ヨネダ2000「どすこいの繰り返しから始まった」唯一無二の“音楽的漫才”が生まれるまで

文=つやちゃん 撮影=岩渕一輝 編集=小林 翔


新たな角度と言葉からラップミュージックに迫る文筆家・つやちゃんによる、ラップと漫才というふたつの口語芸能のクロスポイントの探求。『クイック・ジャパン』と『QJWeb』による合同連載「扇動する声帯──ラップと漫才の時代」。今回は特別編として、つやちゃんがヨネダ2000にインタビュー。“音楽的漫才”誕生秘話を聞いた。


漫才を“音”の側面から解体したヨネダ2000

ヨネダ2000ほど、音楽的な漫才師もいないだろう。

『M-1グランプリ2022』で『餅つき』のネタが披露された際、その精緻なネタ構成とリズムキープに対し感嘆の声があふれ、BPM160というテンポにミュージシャンやDJが多く反応したことが話題になった。

ヨネダ2000 誠(左)と愛(右)からなるお笑いコンビ。吉本興業所属。2020年、NSC在学中に結成。『M-1グランプリ2022』決勝進出

ここまで漫才を“音”の側面から解体してしまったのは、少なくとも『M-1』の舞台においてはおそらくジャルジャルが『ピンポンパンゲーム』などで試して以来のラディカルな試みであり、漫才の定義を錯乱するものだったに違いない。

なおかつ、それがめっぽうおもしろいというのがまた不思議で、ヨネダ2000の作品を観るたびに私たちは、漫才とはいったいなんなのかと思考を巡らせては途方に暮れてしまう。

音と意味がそれぞれの殻から脱皮して音楽と化した結果、笑いを喚起するという信じられない光景。あのネタはどうやってこの世に生み落とされたのか、“音”と“意味”のせめぎ合いをふたりはいかに捉えているのか。

2020年結成、新人ながら旋風を巻き起こしている異才コンビに、神保町よしもと漫才劇場にて話を聞いた。

本番直前に生まれた「どすこい」

今日はヨネダ2000の作品について構造的に紐解いていただきつつ、おふたりのキャラクターといったところまで話が及べばと思っています。

お笑い業界はもちろんですが、音楽のシーンからも熱視線を浴びているおふたりなので、サウンド面の話もたくさん伺えればと。まず、今のネタのスタイルに行き着いた背景を教えてください。

最初は、ツッコミもあるようなコントをやっていたんですよ。

そうだね。

でも、その流れでじゃあ漫才もやろうとなったときに、漫才だと愛さんがツッコみづらくなったんです。

漫才のネタのテイスト的に、ツッコんじゃうと終わってしまう内容が多かったんですよ。それで無理やりツッコんでも意味がわかんないなって。ツッコミにあんまり感情が乗らなくなって、ちょっとやりにくいわ、って言った。

そんななかで新ネタライブがあったんです。つまり、絶対に新しいネタを作らないといけない日。これはいつものことなんですが、私は当日じゃないと相方にネタを伝えられる状態になってないんですね。で、その日の朝も当日にネタを伝えたんですけど、ちょっとよくないねってなってしまった。

そうそう(笑)。

ジョニー・デップがリモート会議から出てきちゃう、みたいな発想だったんですよ。そこだけ持ってきたから、なんかちょっと違うなと(笑)。

愛さんが笑わなかったら自分はネタを使わないんですけど、全然笑ってもらえなくて、ふたりでどうしようかって。でももうあと4〜5時間しかない。あぁまずい、どうしよう……ってなるじゃないですか。

そこで、何カ月か前に考えていたけどネタにできていなかった「どすこい」の動く手を避けるというひとボケがあって、それを使えないかなと考えたんです。で、とりあえずずっと「どすこい」って言ってもらえたら隣でボケてるからお願い、みたいな。

それをやり続けるんだったらツッコむのも意味わかんないし気持ち悪いから、もう「どすこい」だけ言っとくわ、みたいになって。

それで行こう!ということで、本当に直前までネタ合わせしてました。

うん。まあ基本いつもそうだけどね(笑)。

それで、やったらウケたし楽しかったんですよ。

やってて、やりやすかったよね。しっくりきた。その結果、話を聞きつつ疑問があったら問いかけるという今の寄り添い型になったんです。

先輩方にも「おもしろかった」と言っていただけたので、やったね!って。

「どすこい」から始まったんですね。

そうです。

全部「どすこい」から。

「どすこい」的な、ああいう一定のリズムでやっていく要素って、それまでもネタの中にあったんですか?

まったくない。

うん、ないと思いますね。

突然出てきた。

ほんとに突然でした。

そもそも、ああいう機械的な動きや音楽がお好きなんですか? ああいう動きに対して「これだ!」ってひらめく芸人さんもなかなかいないだろうと思って。

うーん……テクノは好きですけどね。YMOと電気グルーヴが好き。

愛さんは?

