年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、19歳・タレントの奥森皐月。
今月は、6月15日に決勝戦が行われた『ワタナベお笑いNo.1決定戦2024』初優勝・Aマッソのパワフルな魅力、『有吉弘行の脱法TV』で感じた昨今のコンプライアンスについて、奥森の視点で考える。
目次
【1】『ワタナベお笑いNo.1決定戦』
今年も『ワタナベお笑いNo.1決定戦』(以下:『ワタナベお笑いNo.1』)が開催された。
お笑い賞レースといえば『M-1グランプリ』『キングオブコント』『R-1グランプリ』がやはり定番なのだろうか。どれも毎年楽しみに観ているが、漫才・コント・ピン芸などが同時に競う賞レースも好きだ。
比べるものさしがないからこその展開がおもしろい。『ABCお笑いグランプリ』や『NHK新人お笑い大賞』などはまさにその形式であり、そこに芸歴制限が設けられている。
『ワタナベお笑いNo.1』はその名のとおり、ワタナベエンターテインメント所属の芸人さんのトップを決める大会。ただ、芸歴やネタの形式は制限がないので見応えがある。
知名度の高い芸人さんがたくさんいる中で、『キングオブコント』優勝前のハナコが優勝したガチの大会だ。テレビで活躍している人を抑えて無名の若手が勝ち上がる構図は、ほかの賞レースとひと味違うおもしろみがある。
3年前、何気なくチケットを取って観に行ったこの大会で、結成1年目のゼンモンキーが優勝したのは衝撃的だった。四千頭身やGパンパンダ、Aマッソやファイヤーサンダーなど、決勝常連組が多数いたにもかかわらず、誰もが納得するような優勝。圧倒された。
ゼンモンキーという名前は聞いていたが、生でネタを観たのはその日が初めてで、これほどにもおもしろい芸人さんが見つかる賞レースは見逃すわけにいかないと、1年に1回の楽しみになった。
決勝常連組vs若手組!先の読めない展開に
6月15日に開催された『ワタナベお笑いNo.1』は、ルールが改まったこともあり、ここ数年で一番見応えのある大会だったと感じた。
タイマン形式のファーストラウンドは、ふた組がぶつかって勝敗を決める。因縁の相手や先輩後輩など、それぞれに関係性や想いが絡んでいておもしろかった。
過去大会にほとんど決勝進出しているAマッソとGパンパンダの直接対決や、2021年優勝のゼンモンキーと2022年優勝のチュランペットの勝負は、熱く期待の高まる対戦カードだった。
リバーマン、江戸川ジャンクジャンク、ナチョス。といった結成5年以下の若手も決勝メンバーに残り、展開の読めない大会となっていた。
決勝の常連メンバーに今年こそ優勝してほしいという気持ちと、ニュースターが見つかってほしいという気持ちがひしめき合う。独特の緊張感があった。
ファーストラウンドは票が一方に集まる傾向の審査結果だったが、会場でのウケは全組凄まじく、改めてレベルの高い大会なのだと感じた。
敗退してしまった組のネタもどれもおもしろい。その中でもやはり、ファイヤーサンダーとゼンモンキーからは『キングオブコント』ファイナリストの威厳を感じた。
審査コメントでも触れられていたが、展開やワードが想像の遥か先を行くようなコントだった。なかなかこのレベルのお笑いを一度に観られる機会はない。
エンタメの四方八方を包囲する、Aマッソの底力と進化
話は変わるが、Aマッソというお笑い芸人を私は愛している。愛し続けている。ずっとおもしろくてずっとカッコいいからという理由だ。同じ時代に生きて、劇場で観られていることを幸せに思う。
7年ほど前、Aマッソのネタに、ラジオに、配信番組に、テレビでの振る舞いに、虜になった。女性芸人(わざわざこう表記するのも癪だが)で、あれほど鋭利にトガり散らかしている人をそれまで見たことがなかったからというのも大きいかもしれない。
卓越した言語感覚、ふたりだけのテンポ感、突拍子もない設定、独自性の高い企画、愛らしい風貌。先輩に悪態をついている姿でさえも特別な雰囲気があった。
四六時中Aマッソにまつわるものを観ていた時期が私の人生にはある。意味があったりなかったりするAマッソの一挙手一投足から目が離せなかった。
『バクモン学園!!住んでみた。』で毎回手の込んだ動画を作ってきて、その後のトークで太田(光)さんと口げんかする姿を憧れの眼差しで見ていた。
Aマッソに教えてもらったことは、フワちゃんという存在と、バリエーション豊かな下ネタが主だが、Aマッソから勝手に学んだことは数えきれないほどある。
何かの企画でAマッソが公開していた映像で「空と君のあいだに」のメロディに乗せて「動画と静止画のあいだには」と歌っていたものがあった。画面には動画と静止画のあいだのものが映っていた。
