311未来へのつどい ピースオンアース」の関連企画です関連リンク
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