頓知気「演技じゃなく、本当に緊張しちゃいました」

撮影は、今回のMVのテーマともいえる告白のシーンまで、順調にすすんだ。監督が作成した絵コンテには、「フラれたが清々しい表情を浮かべる」とのメモがある。頓知気はこのシーンの撮影前、松本監督に声をかけ、なにかをたずねていた。どんなコミュニケーションをとっているのだろうか。後に松本監督に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「『これはどういう感情なんですか？』って訊かれてたんですよ。気持ちの動きを大事にしてたんだろうし、わからないことをそのままにしたくない、っていう思いだったんでしょうね。本人は心配してたけど、動きも表情もすごくよくできてて、イメージ通りでした」

慣れない演技に向き合うひたむきな姿が印象的だった頓知気。移動の車内で、編集部のインタビューに応えてくれた。

「歌自体が電車を舞台にしているので、自分のソロシーンが駅で撮影されるって聞いたときは、重要なポジションを任せていただけるんだな、頑張らなきゃと思いました。相手役だった久保くんは普通の友達というか、恋愛的に好きなわけではないから（笑）、好きって言うシーンは照れくさすぎて……恥ずかしかったです。松本監督から『緊張している演技で』と言われたんですけど、演技じゃなく、本当に緊張しちゃいました。
MVって最終的にセリフが消されるから、どういう顔すればいいのかなってずっと不安だったんですけど、今日、佐久間さんにほめてもらったんですよ！　『大事な日に仕上げて来たな、今日すごい可愛いよ』って。撮影終わりにも、『よかったよかった、すげえよかったよ』と声をかけてくれて。きっとみんなに言ってますけどね（笑）。でも、最初と最後に褒めてもらえたので、私きっと大丈夫だったんだろうな、って安心しました。まだほかのメンバーのソロシーンを見てないので、どんな完成形になるのか、楽しみが残ってます！」

佐久間P「全員主役になれるようなものにしようと思った」

公園に場所を移し、13人全員でのダンスパートの撮影が始まった。実は早朝にも撮影していたというこのシーン。番組で学級委員長を務める日々野は、「朝は気温が低すぎて体が思うように動かなくて……表情もかたくなっちゃったんです」と振り返っていた。すこし寒さも和らぎ、日の光がまぶしい午後3時。衣装に着替えたメンバー達は撮影前、スキップをしながら元気に広場を走り回っていた。

カラフルに色づいた落ち葉をスタッフが袋いっぱいに拾い、大型のサーキュレーターでメンバーの頭上に舞い上げる。「すごーい！　MVっぽい！」と無邪気な声を上げるメンバーたち。そのリアクションに、スタッフ達も顔をほころばせている。繰り返し何度も楽曲のサビ部分を流しながら進むダンス撮影。全員そろっての練習は数えるほどしかできなかった、と言っていたけれど、フォーメーションチェンジもとてもスムーズだ。同じパートを何回撮っても動きがダレることはなく、むしろどんどんキレが増していく。「10分しか 一緒にいられない」という歌詞に合わせて胸を抱きしめる振付で全員が浮かべる、初恋の切なさに耐えるような“ギュッ”とした表情がたまらなく印象的だった。

この日撮影をそばでずっと見守り、演出をつけていた佐久間Pは、今回のMVへの思いをこう語る。

「13人しかいないから、せっかくデビュー曲だし、全員主役になれるようなものにしようと思って。海だったり、先生に恋したり、シチュエーションは僕がそれぞれのメンバーの性格を考えて、監督とも相談しながらアテ書きしました。バラエティ番組から生まれたアイドルですから、まずはそれぞれのキャラクターと、どんな可愛いポイントがあるのかを、このMVで見る人にわかってもらうところからだな、と思ってます」

新しいスタートを切った、青春高校3年C組アイドル部。自分たちの魅力をめいっぱい届けようと歌って踊る13人の姿は、輝かしい青春の１ページをそのまま体現したような、明るいパワーで満ち溢れていた。