理解こそ一切できなかったが、不思議と印象に残っている。あれはなんだったのだろうと急に気になり今調べたところ、元動画はおろか、その動画に言及する記事も投稿もひとつも見つけられなかった。怖い。もし何か覚えている人がいたら連絡してほしい。
フワちゃんがブレイクしたときに、加納さんがフワちゃんの友達の立ち位置でテレビに出演されていたときは、ほんの少しだけムカついた。テロップに「友達」なんて書かれていたから。友達って。
これが、「友達」ではなく「Aマッソ」としてメディアで観たいというファンのエゴだとはわかっていた。特にぶつける場所もないので、水やお茶で流して飲み込んだ。
そのモヤモヤがどれくらい続いたかは思い出せないが、いつの間にかバラエティでもよく見かけるようになり、今や冠番組を持ち、『MBSヤングタウン』のパーソナリティをする人気者。純粋にこの事実はうれしい。
加納さん・むらきゃみさんともに、結婚を発表されたころから、ブーストがかかったかのように露出が増えた気がする。
加納さんが、渥美清さんの逸話で有名な小野照崎神社で“砂糖を断つ願かけ”をしていた効果もきっとある。むらきゃみさんも“パスタ断ち”をしているらしいし、そんなアツいところも好き。
Aマッソの素敵なところは、これだけ売れているのに、新しいネタや企画を作って進化させているところ。
毎年欠かさず単独ライブをし、YouTubeチャンネルでは次々と新しい企画を発足させ、ほかにもKID FRESINOとのツーマンに、『滑稽』や『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』など、お笑いの外にまで踏み込んでいる。
『滑稽』と『奥様ッソ』についてはそれぞれ記事を書いたが、あれらの「怖い」はAマッソのおもしろさを軸に成り立っている。これができる「お笑い芸人」はAマッソくらいしかいないのではないだろうか。
今年7月には、過去の単独ライブや配信番組で制作した楽曲集のCDが発売。加納さんはエッセイや小説を出版され、ドラマの脚本も手がけるようになった。いよいよエンタメの四方八方を包囲してきている。
Aマッソがラストイヤーで初優勝!「生きる理由になる」
そのAマッソが唯一保持していなかった「優勝」。それを今回の『ワタナベお笑いNo.1』で、ついに手にした。
『M-1』や『キングオブコント』では惜しくも決勝に進めず、『THE W』ではあと一歩のところで優勝を逃していたAマッソ。『ワタナベお笑いNo.1』も今年が最後と言っていたので、これ以降お笑い賞レースで観ることはないのかもなとぼんやり思っていた。
この1〜2年で一段と知名度が上がり、おふたりの人となりも知れ渡っている。それが今回の大会で功を奏しているように見えた。Aマッソのことを知っている人が多いから、ネタはより受け入れられるし、大いに笑える。
1本目のネタが終わったとき、今年はAマッソの年だと直感するくらいには会場が圧倒されていた。むらきゃみさんだからこそ成り立つキャラに、一言一句聞き逃せないワード、気味の悪い展開におびただしい数の回収が伴うという、Aマッソの極致のようなネタだった。
完全に場を掌握していて、ふたりが放つ莫大なエネルギーに心を動かされた。ほかの芸人さんと並ぶとあんなに小さいのに。圧倒的なパワーと攻撃力。驚きと喜びが入り混じった知らない感情で、私は少し泣いてしまった。
2本目のネタは、設定もセリフも突飛で、Aマッソらしさにあふれている。加納さんとむらきゃみさんのテンションの差が、1本目の構図と真逆なのもいい。
「郷に入っては郷に従え」や「ノリではなく、文化」というパンチラインは、昨今あちこちで巻き起こるトラブルに共通していえる。なんて今の時代に則したネタだろうと思った。
これはあくまで私の空想であり、野暮な感想でもある。何も考えずに笑っても、無駄なことを考えても楽しめるお笑いは貴重だ。本当にありがたい。
今の活躍の中で優勝するというのは本当にカッコよかった。来月には単独ライブも控えていて、その忙しさを想像すると恐ろしい。一昨年の単独も去年の単独も本当によかったので、今年も必ず観に行こうと思う。
これからもAマッソと同じ時代に生きられると思うと、暗い世の中も照らされる。観る理由がある。生きる理由になる。
【2】『有吉弘行の脱法TV』
『有吉弘行の脱法TV』(以下:『脱法TV』)の第2弾が放送された。
「テレビの抜け穴を探すギリギリ合法バラエティー」というコンセプトのこの番組は、2023年11月に第1弾が放送され、ギャラクシー奨励賞を受賞している。
地上波ではNGとされているものを「脱法」で放送しようとするのだが、VTRはコンプライアンス担当者や番組プロデューサーをはじめとする「コンプライアンス委員会」の判断で放送の可否が決まる。これ以上はNGと判断されると、強制的にVTRが終了し、カラーバーが表示されるというシステムだ。
