予備知識ゼロの『劇場版 呪術廻戦 0』レビュー|『呪術』は1時間45分の「放課後」である

2022.1.11
予備知識ゼロの『劇場版 呪術廻戦 0』レビュー

※トップ画像=『劇場版 呪術廻戦 0』通常版パンフレットより
文=相田冬二 編集=森田真規


2021年12月24日に封切られた映画『劇場版 呪術廻戦 0』。『週刊少年ジャンプ』で連載され、テレビアニメの放送をきっかけにブームになったという類似点から『鬼滅の刃』と比較されることも多い同作。

ここでは、公開から15日で観客動員490万人を突破した『劇場版 呪術廻戦 0』を、アニメでもマンガでも『呪術廻戦』に触れたことがなかった映画批評家の相田冬二が、予備知識ゼロでレビューする。

「私にとって『呪術』は、ずっとこの情緒が継続している1時間45分の物語=放課後であった」と評するに至った経緯とは──。

※この記事は『劇場版 呪術廻戦 0』のネタバレを含んでいますのでご注意ください。


「大丈夫じゃないですか。エピソード0なんだし」

大学生や大学院生の知り合いが何人かいて、彼らは私にとって「若者たち」ということになるのだが、当然のように全員『呪術廻戦』を読んだり観たりしている。で、みんな言うのだ。

「『鬼滅』もおもしろいけど、『呪術廻戦』はめちゃめちゃおもしろいですよ」

1年ほど前、予備知識ゼロで『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を観て文章を書いたが、とても楽しかった。なので、彼らに「『呪術廻戦』も予備知識ゼロで映画観ても大丈夫かな?」と聞いてみた。

「大丈夫じゃないですか。エピソード0なんだし」

まだ映画が公開される前のことである。

なるほど。エピソードもゼロなら、私の予備知識もゼロ。0×0=0。納得して、映画館に行って観た。

おもしろかった。

映画が終わって、お手洗いに行くと、小学生たちが熱く語り合っている場面に遭遇、その光景もめちゃくちゃおもしろかった。

『鬼滅』が「授業」だとするならば……

『劇場版 呪術廻戦 0』予告

第一印象。

そうか、学園ドラマだったのか。

なにせ、知識がゼロなので、取っかかりが皆無である。なので、あえて比較対象として召喚するが、『鬼滅の刃』(劇場版しか観ていないが)が正統派の「授業」だとするならば、『呪術廻戦』は「放課後」、あるいは「部活」である。

両作をスクールライフとしての観点から捉えると、『鬼滅』は生真面目、『呪術』はカジュアル。『鬼滅』にもコミカルな描写は挿入されていたが、基本的に真っ当で豪速球。対して『呪術』はかなりくだけた印象だ。ふざけてる、という意味ではない。品のよい、お気楽さがある。いい感じの、力の抜き加減。ほどよい湯温。長湯もできそうである。

命を燃やす『鬼滅』は、いい意味で高温、江戸の古き良き銭湯みたいだ。さっと入って、さっと上がる。私は、熱いお風呂も好きだが、まったりとゆるゆる楽しめる温泉も好きで、『呪術』は後者だなと思う。いろいろあるスーパー銭湯、的な。

カジュアルな放課後。とはいえ、不良性は微塵も漂わないところが現代的。ヤンキーはいないし、ダークな雰囲気もない。危なさがなくて、安心して、湯けむりに包まれる。

原作のサブタイトルに『東京都立呪術高等専門学校』とあるが、本チャンの授業より、アフタースクールの情景が記憶に残る。

たとえば、この映画の主人公(エヴァのシンジと同じ声優さんだ)と、メガネの女の子が、闘いの練習をしている。それをパンダと、おにぎりの具の名前しか基本的に口にしない少年が眺めている。で、そこに、先生(この人がめちゃめちゃ強いのだと、前述した大学生や大学院生たちは声をそろえる)が様子を見に来る。シーンの終盤では、メガネの女の子とパンダが取っ組み合いのケンカ(というか、じゃれ合い)をしているが、一連の流れも含め、この場面に最も『呪術廻戦』を感じた。いいムードだ。とてもいい情緒だ。

『劇場版 呪術廻戦 0』公開記念ナビ特番 東京都立呪術高等専門学校 学校案内

いうなれば、私にとって『呪術』は、ずっとこの情緒が継続している1時間45分の物語=放課後であった。考えてみれば、自分がティーンエイジャーのころの放課後ってだいたい1時間45分くらいの感覚だったよなぁとも思った。2時間でもなければ、1時間半でもなく。1時間45分が放課後。

「言葉の素」を繊細に扱っている作品


この記事の画像(全7枚)


この記事が掲載されているカテゴリ

相田冬二

Written by

相田冬二

(あいだ・とうじ)ライター、ノベライザー、映画批評家。2020年4月30日、Zoomトークイベント『相田冬二、映画×俳優を語る。』をスタート。国内の稀有な演じ手を毎回ひとりずつ取り上げ、縦横無尽に語っている。ジャズ的な即興による言葉のセッションは6時間以上に及ぶことも。2020年10月、著作『舞台上..

CONTRIBUTOR

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

「金借り」哲学を説くピン芸人

お笑い芸人

岡野陽一

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

ドイツ公共テレビプロデューサー

翻訳・通訳・よろず物書き業

マライ・メントライン

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

7ORDER/FLATLAND

アーティスト・モデル

森田美勇⼈

ケモノバカ一代

ライター・書評家

豊崎由美

VTuber記事を連載中

道民ライター

たまごまご

ホフディランのボーカルであり、カレーマニア

ミュージシャン

小宮山雄飛

俳優の魅力に迫る「告白的男優論」

ライター、ノベライザー、映画批評家

相田冬二

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

若手コント職人

お笑い芸人

加賀 翔(かが屋)

『キングオブコント2021』ファイナリスト

お笑い芸人

林田洋平(ザ・マミィ)

2023年に解散予定

"楽器を持たないパンクバンド"

セントチヒロ・チッチ(BiSH)

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

「お笑いクイズランド」連載中

お笑い芸人

仲嶺 巧(三日月マンハッタン)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)
ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん(ランジャタイ国崎和也)
竹中夏海
でか美ちゃん
藤津亮太

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。