アイスシャワーと水風呂のDiscipline(工藤キキ)|得体の知れないD vol.04

2020.4.30

Photo by Maya Fuhr for EVERYBODY.WORLD
文=工藤キキ


2021年の3月、震災(Disaster)から10年(Decade)という節目にさまざまな「D」をテーマとしたイベント「D2021」が開催される。

連載「得体の知れないD」では、執筆者それぞれが「D」をきっかけとして自身の記憶や所感を紐解き、その可能性を掘り下げていく。

第4回の書き手は、ニューヨーク在住のライター、音楽プロデューサーの工藤キキ。出歩く人をほとんど見かけず、人間と都市のバイブスを感じる機会に乏しいというニューヨークの街で、彼女が考える「D」の意味とは。

6フィートのソーシャルディスタンス

今日でアイソレーションも40日目(4月23日)。この間4回近所のストアに買い出しに出かけたのと、友だちが作るホームメイドのサワードウブレッド、threeASFOURのマスク、虎屋のお汁粉を受け取るのに家の前で6フィートのソーシャルディスタンスの距離感にマスクに手袋の出で立ちで数人の友人等に会っただけ。

幸い屋上に上がれるので外の空気は吸うことはできるが、私の人生もだいぶ長くなってきたけど、こんな体験は生まれて初めて、という経験をほぼ世界中の人と共有している新世界に今いる。私とパートナーのブライアンが住むニューヨークのソーホーは昔も今も変わらずファッションブランドが立ち並び世界各地からのツーリストが360度の視野で歩き、多種多様なキャラクターが行き交うローステッドピーナッツの甘ったるい匂いのストリートに一喜一憂するような浮かれた街のはずだけど、いま窓の下を見下ろすとほとんど人は歩いていない。

たまに見かけるのはマラソンランナーかスウェット姿で犬の散歩をしている人ぐらいで誇張しているわけではなくこの1カ月はこんな状態だ。エッセンシャルである食料品店、薬局などは開いているがほとんどの店が閉まり、火事場泥棒が入らないように荒っぽい壁が打ち付けられ窓を塞いでいる店も多い。

数分だけ他者のバイブレーションを体感できる時間

生と死が毎日繰り返されるのがライフだが、毎日コロナウイルスでの死者数が更新する未体験の非常事態に私たちが唯一協力できることは人を介して飛び火するウイルスを封じるべく全員で“一時停止”することで、これは多種多様な人々が共存する場所だからこそのシンプルな解決策としか言いようがない。

そんなディストピア化に嘆きながらもこの異常事態を乗り越えることへとフォーカスし始めた人々は、経済や医療のサポートが多くの人に行き渡るように訴えることにはじまり、ファッションデザイナーはマスクを作り始め、ノンコンタクトのデリバリーを始めるレストランや小売店、外食がメインの街なので隔離が始まり多くの人が食に対して困惑したところでのSNSでのレシピ交換などで助けられている人も多い。

工藤キキ(Photo by Maya Fuhr for EVERYBODY.WORLD)

自分の能力をいかにコミュニティに還元するのか? 今ニューヨークでは夜の7時になるとフロントラインで働き続けるエッセンシャルワーカーの人々へ感謝を表す拍手や歓声を贈るという習慣が起きている。毎晩、姿こそ見えないが人々の遠吠えが街中に響き渡り、数分だけ他者のバイブレーションを体感できる愛おしい時間。

たわいのない日常を支えていたもの

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工藤キキ

(くどう・きき)横浜生まれ。ライター、シェフ、ミュージックプロデューサー。マガジンハウスをはじめとしたカルチャー誌でファッションやアートなどのサブカルチャーに関する寄稿や、『文藝』(河出書房新社)で小説を執筆。著書に小説『姉妹7(セヴン)センセイション』、『よのなかのパロディ』、アート批評集『pos..

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