『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』もそうだが、観ているものが強制的に終わらされてしまうのはどうしてあんなにおもしろいのだろう。家でひとりテレビを観ているときに不意に訪れる呆気なさに、声を出して笑ってしまう。
第1弾では「地上波で映せる“乳首”の境界線、“タトゥー”の境界線」「訴えられない“ガチャピン”海賊版の境界線」「大人のビデオ」がテーマとなり、あの手この手を使ってコンプライアンスをくぐり抜けようとしていた。
タトゥーの入っているラッパーがお笑いのネタを作って披露することで、タトゥーの入った芸人を映す試みや、視点や状況を少し変えてどうにか大人のビデオを地上波で流そうとする試みは、くだらなさと斬新さのハイブリッドで最高だった。
今回の第2弾では、前回に引き続き「脱法乳首」を新たな方法でアプローチしている。以下は本編の内容なので、ネタバレを避けたい人は番組を観てから読んでいただきたい。
「アート」となるとコンプライアンスが厳しくなくなるという観点から、芸術品を紹介する番組の一環で乳首を映すというのは素敵な角度だった。
美術館を探訪する番組として片桐仁さんがロケをしていて、ホンモノの芸術作品と乳首を映すために作られたアートを見て、それぞれコメントする。私は片桐さんのアートの番組がもともと好きなので、よけい笑えた。
少し変な見方かもしれないが、不純な動機で作り出されたアートというのもいい作品だと思う。逆の逆に、今回作られた作品はアートとして観てもおもしろい。この試み自体が現代アートに近い。
第2弾はよりバラエティ番組に寄り添った内容で、「落とし穴」や「やらせ」など、実際に問題視されているものが盛り込まれていた。攻めた番組だなと思う。
安全面を考慮して、穴に落ちるのではなく、まわりの床が上がっていく「上がり床」はあまりにも観たことのない映像でおもしろかった。
何かに似ていると思ったのだが、「ホーンテッドマンション」の最初の部分だ。画面上で観ているだけでも、目の錯覚のような変な感じがする。実際にこれを受けたらもっと変な感覚になるだろう。
ドッキリによく遭っている芸人さんがことごとく絶妙なリアクションをしていたのは、新しいお笑いだった。悪趣味だが、大きく驚いている姿よりも不審そうにしているほうが好きかもしれない。上がり床、もっと見たい。
無人島ロケのやらせのために実施された、じゅんいちダビッドソンさんのロケ番組が本当に地上波で放送されていたという事実に驚愕したが、TVerで『ハングリーサバイバー』としてしっかり配信されている。
5分のサバイバル番組はあまりにもぶっ飛んでいる。カセットコンロが流れていく様はかなりしょうもなくて素晴らしい。『脱法TV』とともにチェックするべきだ。
「ギリを攻める」ことが、厳しさへのアンチテーゼに
テレビスターになりきった有吉(弘行)さんは、地上波で過激なラインを攻めるという神のような立ち位置になりつつある。
『有吉クイズ』でのボンデージ姿の撮影やOラインの脱毛も相当な冒険に思えていたが、それ以上の攻めである『脱法TV』は一度観るともう抜け出せない。
「放送禁止用語」の脱法に成功するシーンを、私はすでに5周ほど観ている。スタジオの有吉さんと(霜降り明星)せいやさんのやりとりも含めて、こんなにワクワクする映像はなかなかない。
ただ、『脱法TV』が毎週放送になる未来はかなり見えない。『27時間脱法TV』はぜひ観たいけれど。やっていることはくだらないが、根本の問いかけがまじめなのが憎くおもしろい。
なにかとコンプライアンスが厳しくなっているが、たしかに「さすがにそれは気にしすぎなのでは?」「その線引きは必要なの?」と感じるものもある。
誰かの意見が通ると誰かの意見が無碍(むげ)にされるというのは、どこにでもあることだが、「ギリを攻めてみる」というのは生活にも応用が効くヒントなのではないかとも思う。この番組が放送されていること自体が、過剰な厳しさへのアンチテーゼとなっている。
さらにもうひとつ外側を考えると、「脱法しよう」という意志がある番組が放送されているということは、それが容認されている事実がある。これだけでも少し心が躍る。
まじめに生きれば生きるほど、より脱法が楽しめるのではなかろうか。そう思うと、コンプライアンスを遵守することすべてが脱法へのフリになってしまう。
おもしろがっていいことと、おもしろがってはいけないこと、この線引きは非常に難しい。人によって異なるので、誰かと共有するのは慎重になる。
個人的には、マイナスなことも笑えたら一番いいなと思う。許される範囲で不自由をおもしろがりたいと、お笑いを観て実感する1カ月だった。
先が思いやられる世の中に、お笑いはきっと必要だ。
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