元祖“甲子園のアイドル”愛甲猛が「野球コント」を辛口批評「お笑いはアホみたいにたくさん観てます」

2021.9.29

文=斎藤 岬 撮影=鈴木 渉 編集=山本大樹


今をときめくお笑い芸人たちの「野球コント」は、元プロ野球選手の目にどう映るのか? そのアウトローなイメージから“球界の野良犬”と呼ばれた元プロ野球選手・愛甲猛氏がコントを語る前代未聞のインタビュー、ここに開幕!

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1年生にして強豪・横浜高校野球部のエースとなり甲子園に出場し、3年時には同校にとって初となる夏の甲子園優勝へと導いた。その後は千葉ロッテマリーンズ(当時:ロッテオリオンズ)に入団。途中で野手へ転向し、ゴールデングラブ賞獲得、さらに535試合連続フルイニング出場という当時のパ・リーグ記録を樹立──野球ファンならすぐわかるだろう。“球界の野良犬”愛甲猛氏のことだ。

愛甲 猛
(あいこう・たけし)1962年生まれ、神奈川県出身。横浜高校のエースとして1980年夏の全国高校野球選手権大会優勝。同年秋、ドラフト1位でロッテ入団。入団3年目に打者に転向し、オールスター出場2回、ゴールデングラブ賞1回獲得。535試合連続フルイニング出場という当時のパ・リーグ記録を達成。1996年に中日移籍、代打の切り札として活躍する。2000年に引退

2000年の引退後、タレント活動もしている愛甲氏のことは、野球ファンでなくても知っている人は多いかもしれない。おそらくそこでのイメージは「コワモテの元プロ野球選手」といったところだろう。それは間違っていない。愛甲氏といえば、高校時代から数々のやんちゃ伝説に彩られた野球人生を送ってきた人物として知られている。

なぜ『QJWeb』でいきなり愛甲猛の話をしているのか? それは今回、「【総力特集】野球とお笑い」において、愛甲さんに野球コントを観てもらって感想を聞く企画を実施したからだ。芸人が「野球のここがおもしろい」「野球文化をこうやってネタにしたらおもしろい」と考えて作り上げたネタは、“球界の野良犬”にも通用するのか。それを確かめるべくおそるおそるオファーしたところ、快諾いただいた。

今回は計4本のコントを観てもらう。内訳は高校野球ネタが2本、プロ野球ネタが2本だ(なお、YouTubeに公式で上がっていたものの中から、取材時間との兼ね合いを考慮してセレクトした)。

と、その前に、まずは未知数過ぎる愛甲さんとお笑いの距離感を確認しておこう。

お笑い、大好きですよ。アホみたいにたくさん観てるし、芸人の友達もいっぱいいるしね。インスタントジョンソンのじゃいとか、太田プロに仲いい人が多いんです。一時期はよく『月笑』にも行ってました。

なんと、太田プロの事務所ライブの名前がここで出てくるとは! これはネタを観る目に期待が持てる。ではさっそく野球コントを観てもらおう。


「こんなことしてたら、もう試合出られないよ」

1本目はかまいたちの『スクイズ~サイテーな高校球児~』。『千鳥のクセがスゴいネタGP』(フジテレビ)でも披露した、人気のネタだ。YouTubeの概要欄によれば本人たちの「お気に入りコント」でもあるという。

再生ボタンを押すと──

3分あまりネタの間、この硬い表情を崩さない。そしてオチにくると「え!?」と声を上げた。どこが引っかかったのだろうか。

いや~、フリが長いしオチもわかんないね。スクイズ、スクイズって言ってるけど、ランナー走ってるんだから一発目でアウトになるでしょ。もうちょい何かオチがあるのかなと思ったら、最後ホームランって。嘘でしょ。野球やったことないのかな?(※)

※山内健司は中学、濱家隆一は高校まで野球部

野球のルールとネタの展開、両方から気になるご様子。今をときめく売れっ子も、愛甲さんのお眼鏡にはかなわなかったようだ。ちなみに、高校球児だったころ、このネタのようにサインを無視したことはあるのだろうか。

無視はないかなぁ。ミスはあるけどね。こんなことしてたら、もう試合出られないと思う(笑)。

正論過ぎる。愛甲さんが通っていた横浜高校は当時“ヨタ高(「与太者の高校」の意)”とあだ名されていたくらい、ガラの悪い学校として知られていた。不良ぞろいの野球部にあって、それを統率する指導者が厳しかったことは想像に難くない。

監督さんが怒って部員ひっぱたくのもしょっちゅうだったし、当時の野球部長なんか飛び蹴りしてましたね。びっくりしたもん、見たとき。

それはもうサイン無視などできる環境ではない。『スクイズ』のネタの野球部が和気あいあいとした部であることだけは確実そうだ。

とてもじゃないが記事には書けない高校時代の思い出を語る愛甲さん

やんちゃな高校球児・青木のモデルは……?

つづいては、空気階段のコント『野球部』。甲子園出場が叶わなかった3年生と監督が最後のミーティングを行っている場面のネタだ。鈴木もぐらが監督、水川かたまりが2年生の青木を演じている。

これ、誰ですか?

現在波に乗る空気階段だが、まだ愛甲さんまでは届いていなかった……! しかし再生を始めると、序盤の設定バラシである「青木がタバコを吸いながらパチンコを打っていたことが高野連にバレ、出場停止処分を受け」というセリフから「わはははは!」と大笑い。

「俺があんなミスしなければ先輩たちは甲子園行けたかもしれないのに」と、あたかも試合でエラーでもして足を引っ張ったかのような言い方をする青木に、「ミスって言うのはやめような、青木」と返す監督の言葉など、かなりのポイントでウケている。やはりこの手のネタには親近感があるのだろうか……と失礼なことを考えていると、オチのナレーションが流れた。

「翌年、青木くんは甲子園で優勝し、千葉ロッテに入団して、いい感じの女子アナと結婚した」

これには「んん!?」と反応。

なんで千葉ロッテなの?

やんちゃしながら甲子園で優勝してロッテに入団という、愛甲さんを彷彿とさせなくもないオチに「俺?」と笑う。

おもしろかったな~。「殴るのはよせ、青木は理事長の息子だ!」ってセリフで、「あるよなぁ、そういうの」って思いました。「なんでこんなやつが試合出てんだ」って思うと偉い人の息子だったとか、けっこうあったからね。未だにあるんじゃないかな?

意外と本当にあるらしい。嘘から出た真ならぬ、ボケから出た真である。

でも俺らの時代はタバコ吸ってないヤツのほうが珍しいくらいだったから、昔だったらネタにもならないよね。3年生の夏に優勝したあと、体育の時間に「お前、今日は授業出ないでいいから体育教官室に行ってくれ」って言われたことがあって。

何かと思ったら先生が3人くらいいて「悪ぃな愛甲、頼まれちゃったんだよ」ってサイン色紙がバーっと積まれてて、お茶とみかんがあるんですよ。それで授業中ずーっとサイン書いてたら、しまいには先生のひとりが「おう、タバコ吸うか?」って差し出してきたからね(笑)。

空気階段のネタはお気に召した様子

「ファンのために打ちました」なんて嘘だよ!


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