私はSMAPだけ聴きます。

そうでした(笑)。けっこうウケもよかったしご自身たちの中でもハマっていた実感があったということは、そのあと似たようなネタを作ろうという感じでほかのものもでき上がっていった感じなんでしょうか。

『YMCA寿司』はそうですね。でも、それ以降は別に意識してないです。常に変えていきたいし。

でもまぁ、リズムは入れたほうがやりやすい。

結局、好きだから入ってしまうというのはある。

まねできない「リズムネタ」を作る理由

いつの時期からか、『M-1』では型やシステムを発明した人が勝つ、という流れができたじゃないですか。たとえばミルクボーイさんとかは、もう完全に型として完成されている。そういった感じで、新しい型を作ってやろう、という意識もなかったですか?

あまりなかったですね。というのも、型を突き詰められるタイプでもないなと思っていたので。

だから、『どすこい』と『YMCA寿司』は近いかもしれないけど、それがいったんもう自分たちの中でいいやってなって、次また新しいものを見つけようと思って作ったのが『餅つき』。そこは、私たちの中ではジャンルとして別なんですよ。

たしかに違いますね。でも、きっちりとしたリズムキープというところはつながっている。

なるほど、そうですね。だから、やっぱりリズムが好きなんでしょうね。

ということですね。

うん、リズムが好き。楽しいです。

一般的にリズムネタって、子供もまねしやすいじゃないですか。でも、ヨネダ2000のネタはまねできない芸ですよね。

でもそれはたしかに言われるな。

やっぱりそれは、きっちりとしたリズムキープがあるからこそで。あと、ヨネダ2000のネタは切り取れないじゃないですか。長尺で重ねて反復するからこそおもしろいわけで、そこから一部分のみを切り取ることができない。

たしかに、ただの普通の餅つきになっちゃいますよね。

そうなんですよ。反復させて長尺でやることによって別のかたちになっていくという意味で、すごく音楽的だなと思うんです。

おお~!

うれしいと思いましたね。

なんだよ、うれしいと思いましたって。誰かの意見みたいな。

いや、そんなこと考えたことなかったなって(笑)。

餅つきにうってつけのBPM

『餅つき』のネタを『M-1』でされたときに、きっちりBPM160だったというのが話題になりました。160に行き着いたのは、どういう経緯があったんでしょうか。

同じネタをやっていても、お客さんにウケる日とウケない日があったんですよ。それで、ウケない日の動画を見たら怖いぐらいにテンポが速くて。速っ!ってなったんです。

あれは怖かったよねぇ。

「ウケないわけないぞ」とか思ってたんですよ。絶対おもしろいはずなのに、って。だから、ウケない日の原因が絶対に何かあるはずだって考えたら、テンポが速すぎるんじゃないかというところに行き着いた。

それでリズムを決めたほうがいいかもねって話して、メトロノームを聞きながら「これくらいだ、160だ」って。

でも、最初は160もゆっくりに感じたんですよ。

うん。だからやっぱり、それくらい私たちが速くやってたってことだよね。

というか、その日の最初の「ワンツースリーフォー!」のテンポで全体の速さが決まるんで。

そりゃそうですね。

うん、だからやっぱりそこからがバラバラだったんですよ。そもそも私たちはネタのときに体内時計も狂ってるんで。

7〜8分かなって思ったネタが、18分だったことがあります。この間も、3分かなって思ったら4分半やってた。

BPM160を保つための稽古は、どのようなことをされていたのでしょうか。

160って決まってからは、そんなにやってないです。舞台ではネタとしていっぱいやりましたけど。

たしかに、楽屋ではあまりやってないかも。お互いが各々で160を聞いて、舞台上で合わせてっていう感じでやってました。愛さんが吹奏楽部だったから、リズム感が優れているんです。

私は、当時からメロディ楽器よりリズム隊が好きだったんですよ。だから、低音楽器をやっていたんです。低音って基本的にはリズムを刻むので、ソロでメロディを奏でるよりも好きだった。

そうやって、曲を支えるほうが楽しかったですね。そこで鍛えられたんだと思います。

誠さんは、愛さんのリズム感を聞いてやっぱり違うな、と思いますか?

やっぱりすごいですよ。自分が切っちゃったところに対して「そこ気持ち悪いよ」「あと2回必要」って言ってくれたりするし。

そうですね、一応私は4小節でやっています。だから「それだと3だから気持ち悪いよ」と言ったりする。

私はわからないんですよ。で、「ああ、1回少ない!」って何回も言われたことがあります。

『餅つき』のネタを見ていて思うのは、笑いは繰り返すことでおもしろくなっていく部分がある、ということです。一部を断片的に切り取っても別におもしろくないんだけど、繰り返すことでなぜかおもしろくなっていくという。あれって、なぜだと思いますか?

