元祖“甲子園のアイドル”愛甲猛が「野球コント」を辛口批評「お笑いはアホみたいにたくさん観てます」

2021.9.29

「ファンのために打ちました」なんて嘘だよ!

3本目はやさしいズの『ヒーローインタビュー』。ヒーローインタビューは、漫才も含めてよくネタに使われる題材だ。やさしいズのコントは、ホームランを打った選手とインタビュアーの女子アナが実は夫婦で、ヒーローインタビューにかこつけてふたりでイチャイチャする……というかわいらしいネタである。

「(妻への)不満はあります」という選手に女子アナが顔を曇らせる場面で「『かわい過ぎる』とか言うんでしょ?」と、次に来るセリフを予想してみせる愛甲さん。「作るご飯がおいし過ぎて食べ過ぎちゃうことです!」という、当たらずとも遠からずな展開に「フフフ」と笑いをこぼす。

おもしろいんだけど、これもフリが長いよね。途中で笑いを取り過ぎちゃって、オチが全然オチになってない感じがするなぁ。もっとポンポン、細かくオチを作っていったほうがおもしろいような気がするけどね。

1本目のかまいたち同様、フリの長さとオチの弱さが気になったという。やさしいズのネタの再生が終わると、愛甲さんは現在の球界のヒーローインタビューへの思うところを語り出した。

俺、プロ野球選手がインタビューで家族のことを口にするのがすごく嫌いなんですよ。「打席に入るとき、何を思っていましたか?」って聞かれて「今日は子供の誕生日なので、絶対打ってやろうと思いました」とか言うでしょ。そんな余裕ないから!

「お前ら、よくそんな嘘つけるな」って思う。バッターボックスの中は修羅場なんですよ。どんな球が来るかわからないなかで、必死で考えて待ってるんだから。

「ファンのために打ちました」というようなフレーズも、今や常套句と化しているが……。

ウソウソ! 野球選手なんて、打ったときの歓びがものすごいから、ほぼそのためにやってるようなもんなんですよ。だからそんな理由なんてあとづけなの。

気持ちいいくらいの言い切りである。やはり“球界の野良犬”は、野球に対してもコントに対しても歯に衣着せぬスタイルだ。

やさしいズのコントから、プロ野球での真剣勝負の日々を回想する

「ホームランの約束」は実際にあった!?

最後となる4本目はバイきんぐの『お見舞い』(取材後、動画は非公開に)。

手術を控える病気の少年・西村瑞樹のもとをプロ野球選手・小峠英二が訪れるというストレートな設定。ホームランの約束をするも実際の試合になるとプレッシャーでまったく打てず、さらに実はカネを積まれてほかの子供とも同様の約束をしていたことが判明し……と展開していく。愛甲さんは頻出する「激ハゲ」が気に入ったのか、このワードが出てくるとウケている。終盤、「(少年のところに行ったのは)お見舞いじゃない、営業だ」という小峠選手の力強い言い切りにも「ははははは!」と爆笑していた。

おもしろいねぇ。

野球コントにおいて、「ホームランの約束」系の設定は大定番。定番過ぎてもはや「やり尽くしたのでは」と現役コント師たちが言うほどである。せっかくのこの機会、プロ野球選手にとってこの手のネタがどれくらいリアリティがあるのか聞いてみたい。実際に誰かとホームランの約束をすることなどあるのだろうか? そう尋ねると、愛甲さんは「うーん……あのー、これってけっこうまじめな雑誌(※WEBメディア)ですよね?」と問い返してきた。

釧路遠征のあとに福岡遠征が入ってたときがあってね、釧路で入った飲み屋のねえちゃんが「すごいファンなんです」って言ってきて、話の流れで一緒にご飯食べたんですよ。「次はどこに行くんですか」って言うから「福岡の平和台球場だよ」なんて言ってたら、翌日福岡のホテルに「来ました!」って電話がかかってきて。

だからチケット出してあげて、3塁側の家族席に観にくることになったんです。それで冗談で「俺が今日ホームラン打ったらやらせろよな」って言ってたら、ほんとにレフトにホームラン打った(笑)。そういう約束はありましたね(笑)。

『お見舞い』とは全然毛色が違うが、約束は約束ではある。

飲み屋で「ファンです! お願いですから明日ホームラン打ってください~」ってお声がけされるとかは、よくあることですよ。だから、僕はなかったけど、病院なんかで声がかかったりすることもあるんじゃないかな。

本当に「ホームランの約束」を実現した数少ないプロ野球選手かもしれない

「ホームランの約束」ネタの大元にあるのは、ベーブ・ルースが入院している少年と約束をしてワールドシリーズでホームランを打った逸話だろうと思われる。野球選手と社会貢献活動の距離は現在でもそう遠いものではない。

赤星憲広氏(元阪神タイガース)がシーズンの盗塁数と同じ台数の車椅子を寄贈したり、鳥谷敬選手(現千葉ロッテマリーンズ)が東南アジアの子供たちに靴を寄贈したりと、そうした例は数多い。変わりどころでは、小松聖氏(元オリックスバファローズ)が1ホールドにつき1万円など独自ルールに沿って愛犬団体に寄付を行っていたような事例もある。

そういうことをやる選手は多いですよね。僕も現役のとき、子供の施設への寄付はずっとしてました。ただ、日本の場合はまだまだ弱いと思う。アメリカだったら、メジャーリーグ選手のように高い給料をもらってる人が福祉活動をするのは当たり前で必須じゃないですか。そうしないと批判されるくらいで。

日本のプロ野球選手はそこまではやってないですよね。東日本大震災のときも、募金試合ってことで選手が募金箱持ってお客さんから募金もらっててさ。箱を向ける側が違うだろって思いましたよ。お金払って観に来てくれたお客さんに募金してもらうんじゃなくて、選手がまっ先に募金しなくちゃいけなかった。

あのときは開幕も遅れるんじゃないかってことでいろいろ議論になってたけど、プロ野球選手なんてものすごい高い給料もらってるんだから、たとえば年俸1000万円以上の人は毎月給料の3%を募金するみたいにすればよかったと思う。そういう発想がすぐ出てこないのが下手くそなんだよね。

飲み屋での「約束」のエピソードと高低差があり過ぎるが、それは確かに一理ある意見だ。

逆に、芸人さんがプロ野球界に向けてそういうコントをやってくれたらいいよね。俺のネタはやってほしくないけどね(笑)。

野球はもちろん、お笑いへの愛情も感じるインタビューだった

この記事の画像(全10枚)


この記事が掲載されているカテゴリ

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。