なんでだろう……。

もういいからじゃない? もう(やらなくて)いいのに、やってるから。

もういいよ長いよ、ってことか。たしかに。いつの間にか笑ってる、みたいな。

なるほど。アルコ&ピースさんの『しくじり学園放送室』に出られたときに「膝」のくだりでめちゃくちゃ引っ張ったりとか、おふたりはそういった長く引っ張る芸が多いですよね。

あれですね(笑)。たしかに、長くやるのが好きなんですよね。

やんなくていいのに。そういうのって、お笑い以外でもあるのかな?

それこそテクノやハウス、ヒップホップといったダンスミュージックは限られた小節だけだとあまり感じないのに、繰り返すことで快感になってくるという構造があると思います。

そうか、音楽も笑いも同じような原理なのかな。

「笑いはしないけど聴ける」っていう原理としては一緒なのかもね。

その一方で、ずっと反復して「もういいよ」って思ってる人もいるかもしれない なか、そこで曲が切り替わってまた戻ってくるパフォーマンスも多いじゃないですか。ああいった、曲がつながれていく気持ちよさみたいなところもヨネダ2000のネタにはありますよね。

それこそ『YMCA寿司』もDef Techが入りますし、『餅つき』もDA PUMPが途中でつながれる。あのへんは、早い段階から着想としては浮かんでいたんですか?

どうだろう……? 『どすこい』の長渕剛さんは、曲よりも登場人物が浮かんだのが先だった気がします。誰が出てきたらおもしろいかな?って考えて、それで長渕剛さんだ、って。

Def Techさんは、あの曲入れたいっていうのが先じゃなかった?

そっか。KENZOさんは人物が先だったな。でも「if…」ではなくオリジナルソングを歌ってたんですよ。配信ライブでもかけたかったから。それで、意味わかんないってなった。

ネタを同期に見せたときに、なんでKENZOさん出てきてるのにみんなが知らない曲やってるの?ってなって。

ネタ上、意外性のある人物が現れることが多いですよね。

そうですね、ネタ自体にはまったく必要ないのに出てくる、っていうのが好きで。だから、尺を縮めるってなったら平気でそこを縮める(笑)。本来ネタに必要ないので。でも、いたほうがやっぱり好きっていう。

まったく違うものがつながれるんだけど、でもそれがスムーズですよね。ぶつ切りにならずに、自然につながって次の展開に流れていくというのが非常にDJ的だなと思います。

うれしい。無理やり入れたいと思って入れてるだけなので……。

それって、何かしらの基準があるわけですよね。「これは入れよう」「これはやっぱりちょっとやめよう」みたいな。

それこそ、スムーズじゃなかったということだと思います。一回試しにやってみてしっくりこなかった。

流れがね。

だから、スムーズじゃないものを取り除いていく感じなんですよ。スムーズなものを探すのではなくて、そうじゃないものを取り除いていく感覚。それで、KENZOさんが一番スムーズだった。

あ~なるほど。それはおもしろい。

「しゃべくり漫才をやると、ルール違反しそう」

おふたりとも、王道の笑いよりはやっぱりちょっとひねった笑いのほうが好きなんですか?

でも、私はザ・ドリフターズとか『Mr.ビーン』とかも大好きなんですよ。

王道をやりたくないわけじゃないけど……。

そうそう、王道も大好きだけど、我々なりに考えると……。

どうせやるなら、新しいものをやりたいなと。

たとえば、しゃべくり漫才をやってくれというお題があったとしたら、やったりしますか?

やらせていただくとは思うんですけど、たぶんできない。

たぶん、そのしゃべくりの中に何か入っちゃうかもしれないね。

うん、たぶんルール違反しちゃうと思う。

それか、ルール違反ギリいかないくらいの、ギリ捕まらない程度の……。

まあ許せるけど、ぐらいのね。だから、しゃべくり漫才の方々とか見てるとマジですごいなと思います。

いや、マジですごいよね。

よしもと祇園花月っていう京都の劇場で、師匠とみなさんの漫才を観させていただいたことがあって。観ていたら愛さんが自分のほうを振り返って「これが漫才だ! 私たちは漫才じゃない!」って言ってきたんですよ(笑)。

楽屋にふたりで帰って、「あれはすごかったね」「ここがすごいよね」っていうのをずっとしゃべってました。たぶんできないし、作れない。

いやあ、すごかったよ。

3カ月くらい前に、一回ちょっと作ろうってなったんだけど、やっぱりできなかった。だから尊敬しますよ、しゃべくり漫才の方々は。

いつかぜひ楽曲も制作してほしいです。ミュージシャン側からのラブコールも多そうですし。

依頼はまだ来てないですねえ。

来てほしいけどなあ。

デモ音楽ライブには呼んでいただくことは多いんですけど、コラボはないです。

なんか音楽を一緒に作りましょう、はまだないね。これからがんばっていきたいと思います。


この記事の画像(全6枚)


この記事が掲載されているカテゴリ

Written by

つやちゃん

文筆家/ライター。ヒップホップやラップミュージックを中心に、さまざまなカルチャーにまつわる論考を執筆。雑誌やWEBメディアへの寄稿をはじめ、アーティストのインタビューも多数。 2022年1月に、初の単著『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)を上梓。

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。